Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


契約の龍(22)

 「…よく考えたら、どうして俺がここにいるのか、解らないんだが」
 「まあまあ、どうせ別に、休暇中行くところの当てもないだろうに」
 当てがなくても一向に困らないが。
 「でも、こうしている間に、セシリアがまた熱を出したりしていたらと思うと…」
 「アレク。ポチを預けてから、セシリアはそれほど大きくは体調を崩していないだろう?セシリアがアレクの不在を寂しがって体調を崩す、というなら別だが。それに」
 華やかだが、地味な色の少女服に身を包んだクリスが口を挟んだ。クリスの歳ならば、成人用のドレスでもよさそうなものだが。
 「セリフが棒読みだ」
 「悪かったな」
 クリスがくすくす笑うと、毛先を丁寧に巻いた、プラチナブロンドが揺れる。両サイドから取った髪を、後頭部で留め、細い黒リボンで結んでいる。自前の髪ではあるが、鬘だ。この長さの鬘が作れるのなら、元の長さはどれだけあったんだ?
 窓の外に目をやると、窓を弔い用に装飾した館が近づいてくるのが目に入る。
 「ところで、俺たちはどういった役どころで来ているんでしょうか?」
 「遠縁の親戚」
 クリスが手を上げて言った。
 「恩師」
 学長が続く。
 二人とも、まんまじゃないか。
 「…じゃあ、俺は?」
 「…野次馬?」
 「…帰る。今すぐ、帰らせてもらう」
 「クリス。アレクを苛めないでやってくれないかね?それに、そろそろ館に着くから、笑いは納めないと」

 ハース大公の棺は、玄関ホールを入って右手の、大広間に安置されていた。魔法使いが一人ついていて、遺体の腐敗を遅らせている。
 荷物を玄関ホールにひとまず置いたまま、棺の様子を見に行く。
 「…生きている内にお会いしとうございました」
 クリスが神妙に別れの言葉をつぶやく。
 棺の中に横たわる老人とクリスとの間に、容貌の相似は見出せない。
 遺体との挨拶を済ませ、用意された部屋へ移る。
 並んだ三部屋が用意されており、クリスの部屋を挟んで、右に学長、左に俺が入ることにした。
 「埋葬は、明後日の正午、でしたね?」
 学長が部屋に案内してくれた召使いに尋ねる。
 「はい、朝十時に棺を搬出し、墓苑の方へ移動致します。そこで最後のお別れを。それまでは自由にしていて構わない、とのことです」
 「未亡人にご挨拶したいのですが…」
 「大奥様は、昨夜寝ずの番をしていらしたので、現在お寝みになっておいでです。夕食のときには食堂におられると思いますが…いかがいたしましょう?」
 「そうですね……お起きになったら、こちらの方へ使いを寄越してください」
 「かしこまりました。えーと…」
 「王立魔法学院のケルヴィンです」
 「えーと、魔法学院、ケルヴィンさま。はい、承りました。あ、魔法学院の方なら、使いが人でなくても驚いたりされませんよね?」
 「はい、大丈夫ですよ」
 「ありがとうございます。今、人手が足りなくて、使えるものなら妖精でも精霊でも、という状態で。何かご用がありましたら、ベルがありますので。では、ごゆっくり」
 人手が足りない、と聞いたクリスが、手を貸したそうな顔をしたが、何とかこらえたようだ。
 「ちょっと早く着きすぎたんじゃないか?丸一日以上あるが」
 「大丈夫ですよ。ジリアン殿下が今日夕刻、陛下が明日の昼過ぎにみえられることになっているので。他の王族にお会いしたかったのでしょう?クリスは」
 眠れる王子以外は大集合だ。
 「…陛下が?」
 「ええ、夕刻には帰られるそうですが。葬儀には参列されませんので、前日にお別れをしに。クリスの顔も見たい、とのことでしたが」
 クリスの方に目をやると、何やら考え込んでいる。
 「…ちょっとしたおねだりとか、できそうな状況かな?」
 「あくまで非公式な訪問なので、時間が取れるようならできるんじゃないでしょうかね。仮に取れなくても、そう聞いたら無理にでも時間を作ると思いますよ、あの方は」
 「お願いって…眠れる王子のこと?」
 「…王子?」
 「眠れる元王子。クレメンス大公のことだ」
 「ああ……なるほど。あの方は、眠っている間に王子から元王子になってしまったんですねぇ。なかなか巧いことをおっしゃる」

#日記広場:自作小説




カテゴリ

>>カテゴリ一覧を開く

月別アーカイブ

2023

2022

2021

2020

2019

2018

2017

2016

2015

2014

2013

2012

2011

2010

2009

2008


Copyright © 2025 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.