契約の龍(46)
- カテゴリ:自作小説
- 2009/05/31 15:53:28
「ところで、課題の方はどうするんだ?」
歴史編纂所からの帰り、王宮の中庭を通っていてふと思い出した。
「…課題?」
「幻獣捕捉…」
「あーっ!……どうしよう。やっぱり、ポチを提出するのは、ダメかなあ?」
「不正がばれたら単位にならんけどな。リンドブルムを本当に自分で捕まえたなら、実習ⅡからⅥは免除だけど」
ちなみに、実習はⅥが最高だが、講義の方はⅧまである、事になっている。実際にⅦ・Ⅷを取得した学生はいない、という噂だ。
「ばれる、かなあ?名札がついてるわけじゃないんだけど。……参考までに聞くけど、アレクはどうしたの?」
「ああ。あれはまだ履修してない」
「……はぁ?」
「幻獣使いや幻獣憑きを目指すんでなけりゃ、卒業までにそういうモノを捕まえることが可能な器物を拵えて提出すればいい、という事になってるから」
「…そうなの?」
「ああ。だから卒業の時期が近づくと、金工室やら木工室やらが混み出す。指環だのメダルだのを作る連中で」
「実際に捕まえる必要は、ないんだ?」
「捕まえられれば、それに越したことはないがな。卒業生の中にはもっぱらそういった護符を売ることを生業としてるのもいるくらいだからね。…どっかの倉庫には、そういった、卒業生が提出してった器物がうずたかく積まれているっていう噂だ」
「それって、怖くない?中途半端に魔力のこもったものが一つ所に集まっているのって」
「事実ならな。あくまで、噂だから」
実際には、担当者が破壊なり封印なりをしているはずだ。
「第一、卒業生から申し出があれば、返却することになっている。たいていの場合、記念として持ち帰るな。材料も自腹だし」
「自腹って、それがどうして持ち帰る理由に?」
「クリス……講義はちゃんと聞いてたか?一番最初にやったはずだぞ。手っ取り早く護符の効果を得るには、「特定の素材」を、「決められた位置に配置する」っていうのが一番簡単で確実なんだ。で、その「特定の素材」ってやつは、たいてい高価だったりする」
「…なるほど。できれば回収したい、と」
「学生の中には素材集めのために在学中、副業に勤しむのも少なからずいる。…家が裕福でなかったり、魔法を生業としていなかったりすると」
そこまだ話したところで、いったいクリスはどうやって捕まえるつもりだったのかと訝しく思ったので、尋ねてみた。すると、「内緒」と返事が返ってきた。
「あの馬鹿龍に手出しさせないようにできれば、勝算はあったんだけどなぁ…」
クリスが「不可視」を解けば、目的のモノはいくらでも寄ってくるんだから、不可能ではないだろうが。
「やっぱり、今期はあきらめるしかないな」
あの、見た目が少し残念な人形のような細工は、実習Ⅰの範疇を超えているから。
どちらも楽しませていただきました