11月自作/「波『遺伝子という波』」
- カテゴリ:小説/詩
- 2011/11/19 03:50:11
父が亡くなった8年前。3人で父の部屋を片付けていた時のことだった。
「お母さん!これどうすんの」
荷物の引っ張り出し役をやらされていた弟が、押入れの一番奥の収納ボックスから古いアルバムを1冊見つけて大声で叫んだ。狭い4畳半の部屋中に、母の動かす掃除機の音が響いていたからだ。
その黒い厚手のアルバムは、雑巾がけ担当の僕の手を経由して母の手へと渡った。
母は掃除機を止めてアルバムをめくり始めた。
そこには父の小さい頃の写真が貼ってあり、それと知らない僕と弟は、掃除機が止まったことを不思議に思い、ひょっこりと押入れから顔を出した。
そのとき母は、何とも言えない穏やかな顔でゆっくりとページをめくっていた。この数週間見たことのない顔だった。
アルバムに見入っている母の後ろに回った僕は、「お母さん。これお父さん?」と、子供を抱えて写っている男の人を指差した。また弟は、僕が指差した隣りの写真を見て、「あっ、兄ちゃんだ」と、叫んだ。
すると、母はこれ以上ない笑顔で僕と弟を見ながら、「いいや。こっちはお前たちのおじいちゃん。こっちはお父さんだよ」と応えた。
子供を抱えた父そっくりの祖父とすべり台の前に佇む僕そっくりの父。そして、それを見ている僕と母によく似た弟……
『遺伝子という波はこうして続いていくのだろうか』と、僕は何とも不思議な気持ちになった。でも、それはとても気持ちの良いものに感じた。
…おしまい…
故人となってしまったお父さまのお部屋の片づけ。
それはさみしい作業であるのと同時に、ひとつの区切りでもあるんですよね。
亡くなるまでの辛い時間をやり過ごしたあとの、柔らかいひととき。
素敵なお話をありがとうございました^^
家族っていいですよね
やっぱり
僕は(波)のお題で海岸に打ち寄せる
波以外、思い浮かびませんでした。
目から鱗が落ちました。
8年前と言うことですので、今、そのアルバムがどうなったか気になります。