Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


契約の龍(35)

 「炭、というよりも、あれは、蜂蜜のかかったレンガだったと思うの。硬くて歯が欠けちゃったのよ。乳歯だったからよかったけど」
 「歯が欠ける程、硬い、ケーキ…………」
 王妃のあきれたような視線が痛い。
 「念のために聞くけど、それを作ったのって、やっぱり…………アレク?」
 クリスの問いに、セシリアが大きくうなずく。
 「ついでに言うと、オーヴンが焼けて、台所も、半壊」
 「半壊、までは行ってない。修理が入るまでの一日二日焦げくさかっただけ……です」
 「そのケーキは…魔法を使って?」
 「いえ…こっぴどく叱られて以降は、――学院に入るまでは――大人の監視のないところでは、使わないようにしていましたので……純粋に材料の調合ミスか、手順の誤りです。で、魔法同様、料理も大人の監視のないところではするな、と」
 女性三人が揃って声を上げた笑う。
 セシリアに場面転換を任せるんじゃなかった、と後悔する。
 その後、お茶会の流れが俺にとって居たたまれないものになったのは……必然だったのだろうか。

 精神的に多大なダメージを負った茶会から四日間、俺は茶会への出席を拒み続けた。どうせ王宮にいるのならば、とダメ元で願い出た「歴史編纂所」への閲覧申込みが受け入れられたからだ。
 編纂所は、噂で聞いたほどカオスに満ちた空間ではなかったが、生の資料と、歴史となった古い資料とが混じり合う、一種独特の雰囲気を持った場所で、そこで働く人たちも、それぞれ、独特の雰囲気をまとっていた。できれば休みの間中ここに入り浸っていたい、と思い始めた矢先、クリスが、翌日の午前の茶会には、必ず参加するように、との指示を受けた。
 「陛下が、ぜひ一度、アレクと話がしたい、との仰せで。…アレクの人となりが分からない状態では、クレメンス大公への面会は許可できない、と」
 それはまあ、当たり前だろう。俺が彼の立場でも、きっとそう言う。
 「で、明日の午前中に時間を空けたので、……アレクと差しで話がしたい、と」
 「差しで、って……王妃殿下の茶会ではなかったのか?」
 「名目はそうなんだけど…途中から私たちは席を外すように、って」
 いずれはそういう事になるだろう、とは思っていたが、まさかいきなり本人と差しで話し合う羽目になるとは…
 「ここで俺が陛下に会うのを拒否したり、俺が面接に不合格だったりしたら、クリスは困るんだよな?」
 「かなり」
 「…やれやれ。責任重大だな」

#日記広場:自作小説




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