Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


契約の龍(49)

 課題の提出期限まであと三日、というところで、クリスは小さなコサージュを作り上げた。魔法書七冊と首っ引きで仕上げた呪陣が九種類入っている力作だ。これでうまいこと目的のモノが捕まえられれば、課題はクリアだ。
 「…で、何を捕まえたいのかな?」
 「第一目標は、エアリアル。次がスプラッシュ。…あとは…捕まえられるなら何でも。「檻」の呪符の修正が、多少いるかもしれないけど」
 欲張ってのことなのか、呪陣の出来に今ひとつ自信がないのか、九種類の呪陣のうち、五種類は「力あるモノ」を捕獲する「罠」、三種類が外からの「力」の干渉を遮る「防御壁」、残りの一種類が「檻」だ。
 …普通ならば「罠」一種類で十分なはずだが。実習Ⅰならば。
 それが、九種類。
 一気に実習Ⅳまでクリアしそうな勢いだ。
 「で、捕まえるあてはあるのか?」
 「えーと…あるといえばあるような……」
 歯切れが悪い。
 クリスが第一目標に挙げたエアリアルは、単独では大した力はないが、いつもその辺りをうろうろしているから、熱心に掻き集めれば、シルフクラスの魔法が扱える。スプラッシュは流水を好む水妖なので、川辺に多く集まる。人工の運河でも気にしないので、街なかにも比較的多くいる。いずれも課題として達成しやすい相手だ。
 「…何か問題でも?」
 「えーと……以前、手伝ってもらったエアリアルが、捕まってくれるといいなって思うんだけど…」
 「以前?」
 「…うん。ただ、彼らは、物忘れが激しいんで、手伝ってくれた事自体忘れてるかもしれないから…」
 「…だから?」
 「その場所に行きたいと思うんだけど、…嫌な思い出もあるから」
 嫌な思い出、というと。
 「……図書館のとこか?三か月前の」
 「…そう」
 どうしてわざわざそんな所を選ぶ気になるのか、理解に苦しむ。
 「こっちが支払った以上の力を借りたから、お返しがしたくて。だけどちょっと、そこに行く勇気が出ない」
 「……言いたいことの意味は解った。だけど、わざわざ嫌な思いをしたとこに行く必要はないんだぞ?」
 「解ってる。でも、それ克服しないと、ひとりで図書館に行けないし。……いつまでもアレクについてきてもらう訳にもいかない。…たとえ、アレクが苦にならない、って言ってくれても」
 あの事件の後、クリスが図書館に用があるたびに、行き帰りは同行するようになっている。もともと毎日のように行っているところだから、苦にならないのは事実なんだが。
 「…………だったら、明るいうちだな。期限ギリギリまで付き合おう。…それでいいか?」
 「あ。…助かる。ありがとう」
 クリスの表情が少し明るくなった。

#日記広場:自作小説




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