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「さくら亭」日報


『金星特急』レビュー

嬉野君著『金星特急』新書館ウイングス文庫、既刊4巻近日5巻発売予定

ある年の6月にひとりの少年が東京駅から列車に乗ろうとするところから物語は始まる。
列車は「金星特急」と呼ばれるようになった神出鬼没の白い車体。
「金星特急」は謎の美女、金星が花婿を招くため遣わすものらしい。
花婿になった男にはこの世の栄華が与えられるという――。

世界は、私たちの住む地球に地理や歴史が重なりつつも違う、
いわゆるパラレルワールド。
この世界では200年前に世界語(シージエーユー)という共通言語が使われるようになり、
その世界語を広めた純国語普及委員会(通称:純国普)が巨大な権力を持つ。
世界は覇権を争って各地で紛争が続くばかり。
日本はその中では平和を甘受していた稀有な国。
突如世界に現れた金星とは何者で超常的であるらしい彼女の能力と目的とは。
彼女が出現させた金星特急の目的地はどこにあるのか。
次に金星特急が停車するのはどこなのか。
最終的に生き残り、花婿として選ばれるのは誰なのか。
謎また謎。
花婿候補として金星特急に乗り込んだ者は途中下車を許されず、
また始発駅以外からの途中乗車も許されない。
そのふたつを破った者には罰が与えられるのだ。
そして花婿候補として乗り込んだ人物たちに容赦なく下され続ける試練。

金星特急というタイトルだったので999のように空を飛ぶのかと予想していたのに、
あくまでも列車は線路の上を走り続ける。
ただし突如現れるので各国の列車ダイヤは乱れまくり。
追跡もたまたま軌道が一致したりすると消失させられてしまうので
飛行機のダイヤさえも狂いまくり。かなり迷惑。
東京から上海(なんと海上に橋がかかっている!)、真臘(しんろう、カンボジア)、
吐蕃(チベット)から中央アジアを抜け欧州方面に向かっているらしい。

淘汰されていく花婿候補たちもまた、それぞれが事情と謎を抱えている。
金星にひとめぼれをしたからと無邪気に天真爛漫にふるまう
主人公、錆丸(さびまる)もその例外ではない――。

錆丸は花婿候補たちの中で一番若く、知能や戦闘能力を持たない。
東京駅のホームで知り合った砂鉄とユースタスのふたりと同じコンパートメントに入り、
3人は力を合わせて降りかかる試練を潜り抜けていくことになるが。

謎に満ち溢れた物語や、似ているようで違う各国の様子なども面白いが、
曲者揃いの登場人物たちも面白い。
圧倒的な戦闘能力やサバイバル能力を持つが協調性ナニソレ?な一匹狼の砂鉄。
見た目は白馬の王子様な騎士であるのに異常食欲のユースタス。
のサブメインの二人のほか、途中で仲間になる本物の王子アルベルトは
好奇心旺盛な学者だが冷徹かつ老獪。
物語の中でも重要な位置にある傭兵部隊「月氏」にはとりどりの魅力的な人物ばかり。
でもこの物語はどれほど魅力的な大人たちが出てこようが、
やはり主人公錆丸あってと思わずにはいられない。
まっすぐな瞳で人を魅了する少年の成長物語でもあるから。
物語は進むにつれてますます面白く目が離せなくなっていくという美味しさだしね。

この『金星特急』は季刊「小説wings」にて連載中。
5巻がこの10日に発売ということで、そのときに一挙購入&一挙読破をと思っていたのに
我慢できなくて4冊買って、昨日から夢中で読みました。
(なのでニコタすらインできませんでした)
それに、発売予定の5巻のメイン部分はよく考えたら連載で読了済みだったので。
おまけ小説が楽しみだからもちろん買うけどね!
ちなみに「小説wings」は2号くらいからほとんど買っているんだけど
季刊のため発売日が覚えていられなくて何度買い逃したか……。

さて真面目(?)なレビューも終わったのでここらでミーハー全開。
主人公が関わることになった傭兵集団「月氏」のひとり、夏草にやられました。
「月氏」の中でもトップクラスの戦闘能力を持つアジア系容姿の青年ですが
無口で料理上手な上に寂しがりやの人見知りでとてつもない活字中毒。
食事の支度しながら読書。怪我しても読書。馬に乗りながら読書。
滅茶苦茶ツボすぎました。
5巻のおまけには彼も登場するということで楽しみすぎるー!




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