Nicotto Town



旅路の果てに

海にはワニがいる
  ファビオ・ジェーダ
  エナヤットラー・アクバリ
  飯田亮介(訳)


アフガニスタンの小さな村に住むエナヤットラー・アクバリ

ある日、母に連れられて隣国パキスタンへ行く事になる。

夜の旅立ち。
宿でのいつもと違う母の態度。
いぶかしげに思いながらも数日を宿で過ごす。

そして、ある朝、目覚めると隣にいるはずの母はいなくなっていた・・・。

隣国とは言え、異国で突然、独りぼっちになってしまった10歳の少年。
生きる糧を得るために各地を彷徨う。

パキスタン
イラン
トルコ
ギリシア


命がけの密入国を繰り返し、ついに5年後、イタリアにたどり着く。

タイトルの由来は、ギリシアにボートで渡ろうとした時、夜の海を見た仲間が怯えて、あんな真っ暗な水の中にはワニがいるかもしれない、と言った事から。
人生には、どんなキケンが潜んでいるか分からない、といった意味らしい。


本書は、エナヤットラー・アクバリがイタリア人作家、ファビオ・ジェーダに語った内容を再構成したもの。

そのため、淡々と語っているような印象を受けるが、それだけに悲惨な部分では、その度合いが増して感じられる。
ただ「本人が過去を振り返って語っている」と紹介されているので、つらい状況の場面でも「最終的にはどうにか乗り越えた」という安心感がある、といえばある。

印象に残るのは「市井の偉人」とでも呼ぶべき人々。

エナヤットの母

エナヤットを置き去りにしたのは、「究極の選択」を迫られ、子供の身を案じたため。
エナヤットと分かれる前夜にエナヤットと3つの約束をする。
「麻薬には手を出さない」
「石ころ一つでも武器は決して手にしない」
「盗み・詐欺は決してしない。皆に優しく、誰にも腹を立てない」
日本でも、この約束、必ず守れる、と胸をはって言える人は少ないだろう。

エナヤットが通っていた学校の先生
物静かで、大声を出す事もないが、銃で脅されてもタリバーンの学校閉鎖命令に逆らった人。
命令を伝えに来たタリバーンメンバーとの言い合いでは、冷静で筋の通った意見を言い、相手をやり込めてしまう。
そんな先生が、武装した仲間を連れてきたタリバーンメンバーに殺されてしまう場面は読んでいてもつらかった。

その他にもびっくりするくらい親切な人というのは登場する。
が、その一方、信じ難いほど頑迷な人、というのも出てくる。

当然と言えば当然だし、どこの国にもいる、と言えば、その通りではあるのだが、その落差が激しかった。

ところで、エナヤットは最終的に平穏な暮らしを手に入れる事ができたが、これは幸運な例なのだろう。
よかった、と思う反面、エナヤットのようにうまくいかなかった人々の事を思うと心が痛む。
せめて、募金でもしておこうか。



アバター
2012/02/19 16:17
10代の子供が心から望んでいる事が
日本で言う「普通の生活」
というのが、読んでいて一番つらかったです。



アバター
2012/02/19 15:20
ああいう戦禍に巻き込まれた国では、
文字にしてでも訴えたい事は、山ほどあるのでしょうね。
私もユネスコに寄付。





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