契約の龍(49)
- カテゴリ:自作小説
- 2009/06/04 14:39:04
課題の提出期限まであと三日、というところで、クリスは小さなコサージュを作り上げた。魔法書七冊と首っ引きで仕上げた呪陣が九種類入っている力作だ。これでうまいこと目的のモノが捕まえられれば、課題はクリアだ。
「…で、何を捕まえたいのかな?」
「第一目標は、エアリアル。次がスプラッシュ。…あとは…捕まえられるなら何でも。「檻」の呪符の修正が、多少いるかもしれないけど」
欲張ってのことなのか、呪陣の出来に今ひとつ自信がないのか、九種類の呪陣のうち、五種類は「力あるモノ」を捕獲する「罠」、三種類が外からの「力」の干渉を遮る「防御壁」、残りの一種類が「檻」だ。
…普通ならば「罠」一種類で十分なはずだが。実習Ⅰならば。
それが、九種類。
一気に実習Ⅳまでクリアしそうな勢いだ。
「で、捕まえるあてはあるのか?」
「えーと…あるといえばあるような……」
歯切れが悪い。
クリスが第一目標に挙げたエアリアルは、単独では大した力はないが、いつもその辺りをうろうろしているから、熱心に掻き集めれば、シルフクラスの魔法が扱える。スプラッシュは流水を好む水妖なので、川辺に多く集まる。人工の運河でも気にしないので、街なかにも比較的多くいる。いずれも課題として達成しやすい相手だ。
「…何か問題でも?」
「えーと……以前、手伝ってもらったエアリアルが、捕まってくれるといいなって思うんだけど…」
「以前?」
「…うん。ただ、彼らは、物忘れが激しいんで、手伝ってくれた事自体忘れてるかもしれないから…」
「…だから?」
「その場所に行きたいと思うんだけど、…嫌な思い出もあるから」
嫌な思い出、というと。
「……図書館のとこか?三か月前の」
「…そう」
どうしてわざわざそんな所を選ぶ気になるのか、理解に苦しむ。
「こっちが支払った以上の力を借りたから、お返しがしたくて。だけどちょっと、そこに行く勇気が出ない」
「……言いたいことの意味は解った。だけど、わざわざ嫌な思いをしたとこに行く必要はないんだぞ?」
「解ってる。でも、それ克服しないと、ひとりで図書館に行けないし。……いつまでもアレクについてきてもらう訳にもいかない。…たとえ、アレクが苦にならない、って言ってくれても」
あの事件の後、クリスが図書館に用があるたびに、行き帰りは同行するようになっている。もともと毎日のように行っているところだから、苦にならないのは事実なんだが。
「…………だったら、明るいうちだな。期限ギリギリまで付き合おう。…それでいいか?」
「あ。…助かる。ありがとう」
クリスの表情が少し明るくなった。