2月自作/チョコレート『はーどたいぷ(3)』
- カテゴリ:自作小説
- 2012/01/29 00:50:06
無理に話さなくていいよ、と彼は言った。
あの席で、クジを引いた女生徒からその時だけ声をかけられて、席の交換を頼まれる渚。
小柄な事を理由に自分からいつも交換を買ってでている田沼。
ほぼ一年間ずっと隣同士だったにも関わらず、言葉を交わすのはおそらく今日が初めてだ。
卓上の二つのカップから立ち上がる、温かい湯気の間を縫って田沼が「これ」と薄い小さな包みを差し出してきた。
「誕生日おめでとう」
「あ……あのっ」
口ごもりながら、何で田沼君が? と聞こうとする渚の言葉を軽く制して、彼はつづけた。
「笹川さん、画面の保護フィルム貼ってないでしょう」
「……え?」
顔を上げると、田沼がにっこりと笑っているのが見えた。
「颯爽として大人のイメージだったnagiさんが、高校生なんかとDMやりとりして面白いのかなって、ずっと不思議だったんだ。
それがクラスメイトだって知った時は正直ショックだったけど。実はnagiさんにちょっと憧れてたんだぜ、これでも」
照れたように笑う彼を見て渚は、隣人の顔をまともに見たのもこれが初めてだったと気付いて、また俯いた。
「いっつも携帯見てるから、何してるんだろうってちょっと覗いたら、俺充てのメール書いてるだろ、びっくりしたなぁ、あの時は」
「ご……ごめ……」
「謝ンなくていいよ。正直、あれからnagiさんと笹川さんとのギャップを楽しんでた事もあったし。
だから、これ……」
薄い包みを、開けてみてよ、と彼は言う。
渚は少しだけ事態が把握できたけれど、まだ指が震えている。不器用に包みのテープを破る。
「……フィルム?」
「そ。笹川の携帯、背後からまる見えだったからさ」
体中の血が、顔に集結したかのように頬が燃える。
「見……見……」
少しだけ、沈黙の空気が流れた。
その沈黙を破ったのは、やはり田沼の方だった。
「憧れのnagiさんが同級生だって知った時は、本当にショックだったけど、でも、それでフォロー切る気になったかってーとそれも無くて、ずっと笹川とnagiさんを比べたりしながら、見てたんだ」
田沼の打ち明け話に、恥ずかしさで渚の目尻に大粒の涙が浮かんできた。
「おとなしいし殆ど口も開かない笹川だけど、ツィッターでは面白い事とか、さりげなく優しい事呟くし。
内面はこんなヤツなのかなって思いながら、……nagiさんと付き合ってました」
急に彼の語尾がかしこまって、渚の火照っていた頬がさっと引いた。
「でも、できれば……だから、これ」
見れば、田沼の頬も少し火照っている。
「あんまり、簡単に覗かれないように。ケータイ」
彼の言いたいことが今一つ汲み取れなかったけれど、何となく気持ちは見えたような気がして、渚は自分のバッグから板チョコを取り出した。
「これ、お礼……」
「くれンの? ラッキー」
端っこが少し歪んでいるチョコレートを、田沼は破顔して受け取った。
殆ど、田沼が一方的に喋ってばかりで時間が過ぎる。
けれどそれは決して嫌な空気ではない。渚は画面で読んでいた言葉と同じ温度を田沼の声から感じて受けた。
そろそろ出ようか、と言われて店を出ると、バレンタイン直前の日曜であることも手伝ってか、道には人の波が増えていた。
田沼は人混みに押されて流されそうになる渚の手を掴もうとするけれど、些細に人とぶつかった程度でそれはするすると離れてしまう。
「しょーがないな」
彼はおもむろに、さっき受け取ったばかりの板チョコをポケットから取り出して、銀の包みをはいだ。そして、それを自分の左掌に載せると、そのまま渚に差し出す。
「繋いで」
「え、でも」
「このままじゃ離れ離れになっちゃうだろ」
「でも、チョコ……汚れちゃ……」
渚に最後まで言わせることを阻止して、彼は彼女の右手を掴み、強引に掌を重ねた。
「チョコ、溶……」
「接着剤。貼り付けちまえばもう離れないだろ。迷子になるよりマシだよ」
「でも、他の人に付けたら汚し……」
「そう思うなら、余計剥がせないだろ。アロンアルファより強力だな」
田沼が朗らかに笑った。
雑踏の中を、暖かなチョコレートに繋がれて、精いっぱいに歩く。
次に携帯を開く時、nagiは颯爽としたOLのお姉さんではなく、等身大のnagiになっているのかも、しれない。
