物思う秋
- カテゴリ:自作小説
- 2011/10/03 22:24:08
【もの想う秋】
♪ Fry me to the moon. ( 私を月に連れて行ってよ )
...and let me play among the stars ♪ ( 多くの星達の中で遊んでみたいのよ )
・・・
操作盤の、( VENUS )と表示されたスイッチを右に捻ると、青白い光に包まれた
ドーム型のスクリーンに、金星、...明星が浮かび上がった。
次に(TWILIGHT ) のスイッチを左に絞って行くと、スクリーンは薄闇から、
次第に濃い闇に変わって行き、やがて真っ暗闇に変わると、1949年米国製の
古い天体映写機から投射された、星が一面に映し出された。
南の空に、赤く輝く星アンタレスが心臓部分にある、さそり座
天頂からやや東寄りの空に、デネブを尾にした白鳥座
映し出されているのは、夏の夜に広がっている、星空だ。
僕は暗闇の中で、隣にいる摩耶に、一通り、夏の星座の説明をした。
天頂近くの高い所に、わし座のアルタイル(彦星星)とこと座のベガ(織姫星)が
南北に流れる天の川を隔てて向かい合っている。
「彦星と織姫の愛って、これからも、ずっといつまでも、変わらずに続いていくのね。」
摩耶が言った。
(星として存在している以上、僕らの時間感覚で言えば、永遠に近い間、
ずっと変わる事はないだろう...)
僕は思った。
・・・
♪ In other word, please be true... ♪
(想う事は...ずっとそのままかわらないでいて欲しいって事...)
店の中に、ジャズのスタンダード・ナンバー(FRY ME TO THE MOON) が流れている。
僕は遠い夏に、町のプラネタリウムで星の説明員をしていた頃、
休館日の誰もいない日に、その頃、付き合っていた彼女と入り込んだ時の事を、
思い出していた。
彼女が今、どこでどう暮らしているのか知らないし、僕の生活環境も、世の中も
あれから、ずいぶんと変わってしまった。
僕はグラスに残ったビールを飲み干した。
感想頂きありがとうございます。
これはもともと1000文字以内って、課題用に書いたものなので
雰囲気の描写で手一杯でした。
掌編ですね
やはり、夏の星座で、ビールだと夏の印象になりますか><
はじめ、別の飲み物で(グラスを振ると中で氷がカラカラと、音をたてた。)って
考えてたんですが、文字数がきつかったんで、ビールにしました。
僕は季節を問わず、ビールを飲んでるんで何とかなるんじゃないかとかもちょっと
考えてみたりしたんですが、ちょっと甘かったかも知れません。
タイトルだけで、季節感をカバーするのは強引過ぎたかも..w
恒星の固有運動...正直なところ、そこまで考えてなかったですw
ジャズの歌詞や星座を効果的に取り入れて、静謐でロマンティックなラブストーリー、とても「うつくしい」作品を堪能させていただきました。
ありがとうございます。
ちょっと気になったのが、秋に遠い夏の日の出来事を思い出しているのですが、夏の星座で最後の締めくくりがビールだと、読後の印象が「夏」という風に感じられてしまいました。
彼も当時より年齢を重ね、生活環境も変わったということなので、ビールを秋を感じさせる飲み物。
例えば熱燗の日本酒とか、カフェオレとかにされたら、一層秋に物思いにふけっている感じが深まるような気がいたしました。
それと、細かいことにこだわって申し訳ありません。
かいじんさんは、星のことにもお詳しいようなので。
> (星として存在している以上、僕らの時間感覚で言えば、永遠に近い間、
ずっと変わる事はないだろう...)
これは、恒星の固有運動を踏まえての記述でしょうか。
すみません。
とても気になったので。