Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


契約の龍(33)

 「………は?どうしてだ?」
 「セシリアは飾り甲斐がある子だからな。王妃に会わせたら、一時間以内に寸法を取りに仕立屋の団体が来る、と思う」
 「飾り甲斐、って……縁もゆかりもないのに、なぜ?」
 「言ったろう?王妃には子供がいないって。ジリアン大公によれば、今後も望めないらしい。代償行為、ってやつだろう」
 「代償……」
 「さすがによその国の王子王女にまではやらないが、大使、公使が子供連れで来ると、少なくとも一着は贈らずにはいられないらしい」
 いくら子供がいないからって、程度というものがあるだろう。
 「私も去年、たくさん作ってもらったのだが、何しろフリルやらリボンやらレースやらがいっぱいついたデザインがお好みらしいので、動きにくい事夥しい。途中から仕立屋に頼んで、飾りは取り外せるようにしてもらった」
 「…まさか、それでセシリアを連れて来いって…」
 「まあ、そういう意図がなかった、とはいえないな。アレクを借りっぱなしじゃ、セシリアに悪いっていうのも、もちろんあるが。あとは…」
 クリスが鋭い声でリンドブルムを呼ぶ。あたりを飛び回っていたリンドブルムが滑空してきて、クリスの腕にとまる。
 「ポチを元気にしてくれたお礼。ずいぶん色つやがよくなった」
 セシリアがリンドブルムを追って、駆け寄ってくる。
 「やっぱりクリスちゃんの方がいいんだなあ、リンちゃんは」
 「私の方が、付き合いが長いからね」
 空いた方の手でリンドブルムの頭や顎を撫でたり、翼の裏を点検したりする。ひとしきり点検した後、セシリアにリンドブルムを渡してやりながら、ついでのようにこう言い放った。
 「ああ、そうだ。一通り落ち着いたら、午後の茶会に来るように、と王妃様に呼ばれているから、おめかししといてね。頃合いになったら、呼びに来るから。今度は、ちゃんとドアから」

 マルグレーテ王妃は、儚げな感じの線の細い女性だった。髪と目の色だけを取れば、クリスと親子、と言っても通じそうだ。
 その王妃は、クリスの髪が短くなっているのを見て、たいそう心を傷めたようだ。
 「性質の悪い男子学生のいたずらのせいで切らざるを得なくて。幸いな事に、その男子学生は退学になりましたけれども」
 事実の程度と因果関係を曖昧にぼかしてクリスがそう説明する。相変わらず「嘘ではないが、全くの真実でもない」ことをかたるのがうまい。いったい頭の中はどうなっているのやら。俺に話して聞かされている話の中にもそういう事柄が入っているのかもしれない。
 「クリスティーナは、学院ではどんな様子ですの?」
 王妃がお茶のカップをこちらに寄越しながら、そう訊ねる。
 「何しろ見た目がこれですので、何かと注目を浴びていますね。授業を休んだりしようものなら、いったいどうしたんだ、という問い合わせが殺到して。……授業中の様子までは判りかねますが、おおむね、教師からの評判は悪くないです」
 「教師からの評判なんて、どこから入手……ああ、学長先生から?」
 「学長先生?」
 「この兄妹は、学長先生が後見人になっているんですの。詳しい事情は伺っておりませんが、亡くなったご両親が学院関係者だとか」
 「まあ、では、ご両親とも魔法使いでいらしたの?」
 「それを職業としていたわけではありませんが、一応。父方、母方とも親戚はみな遠方に住んでいるので、いずれはどうせ学院に入るのだから、と学長がおっしゃったので、お言葉に甘えて御厄介になっています」
 セシリアが何か言いたげな顔をしているが、自分に質問される前に口をはさむのはマナー違反だから、と釘をさしてある。
 「学長先生自ら手元に置きたがるなんて、かなり優秀でいらっしゃるのね」
 「いえ……手ほどきを受けたのが、幼いころだったので、上達が早く見えた、というだけではないかと」
 「手ほどき?」
 「幼い?」
 二方向から説明を促す声が上がる。セシリアまでもが興味深そうな目でこちらを見る。
 覚悟を決めて、恥をさらすとしよう。

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