迷宮6 前編
- カテゴリ:自作小説
- 2011/12/09 00:49:12
「玲・・・。」
孝也は、彼の母親の勢いに押されてやや呆然としている玲に囁きかけた。
「―――孝也くん・・・」
「ごめん。びっくりしただろ? いつもはあんなにテンション高くないんだけど・・・。」
半ば苦笑しながら誤る孝也に、玲は大きく首を振った。
「ううん。素敵なお母様でらっしゃるのね。」
玲の声に僅かながら、悲しみが込められていた。
玲は幼い頃、両親と兄を交通事故で失っており、彼女の祖母である如月 カヤノに育てられたのだった。カヤノの愛情を一身に受けていたとはいえ、両親のいない寂しさを感じずにはいられなかった。
「・・・素敵かどうかはともかく、普通じゃないのは確かだけどね。じゃぁ、とりあえず荷物を片付けよっか?」
玲を促し、自分も手伝おうとする孝也に玲は慌てて断る。
「い、いいよぅっ。孝也くんっ。私、自分で片付けるし・・・。」
先ほどの寂しそうな表情とは違い、やや慌て気味で、真っ赤にしている玲の様子に、孝也はいつの間にか口元に微笑を称えていた。
「何で?」
「え?なんでって・・・、だってここに住まわせてもらってるのに、その上・・・。」
「いいよ、別に。俺が手伝うって言ってるんだし・・・。」
玲の慌てぶりがかわいらしく、もう少し困った顔を見たくて言葉を重ねる孝也に、玲は先ほどよりも一層顔を赤らめた。
「ほ、ホンとにいいの。」
「へぇ、婚約者の俺に見せられないものがあるんだ?」
悪戯な光を称えた孝也の瞳が玲のそれをそっと覗き込んだ。
「―――孝也くん、私をからかってるでしょ?」
玲がこれ以上ないくらい顔を真っ赤にして問いかけると、孝也のほうも素直に応えた。
「当たり前。」
「んもうっ。孝也くんなんて、だいっ嫌い!!」
玲がそう言ってむくれて横を向くと、その頬に静かに口づけた。
「じゃぁ、夕食のときに。」
そういい残し部屋を去る孝也の後姿を見ながら、玲はたった今孝也が触れていった頬にそっと摩っているのだった。
「―――か、片付けなくっちゃ。」
どれくらい、ぼうっとしていただろうか。 玲は自分にそう言い聞かせると、先ほど孝也が運んでくれた荷物を紐解くことにする。
玲が持ってきた荷物はさほど多くはない。
洋服と化粧品、そして少しばかりの身の回りのものを詰めたボストンバックだけだ。
その事には、孝也は少し驚いたようだった。
「荷物って、これだけ?」
迎えに来た彼が指差したのは、玲の隣に置かれたボストンバックだった。
「うん。そうだけど・・・」
そう返事をした玲に一つ頷くと、孝也はそのボストンバックを自分の車のトランクに載せ、玲を助手席に迎え入れると、静かにアクセルを踏むのだった。
(普通、もっと色々持っていくものだものね)
そう思うと玲は少し、自嘲する。
これが本当の婚約であれば、玲だって色々用意しただろう。
だがそうでない以上、余り持っていくわけにはいかない。
本当は、祖母がもっといろいろ用意してくれようとしていたのだが、玲はそれを丁重に断ったのである。
「え?玲。これだけしか持って行かないのかい?」
自宅を出るとき、祖母がそう残念そうに呟いたのが今でも耳に残っている。
玲がお嫁に行くために、祖母が用意してくれたものは何一つ持っていかなかったからだ。
「うん。だってお嫁に行くんじゃないもの。」
そう応えた玲に、不思議そうに見返す祖母の表情が今でも忘れられない。 だが、玲の返事に何もいわずカヤノは玲を見送ってくれた。

























コメントありがとうございます。
孝也のお母さんは、あの毅会長を御してる方なので
かなりなバイタリティにあふれてますw
そうなのです。
玲ちゃん、奥ゆかしかったんですよ。
なのに、今や孝也のお母さんに匹敵するくらいの勢い…。
滝野家で生きる女は強くなるのでしょうか((○^∇^)v♪ b
孝也さんのお母さん
すごい勢いでしたもんねw
嵐みたいです( ̄m ̄*)
「んもうっ」ってかわいすぎるんですけどw
玲さんはよく言えば奥ゆかしい
悪く言えば気にしぃ・・・
いずれにせよ、以前凛さんおっしゃってましたが
「伝えたい言葉」とはずいぶんキャラが違いますよね。
なぜ豹変してしまったのかが気になるところですww
なにも言わなかったおばあさんは
もしや、なにかに気付いてるんですかね?