【野望】-3
- カテゴリ:自作小説
- 2009/05/30 15:26:16
チャンスは思ったよりも早く訪れた。何かの授業でレポートを書くために、獲物が単独で図書館へ行くことになった、という情報を「僕」の一人がもたらしたからだ。無論、レポートを書くのは獲物一人ではないが、必要な文献を獲物が所持していない、というのだ。
逸る胸を抑えつつ、図書館に向かうと、ちょうどお守の奴が出てくるところに出くわした。そういえばこいつは、図書館でも半ばヌシと化しているようだ。時間つぶしに獲物の話題を振ってやると、迷惑だ、関心がない、という振りをしながらも実はかなり獲物のことを気にかけている様子が見て取れた。
「私が寵姫を申し出るような女に見えますか?」
獲物が本当に「金瞳」の持ち主であるかどうか、カマをかけてみるとこんな言葉が獲物の口から出てきたので、びっくりした。そんなものの存在を知っているようには見えなかったからだ。
「ひどいですーっ!」
そう大声を出して泣きだすので、慌ててその場を撤退する。
なかなか一筋縄ではいかない女のようだ。
獲物を待って暗闇に潜む時間は心が躍る。こんなに時間をかけて準備をしているのだからなおさらだ。「僕」たちは図書館の方に手配してある。手順を頭の中で反芻して、手落ちがないか確認する。焦って獲物を逃がしてしまったら、後がない。対抗措置をとられてしまうからだ。
獲物が出てきた。続けて「僕」も建物から出てくる。十分に建物から離れたのを確認して、姿を現す。
「やあ、随分と待たされましたよ。アウレリスの姫」
本当に、随分と待たされた。たっぷり楽しませてもらわないと、割に合わない。
ゆっくりと包囲を狭めて、獲物が追い詰められる様子を楽しむ。さりげなく逃げ道は用意してあるが。
「見せていただけませんか?その、「金瞳」を」
その言葉で、「僕」が一斉に襲いかかる。思惑通り、俺が開けておいた逃げ道を通って獲物が逃げる。逃げ道の分岐点には網が張ってある。「僕」に造らせた、刃の網が。
網にかかった手負いの獲物が、怒りに燃えた目でこちらを見る。こうでなくては「狩」は楽しくない。期待以上に楽しませてくれる。「僕」に獲物を確保させて、人目につかない暗がりへと獲物を引きずりこむ。この、活きのいい獲物を、捕まえる前に「仕留める」のは、きっと楽しいに違いない。
避けた服の間から、金色をした龍の瞳がのぞく。広げた掌ほどの大きさだが、瞳孔は糸のように細く閉じている。
これが、「金瞳」。
親父が作り出そうとして、どうしても叶わなかった、王族の証。
「痛い目に遭いたくなければ、抵抗しないで下さいよ?そのきれいな顔に、傷をつけたくはありませんから」
獲物の肌の感触を楽しみながらそう言うと、きつく目を閉じた顔が横を向く。
大きく胸が上下し、獲物が甲高い声で鳴く。
すると、奇妙なことに、額に鋭い痛みを感じた。
手をやると血がにじんでいる。次は頬。そして鼻先。
いったい何が起こっているのか、と訝しく思うと、側頭部を殴られた。どうやら獲物が反撃に出たらしい。逃げようとする獲物の方にのばした手を、見えない刃物が切り裂く。手をかばっていると、鈍い音がして「僕」が蹴り倒される。活きがよすぎる獲物だ。先に「捕まえ」ておけばよかった、と後悔したが、後の祭りだ。獲物がまた一声鳴いて、どこかへ消え去った。
あの獲物は、本当に人だったのだろうか。
見えない刃をふるう、あの甲高い声は、本当に人のものだったのだろうか。
「仕方ないよね、相手が悪い。あの子はいろいろと守られてる子だから」
見えない刃から頭をかばってうつ伏せていると、すぐそばで子供のものらしい声が聞こえた。
「あの子を守っているあれやこれやを怒らせると、こっちの存在が危うい。それでもまだあの子が手に入れたいのなら……悪いけど自力でやってね」
幻獣の声だ。何の根拠もなく、そう思った。
わかった。あの獲物はもう諦める。だから、ここを離れないでくれ。そう強く念じる。
「仕方ないなあ」
そう一言言ったかと思うと、それきり声は聞こえなくなった。
苗字不詳のN氏のことです。
そういうこと言ってるんだよね?
本編用のネタはあるんですが…
時系列とが離れているんで、どうつなげばいいのかと…