Nicotto Town



1000文字作文

お題 雨の日

(2021年6月23日・雨)

ただでさえ憂鬱な思想教育の授業中、雨に濡れそぼった校庭を眺めていると 
余計に気分が滅入ってくる。
コンクリートの校舎に囲まれた、この狭い校庭の雨の光景は、自分が今、教室の中に閉じ込められていると言う実感を余計に感じさせる。

「交戦権と言うものは、国家の当然の権利なのだ」

思想教育担任の中原が禿げ上がった頭頂部に蛍光灯の光を反射させ、我々に向かい光線を放ちつつコウセン権がどうとか言っている。

彼の顔は下膨れの肥満顔で、大きな目玉はやたらとギョロリとしていて、禿げ上がった頭頂部は不自然と思える程、テカテカと輝いている。
彼は僕らが入学する以前から、影では(火星人)のあだ名で呼ばれていた。

「かつては、我が国は(自主的)にこの権利を放棄していたのでありますが
 今や、世界の情勢は我が国の多大な(軍事的貢献)を必要とする様に...」

僕は再び、うんざりした気分で雨が降り続ける校庭を眺めた。

春の総選挙で圧勝したばかりの、今の日本国民党政府は、(海の向こうの国)の
要請を受ける形で、現在五十万人弱の日本軍を大幅に増強すべく、兵役制度の
実施を推し進め、秋にはその法案が提出されるだろう。

多分、僕らが高校を卒業する頃には、兵役制度は実施されている。

「...東亜細亜の情勢は近年急速に緊迫の...」

中原が一つ覚えの持論を展開し始めた。

「 ...私は今、諸君らの心の中にある、愛国心に問いたい」

僕は激しく襲って来る眠気と、格闘を続けながら、一体この(異星人)は何回同じ事を言えば気が済むのだろうとうんざりした。

やがて思想教育の時間が終わり、放課後になっても雨は相変わらず降り続けていた。

放課後、僕と亜希子は、それぞれ自分の傘を差し、公園沿いの歩道を駅に向かって並んで歩いた。

公園の時計台の支柱に掲げられたスローガンが、「平和宣言都市」から「国際社会とアジアの平和に貢献するニッポン」に変わっていた。

「何だか、悪い時代に生まれて来た気がする。」

僕が言った。

「今の私達には、どうする事も出来ないのよ。」

亜希子が言った。

雨はいつ降り止むともなく降り続けていた。

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2012/02/04 18:27
やあさん

コメントありがとうございます。

洗脳とか、情報操作とか言うのを、気づかれないように
徐々にやられて、少しずつ世論が変わっていったり
するのを想像すると、怖いです。
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2012/02/04 18:24
ゴキブンさん

コメントありがとうございます。

核はもちろんの事、近代兵器と言うのは怖いですよね><
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2012/02/04 11:38
わああ・・・思想教育・・・。
そして兵役制度・・・。

・・・・・・・・・・・・・。(←考え込んでいる無言)

洗脳ってこわいですね・・・・。
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2012/02/03 21:37
思想教育、怖いですね
たぶん、そんな教育をしたらマスコミが一番に騒ぎだすと思います
でも、大陸ではやっていそうですね
二度あることは三度あるといいますから、核が落ちないこと祈ります
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2012/01/29 22:16
スイーツマンさん

コメントありがとうございます。

一休宗純禅師なら「どうじゃ、こうじゃと言うが愚かじゃ。」
って言うような答え方をするでしょう。
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2012/01/29 05:30
この手の話題は長らくマスコミでの討論にあがります
なかなか納得する答えはないですねえ
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2012/01/26 22:57
あびにゃんこさん

コメントありがとうございます。

そう言う意味でも、彼は異星人と呼べますよね。

アメリカの国益に沿った正義・・・
多くの人が違和感を感じてるんだろうけど難しい問題ですね。
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2012/01/26 22:43
sakinoさん

コメントありがとうございます。

1000文字と言う字数制限で、どれだけの内容が書けるかと
言うのは、やってみると意外に面白いですが、結構
難しいです><
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2012/01/26 22:38
BENクーさん

人を国家に無条件で従わせるには、力の背景が
必要なんでしょうね。

こんな時代の到来の予兆を感じただけで怖い気がします。
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2012/01/26 22:34
まゆさん

コメントありがとうございます。

また、機会を見て、3寒王を目指します(笑)
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2012/01/26 22:32
パールくんさん

コメントありがとうございます。

この日付は、特に何も考えずに付けたものなんですが
パールくんさんと沖縄の人にとっては特別な日なんですね。

重いテーマを、それだけで書くと、陰々滅々とした雰囲気に
なりますよね。

本当はそれほど、そんな事を意識して書いた訳でも無いんですが
結果としては、よかったみたいです。
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2012/01/26 08:11
火星人・・・・どうして彼が火星人と呼ばれるのか分かるような気がしました。
いや、思い違いかもしれないけど・・・・。
まぁでも、どうなんでしょうね。
日本は軍隊を持たないけれど、そのかわりアメリカに守ってもらってるよね。
永世中立国を宣言しているスイスは、軍隊をもち、男性全員に兵役が課せられています。
アメリカは大好きな「正義」の旗のもと、持論をよその国にまで押し売りしてるよね。
私はスイス方式が一番妥当なんじゃなかろうかと・・・個人的にはそう思っています。
それはさておき。
憂鬱な空気がよく伝わってきました^^
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2012/01/26 01:15
なかなか楽しく拝読させていただきましたよ 1000文字って

原稿用紙2枚半なんですね^^ かいじんさんのショートショートですね
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2012/01/25 21:24
こんな時代だけは作ってはいけない・・・そんな気持ちになる作品ですね。
思想という名目で人を国家に縛る社会・・・暴力(戦争)が蔓延るときっとそんな状況になるのでしょう…私はそう思います。
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2012/01/25 18:16
だじゃれで寒くさせて、重いテーマで寒くさせて、無力感で寒々と終わる。

寒い時代をテーマに書かれた佳作だと思います。
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2012/01/25 16:22
ていうか!6月23日、僕の誕生日wwww
沖縄では、慰霊の日ですよwww
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2012/01/25 16:21
コウセン権、笑いましたwww
読みやすく、「僕」の親しみやすい文章と、重いテーマのギャップがいいですね^^
これ、1000字なんですね・・・情景とか世界観とか、よく伝わってきます。
長編になりそうな、作品ですね^^b



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