十二国記『落照の獄』感想
- カテゴリ:小説/詩
- 2012/01/09 16:32:05
小野不由美の『十二国記』はファンタジー小説の範疇である。
外側の設定だけみれば凡百の流れでありながら高みへと昇華させてしまった、
ある意味異端のファンタジーだ。
当初若年層向けとして刊行されながら一般書籍としても展開されるようになったことから
その読者層すら幅広いこともわかる。
常世とも呼ばれるその異世界は人工的に手を加えられたとしか思えない。
そして甘えを許されないシビアな世界でもある。
この世界には聖獣である麒麟がおり、王を選ぶ。
選ばれた王は神となり、その治世が続く限り老いることも死ぬこともない。
しかし永遠に続く王朝もまたありえない。
どれほど英明で長期政権を保っていた王であっても道を誤る。
道を誤れば麒麟が病み、王は死ぬしかない。
王が不在の国は荒れる。
天変地異が起こり妖魔が人を喰らい、作物は育たたず地は焦土と化す。
十二国記本編はこの世界に無理やり連れてこられた少女陽子と、
この世界から連れ去られてしまった少年要を中心にした物語。
(と書いてしまうと語弊があるのは承知だが)
それに関わった他国の王たちの話からなる外伝もある。
激しく望まれていながら続巻の刊行が途絶えて久しい。
そんな読者の要望と飢えを満たすべく外伝の短編が書かれることがある。
十二国記は講談社から出版されているが、その関連作が刊行されているせいか
既に文庫収録もされている『華胥』、未収録の『丕緒の鳥』に続き『落照の獄』が
新潮社の文芸誌yomyomに掲載された。
一般向けであるからか、この3作品には甘さがない。
逃れようのない厳しさにあふれていて、読後はいささか暗澹たる心持だ。
ちなみにこの『落照の獄』、発表されたのは2009年だったのだが
つい数日前まで気がつかずにいたのだった。不覚。
おかげで入手にあたってかなりふっかけられることになったがorz
なので今更ではあるが感想を述べたいと思う。
正直、どうせ読むならば本編に関わるキャラたちの話が読みたいとは思う。
十二国記のキャラクターは魅力的な人物が多く、親しみを覚えているから。
かろうじて『丕緒の鳥』はその欲求を叶えてくれているのだが
『落照の獄』は知ったキャラが誰も出ない、そもそも主人公何者よ?
というところからはじまる。
柳という国がある。
現王の統治は120年を超え、法治国家として名高い。
しかしその治世に影が落ちていることは十二国の読者には織り込み済み。
ただしその実情はすべてが謎に包まれている。
主人公はいわば最高裁判所の裁判長。
一審二審で死刑と判決をくだされた連続殺人犯の処断を下さねばならないことに。
市井の民は死刑を声高に訴え、退けられれば反乱すら起こりかねない。
しかしこの国は犯罪抑止に努め、死刑の実質廃止が行われていた。
心情的には死刑やむなし。けれど死刑はならないという警鐘が鳴り続ける。
犯人を死刑にするべきかどうかをひたすら迷う話だ。
用語や役職名こそ特殊ではあるが日本の司法制度と似ているため理解はできる。
これを十二国記で書く必要があったのかという意見もあるようだが、
正直に言うと十二国記でなければ読むことなどなかっただろう。
これが現代日本の裁判ものだったら読まなかったかも
(小野作品であるなら読んでしまう公算も高いが…)?
面白かったというには語弊があるが、興味深く夢中で読んだ。
死刑制度について私個人はあるべきだと思ってきた。
でもそれが単なる感情論でしかないことを突きつけられてしまったという。
国が滅びることが肌で感じられる状態での死刑制度のあり方。
崩れていく歯止めさえきかない不協和音のような恐怖を背景に
こんな物語を持ってこられるとは思わなかった。
ホラーが真骨頂である小野不由美だけに
その恐怖のバリエーションも多岐に渡るということなのか。
で、ちょい軽いつぶやきを。
柳の王様を主人公とした話だと誤解して期待して読んだんだよ。
軽く裏切られましたな。
正体を現さないからこそ柳の崩壊は怖いよ……。
あと。あの無能の太子をどうにかしてくれ。
せめて道連れにしていってくださいね、劉王。
個人的妄想ですが劉王は本人は無能でも(無能だから)
周囲に有能なブレーンを惹きつけるところがあったんじゃないかな。
しかしあまりに無能なので見放されたとか。
もしくは息子に期待して期待して期待してたのに
どうにもならない風にしか育たなかったから失望してすべて投げ出したとか。
この柳の内実、とっても知りたいです。
あと芳と巧の卵果がどうなっているかをぜひ!!!
戴のことは気長に待ちますけどね。
で、できれば楽俊の出番を何卒何卒。
基本は陽子が中心ですがアニメはオリジナルキャラや展開もしてるそうですがあんな世界です。
中華風なのは作者の「異国」が中国だったからだそうで。
現実だとかえって切り捨てられがちな理想論を架空の世界の架空の司法で論じるのはアリだなあと。
凶悪犯の場合、硫黄島でも海外でも地雷撤去に従事させろと思っていますw
感情論はやはり被害者の遺族の気持ちが収まらないだろうからとこれまで思ってきましたが、
正解なんてないですからねー。