Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


契約の龍(32)

 「うわぁ……広ぉい」
 案内された部屋に入って、まずセシリアがこう言った。同じ感想を俺も持ったので、案内してくれた使用人にもう少し小ぢんまりとした部屋はないのか、と尋ねたが、聞き入れてもらえなかった。
 「ここなら、リンちゃんも自由に飛びまわれるかなあ?」
 セシリアが鞄の一番上に入れていた人形を取り出して言う。
 「どうだろう?何しろこのお城には、怖い龍がいるらしいから、どっかにとまったとたん、パクってやられちゃうと困るしな。…念のためクリスに聞いてみてからの方がいいんじゃないかな」
 「怖い龍?そんなのがいて、お城の人は平気なの?」
 「人を襲うわけじゃないから、普通の人は平気。魔法使いは、ちょっと困る、かなあ」
 「…お兄ちゃんは、大丈夫なの?魔法使いでしょ?」
 まさか、その怖い龍に立ち向かうお姫様のお手伝いをする羽目になるかもしれない、とは、言えない。
 「大丈夫だといいねぇ。まだ見習いだから、見逃してもらえるかもしれないし」
 セシリアの表情が曇る。
 「お兄ちゃんまで居なくなったら、やだよ?」
 「それなら、大丈夫。人は襲わないって言ったろ?魔法使いが困る、っていうのは、魔力を取られちゃうかもしれないって事。苦労して覚えた魔法が使えなくなったら、困るからね」
 「……ほんとに?」
 「でも、俺だって、魔力を取られたら困るから、そうならないように祈っといてくれ」
 「うん。……でも、誰に?」
 「…そうだなあ……さしあたり、その怖い龍に、かな」

 「荷物は片付いた?」
 部屋の奥の方から、クリスの声がした。何でだ?と驚いて声のした方を見ると、窓の外からクリスが覗き込んでいる。
 「…もしかしたら、部屋を入って一歩も動いてないんじゃない?」
 「あ、クリスちゃんだ」
 セシリアが人形を抱えてクリスに駆け寄る。
 「ねえ、リンちゃんを出しても大丈夫?」
 「リン…?」
 ちょっと首をかしげる。やがて、「ポチ」と自分が呼んでいるモノの事だと思い至ったようだ。
 「……そう、ねぇ。この部屋の中なら、大丈夫。でも、人が来たら、「ハウス」を忘れないようにね」
 セシリアが人形からリンドブルムを出し、飛ぶ様子を嬉しそうに眺める。
 「この室内は、遮蔽済みなのか?」
 「もともとこの一角は、外国の要人とか、王族とかを滞在させる部屋だから、礼儀として「龍」の力が及ばないように造られている、と聞いている」
 げ。そんな部屋に入っていいものだろうか。
 「広くて落ちつかないのはわかるが、慣れろ。私なんか同じ広さに一人なんだぞ。…言っとくが、私の田舎の家は、こことほぼ同じ広さで、四人住んでたんだからな。学長の家の方が、よっぽど広い」
 それなら俺が十歳まで育った家の方が…と言いかけて、やめた。家の狭さ自慢をするよりも先に、荷物を片づけないといけないのだった。
 「ああ、そうだ。前以て言っておくが、セシリアに連日荷物が届くかもしれないが、固辞したりしないように。断ると、次の日には、倍の荷物が届く」

#日記広場:自作小説




カテゴリ

>>カテゴリ一覧を開く

月別アーカイブ

2023

2022

2021

2020

2019

2018

2017

2016

2015

2014

2013

2012

2011

2010

2009

2008


Copyright © 2025 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.