君への忘れ物 【3】
- カテゴリ:映画
- 2011/12/22 20:14:21
クリスマスのせいか街行く人の顔は、どことなく楽しげだ。
しかしサラの顔はそれとは正反対に曇りがちで、諦めにも似た表情をしていた。
「そう悲観することもないさ、まだやれる事は残っている。 だろ?」
「え?」
サラの顔が少し明るさを取り戻したような気がした。
「ジュエリーアンジェの線は、まだ残っているじゃないか」
「でもさっきの店員は、知らないって」
「アイツが知らないだけかもしれないし、もしかしたら店名が変わっているのかも」
「まさか、宝石店をしらみつぶしに当たっていくつもり?」
「思い当たる方法は、それしかないが不満か?」
「何軒あるの?」
「さあな~ただ店ごとにさらに古い店を紹介してもらえば、案外あっさり見つかるかもしれないだろ」
「そんなに、上手くいくかしら…」
サラは決して物事を楽観視しない。 経営者としてはまあ正しい姿なのかもしれないが
こんな時ぐらいは、もう少し気楽に考えるべきだ。
「俺がやっておくよ サラは先に帰っていいぜ」
「ううん行くわ…。 最後のクリスマスプレゼントだもの。 彼のね」
二人は再び、雑踏の中へ舞い戻った。
古い店を訪ねて4件目。そろそろビンゴと行きたい所だ。
ドアの開閉がが来客を告げるベルを鳴らすと
オシャレな外観のこの店とは、やや不釣合いな中年女性が奥から出てきた。
「いらっしゃい、ってお客じゃ無さそうね」
長年のキャリアの賜物だろうか? 一言も発していないのに見抜かれてしまった。
「ええ、少しお店を探してるんです」
「へぇなんて名前の、お店かしら?」
店のオーナーとおぼしきの女性は、暇なのか嬉々として話に乗ってきた。
「アンジェです。ジュエリーアンジェ」
「アンジェねぇ…。聞いたことないねぇ」
「今は、店の名前が変わったりしてるかもしれないんですけど」
「ウチはここいらじゃ一番の老舗なんですけどね、今はこんな景気でしょ?
潰れてはオープンを繰り返し、そんなサイクルも早くなったわね」
「そうですか」
「昔のことなら、先代がいればわかるかもしれないけどね」
「先代は、今どちらへ?」
「天国にいけるタイプじゃないから、地獄じゃないかしら、アハハハ」
死んだ人のことを豪快に笑い飛ばすあたりに、この店がサイクルに嵌らない理由がある気がした。
「…。ここより古い貴金属店ってありますかね?」
「う~ん ないと思う。 ここいらではウチが一番の古株だわね」
女主人はすまなそうな顔をしたが、すぐに2人の顔を交互に見つめ
俺の方を向いてウインクすると
「今日はクリスマスよ、彼女にリングでもプレゼントしなさいよ」
まったく商魂たくましい…。 老舗になれるわけだな。
「コーヒーでいい?」
「ああ」
サラは自販機でコーヒーを買うと1本投げてよこした。
2人並んでベンチに腰掛けると、缶のプルタブを押し開けた。
(プシュ)
2つの音が静寂に飲まれ消えていった。
「完全に手詰まりだよね」
「そうだな」
「ねぇ頭に来てるんじゃない? なんでクリスマスに私のワガママでサブドゥアまでひっぱり出されて
途方にくれて寒空の下で缶コーヒーなんか飲まなきゃならないんだって」
「そんなことは、ないぞ」
「そう?」
「ああ」
サラは少し優しい笑顔を見せた。
「ならいいけど…。でも終わりにしましょうか? きっとずいぶん昔に潰れてしまったのよ」
「だとしても、なぜ今頃、このタイミングで指輪が届いたんだ?」
「う~ん…」
10年前にラーアルがアンジェで買ったとしても、それが何故今になって届いたのか
そこの点はまったくハッキリしない。
しかもラーアルはすでに故人だ。
アンジェが今も存在していれば、ヒントくらいは掴めるかも知れないが
その一縷の望みは、どうやら絶たれてしまったようだ。
2人で夜空とにらめっこをしていると、先ほどの店の女主人が駆け寄ってきた。
「あぁ居た居た」
「どうしました?」
「わかったのよアンジェのことが」
「えええ?」
俺とサラは顔を見合わせてビックリした。
「どうやら、10年ほど前に潰れみたいね」
俺は、気になっていたことを恐る恐る聞いてみた。
「まさか地獄の先代に聞いてみたのか?」
「アハハハ…。な訳ないでしょ! なじみの宝石商をいくつか当たってみたら知っている人がいたのよ」
「それで?」
「夫婦揃って事故死。 一人娘は田舎の親戚に引き取られたみたい」
「引き取られた先は?」
「わからないみたいね」
…ということは
「完全に途切れたな」
「みたいね…」
サラが残念そうな声を上げると、意外な所から声が掛かった。
影が一つ、こちらへ近づいてきた。
声の感じからは、中年男性。
女主人の知り合いらしいその男は、立ち話を始めた。
「フィリユーレの段取りは粗方終わったよ」
「そうご苦労様」
「アムネジア帰りの勇士様も事故には勝てなかったな」
「あんないい男が、ずっと独身だったなんてね、身寄りもないし」
そんな言葉が、漏れ伝わってくる。
けれど、俺たちには関係がないことだった。
ここには、もう用はない背を向けて歩き出そうとしたが、サラはそこを動こうとしなかった。
「…フィリユーレ?」
サラは、伝わってきた名前に覚えがあるようだった。
どうぞ最後まで楽しんでくださいね。
双子ではなかったのですね!
続きをどうぞ~
フィリユーレは、新キャラですw無事完結しましたのでどうぞ。
はーやーくー続き〰( ̄▽ ̄)