相反する心
- カテゴリ:日記
- 2012/02/04 13:30:03
怪物はささやく
パトリック・ネス 著
シヴォーン・ダウド 原案
池田真紀子 訳
あすなろ書房
13歳の少年、コナー・オマリー。
ある時、彼のもとにイチイの木の怪物が
やってくるようになる。
怪物がやってくる時間は、
いつも12時7分ぴったり。
夢とも現実とも定かでない世界で、怪物は
コナーにこう語りかける。
「これから、おまえに3つの物語を話して
聞かせる。
そして、その後、おまえが4つめの物語を
私に話すのだ。
ただの物語ではない”おまえの真実”の物語を」
一体、何が目的か、と問うコナーに対し、怪物は
「質問を間違えているぞ。
問題は、私が何を求めているかではない。
おまえが私に何を求めているかだ」
と答える。
怪物を呼んだのはコナー自身だという。
コナーの中の何かが、怪物を呼んでしまったのだ。
ちなみに怪物は決まった名前を持っていない。
イチイの木の姿をしているのも
「この姿が一番ラク」
だから。
ただ、最初の方で自ら
「狩人ハーン」
であり
「樹木神ケルヌンノス」
でもあり
「森の番人グリーンマン」
でもある、と名乗っている。
少し調べてみると、それぞれ元が一緒だったり
と関係がある神々。
その中の「ケルヌンノス」は冥府の神とされている。
実のところ、怪物は「コナーの真実」を最初から
(ある程度まで)知っているような節がある。
怪物=摩訶不思議な技を使う未知の存在、
なので「コナーの真実」を知っていても不思議は
ない、とも考えられるが、「冥府の神」だから、
というのも理由の一つとして考えられそうだ。
(「コナーの真実」はこの辺りに関わる内容)
怪物の目的は「コナーの真実」を知る事ではなく
「コナーに真実を語らせる事」
怪物のセリフからも想像できるかもしれないが、
「3つの物語」は「4つめの物語」を引き出すため
の「枕」にすぎない。
怪物が語る物語は、どれも一癖ある物語ばかり。
相反する気持ちを同時に抱えた者たちの物語、
という点では共通している。
ただ怪物自身も相反する心を抱えているという
点では一緒。
毒でもあり、薬でもあるイチイの木の姿をしている
事がそれを象徴しているのかもしれない。
挿絵も豊富だが、すべて白黒。怪物も含めた
「人物」はシルエットのみのため、不気味な
雰囲気を醸し出す。
怪物に”おまえの真実”の物語、と言われた時、
コナーは心の奥底で、思い当たるものを感じる。
それはコナーにとって、とてつもなく怖ろしい物語。
それを語るくらいなら死んだ方がまし、とさえ
思えるほどのもの。
ただ、その物語の底には「3つの物語」と共通する
ものが流れている。ある意味、「3つの物語」は
形を変えた「コナーの物語」でもある。
恐怖を乗り越えるために、恐怖と向き合う。
ごもっとも、と思うが、実際にやってみろ、
と言われたら、こう即答するだろう。
「謹んでお断りします」
イギリスの物語へのイチイの木の登場頻度は知りませんでした。
毒もうすめれば、薬になるので、毒でも薬でもあるイチイの木には
何か感じるものがあるのかな、と勝手に想像してます。
イギリスの物語には、よくイチイの木がでてきますね。
近所のお庭にイチイの木が植えてあります。
赤い実がなります。これは、甘くておいしいですが、種には毒があるそうです。