君への忘れ物 【4】
- カテゴリ:映画
- 2011/12/25 18:14:20
さっきまでのしょげた雰囲気はどこへやら
サラは、2人の間に割ってはいると
「その話、詳しく教えて頂戴!」
とまくし立てた。
フィリユーレは、アムネジア攻防戦に参加しながら、
A-10消失事件に巻き込まれなかった数少ない人物であったようだ。
故郷サブドゥアに帰ってきてからは、電気工事の仕事をしていた。
生涯独身で、この12月20日に事故に遭い23日未明ごろ帰らぬ人となった。
サラもラーアルもアムネジア戦に参加している。
話を聞いていてフィリユーレとも面識があっても不思議ではないと思った。
「それで22日は?彼は動ける状態だったの?」
宅配便の発送された日だ。これでフィリユーレが宅配便を送っていたなら全てのピースがピッタリはまる。
…だが
「20日に、事故に遭い、23日に死んだ奴が22日に動けると思うかい? 奴は当然病院のベットの上さ」
まあそうだろうな…。
せっかく見つけた最後のピースは、はまらなかった。
だが、次に男は奇妙なことを口走っていた。
「そういえば、22日は意識を保っていた最後の日で、うわごとのように『やり残したことがある』と繰り返していたらしいよ」
やり残したこと? それが指輪の配達だったのだろうか?
だが当の本人は、動けるはずもない。
依然として、はまるかに見えた最後のピースは、
きっちりとは、はまってくれなかった。
「フィリユーレの遺品とかは、どうなっているの?」
サラは、2人に執拗に詰め寄っていた。
「棺に一緒に入れてやろうと思って、集めてはあるが…。あんた、あいつの関係者かい?」
「そうかもしれないわ、少しその遺品見せてもらってかまわないかしら?」
「そりゃまあ。断る理由もないが」
サラの剣幕に押され、男は了承した。
女主人とは別れ、男性と3人でフィリユーレのマンションへと向かった。
「ずいぶん、簡素な生活だったんだな」
アムネジア帰りの独身貴族なら、もっと裕福な暮らしも出来ただろうに、
彼の部屋は極めて質素、生活感も薄くどこか寂しげだった。
「これだよ」
男はダンボールをひとつ抱えて現れた。
どれも、価値があるようには見えなかった。
言ってしまえばガラクタの山…。それが彼の生きてきた証なのだろうか?
サラは、山をかき分けると、古めかしい一冊の本を手に取った。
パラパラとページをめくり、読みふけったり、止まったり…。
10分もそうしていただろうか。
突然、パンっとその本を閉じると表紙の埃を払うような仕草をしたあと、丁寧にダンボールに戻した。
横目でみたその本のタイトルには「Diary」と、あった。
日記だろうか? すこし興味があったがなぜか取り出すのは躊躇われた。
「ありがとうございました。これで帰ります」
「良いのかい? 形見の品を持っていってもいいんだよ」
男は、他にも色々と言っていたようだが、当の本人は
「失礼します」
と、きびすを返し歩き出していた。
俺もあわてて、男に礼を述べ追いかけた。
「サラ、おいサラちょっと待てって」
「なあに?」
「説明してくれよ、指輪の謎は解けたのか?」
「そうね、私がモテモテだったってとこかしら」
「はぃ?? …え? ………えーー??」
何だそのオチは? まったく理解できないし納得も出来ないのだが
呆気にとられた俺を置いて、サラはスタスタと歩き出していた。
「さて、帰りましょうか」
「ちょっと待てって」
足早に、その傍らに追いつき、歩調を合わせた。
「送り主は、フィリユーレで間違いないんだよな? だが彼はその時…」
自分の考えをまとめるように、つぶやいていると勢い余って彼女の背中にノックしてしまった。
サラは、足を止めていた。
「おいおい、なんだよ?」
足を止めた理由を問いただすように声を上げた。
「セント・ニコラス」
「ん?」
「サンタクロースの本名よ」
「ああ」
「彼、司教様だったんだって、トルコの」
「…? だから?」
サラが何を言いたいのか、よくわからなかった。
すごく大事なことのような、ほんとにどうでもいいことのような…。
サラは時々こういった感じのことを突然言い出すやつではあった。
しばらく、そうして立ち止まっていると
「あ」
何かに気付いたようにサラは、空を見上げた。
俺も、つられて空を見上げる。
夜空は蒼く濡れていた
その蒼い闇の彼方から、そっと吐き出される白い息のように
はらはらと雪が、こぼれおちてきた。
「大事なこと忘れてたわね」
そういうと180度ターンをしこちらへ向き直ると彼女は口を開いた。
「メリークリスマス♪」
「メリークリスマス&ハッピーバースディ サラ」
サンタクロース登場!!
見たのは彼の日記ですね。
謎解きの手助けになるように、おまけも書きましたのでどうぞ~