-了-
※ネットで会った知らない人に簡単に会っちゃうとか、
絶対ダメですよー(´▽`)
また登録したら、こちらこそよろしくです^^
読んでくださってありがとう(´▽`)
溶けたチョコを舐めあうというのも一興かと(笑)
やあさんツィッター消しちゃったですか~
今度登録したらフォロらせてください(´▽`)
欄外の2行につい笑いました^^
今はツイッターのアカウントを消しちゃいましたが
なんとなく懐かしい気持ちになりました。
でも溶けたチョコは、、、ちょっと苦手かも・・・^^
読んでくださってありがとう(´▽`)
オフで会う事をどれだけ注意喚起しても、子供はやっぱり好奇心のが先に立ちますから、
気をつけなさい、という事をどう説明すればいいのか、迷う時があります。
うちの坊はまだそういうのに興味はないみたいですけど、興味が湧いてから教えたんでは遅いんですよね…
さて、田沼ですけど、彼はnagiと渚の中間(ギャップ?)に惹かれていると思うので、
学校での逢瀬は避けるような気がします。
学校で会っちゃうといきなり現実かなーーって。渚も学校では萎縮しているし。
いっそネットも学校からも離れて、二人で穏やかに恋を育むのも、いいかもしれませんね(´▽`)
きっと会わない。
でも、会おうというnagiの気持ちは凄くよく理解できる。
ただ、やっぱり駄目だと思う気持ちの方が強いけれど。
もしも突然会うのではなく、田沼が学校内で打ち明けたらどうなったんだろう。
それなら、渚の気持ちは開かなかったのかな。
でも、隣の彼を意識はしてるみたいだし。
などと、いらぬ空想をしてました。
やはりオフ会には、ある程度の責任を取れる年齢であることが、最低条件になるような気はします。
特に子供相手に仕事をしていると、滅多なことは言えませんので^^;
小さな渚と人気者の田沼の恋を、等身大の高校生の恋として読むのも楽しそうです。
読んでくださってありがとう(´▽`)
実はタイトルに深い意味はなくて、単に強力接着剤より強力って意味だったので…(笑)
嬉しい解釈をありがとうございました(´▽`)
オフで会う事を無責任に書くわけにはいかないので、それが悩みでした。
結局最後に追記みたいに※で(笑)
また、ハッピーエンドに心温まる思いをした反面、了後の「※」にも納得させられる気になりました!(^0^)
読んでくださってありがとう(´▽`)
ツィッターはこの場合、きっかけなんですよね。
偶然が産んだ出会いから、田沼君は渚をずっと観察していたんですよ(笑)
渚は単に、人と触れ合うことに免疫がないからドキドキしてるだけなのかも(・∀・)
人の心(恋とか)って、どんなに時代が流れても
変わらないもの、変わってはいけないものだと思っていますんで・・・
(失礼な言い方かもしれませんが)今どきの若い人たちもこんな感じで形は変わっても
本質的にはぼくらの頃と同じような恋愛していくのかな?って思いましたよ。(田沼君って大人ですね?^^)
読んでくださってありがとう(´▽`)
あれよあれよという間にかいじんさんのコメントが^^
教壇の真ん前は優等生か、ふざけてても許される系人気者男の子の席、
そんな思い出があります。
高校生くらいの恋愛って、書いてる方が恥ずかしいです(笑)
読んでくださってありがとう(´▽`)
他にもたくさんコメントありがとうございます(>▽<)
今度はどろどろ寝暗い話書きたいと思っとります(`・ω・´)キリッ
読んでくださってありがとう(´▽`)
私はン年前オンラインゲームで十三歳と……
18禁ゲームだったのですぐにバレましたけど(笑)
チョコレート溶けたら、次は舐めるコマンドですねー
(´▽`)
読んでくださってありがとう(´▽`)
甘い時期過ぎたら次は唐辛子な時期です~(・∀・)
読んでくださってありがとう(´▽`)
チョコレートで手ぇ繋ぐと、改札で切符を取り出せない罠が(笑)
パパは娘の秘密を知ってしまった/とか
すぐばれちゃって恥ずかしかったよ~!
隣の席同士でネットを通じてコミュニケーションってありそうで恐いですね。
恋人になったら、親子だったりw
チョコレートも溶けるほどアツアツってことでおめでとうございます^^
チョコレートより甘いですねvv
渚は、変わりそうですね^^b
チョコレートで繋いだ手、衝撃でした!