年の差カップル
- カテゴリ:日記
- 2012/03/10 17:46:58
おっぱいとトラクター
マリーナ・レヴィッカ 著
青木純子 訳
集英社文庫
第二次世界大戦後まもなく、ウクライナからイギリスに
移り住んだ84歳の父から、ある日、49歳の娘に1本の
電話が入る。それが全ての始まりだった。
「結婚するぞ!」
母が亡くなってから、2年しか経ってないので、怪訝な
顔をしながらも相手の事を聞いてみると、
「ウクライナから来た36歳のバツイチ、
子(14歳)連れの巨乳美人」
だという。
自分の娘より若い嫁。その名はヴァレンチナ。
年齢差、ダブルスコア以上。
地元のウクライナ人友愛クラブで出会い、互いに
一目惚れ。
ヴァレンチナのヴィザが切れる3週間前に結婚を
決意したという。
話を聞けば聞くほど、財産とヴィザ目当てとしか思え
ないが、当の本人だけは、すっかり舞い上がって、
聞く耳を持たない。
世間に自慢できるような立派な父ではないが、食い物
にされるのを放っておくわけにはいかない。
かくして、母の遺産相続でいがみ合っていた59歳の姉
と一時休戦し、共通の敵を追い払うべく立ち上がる・・・
「作戦」を立てるためには父から情報を仕入れなくては
ならないが、娘から(後には嫁からも)やいのやいの
言われる父は「エンジニアであり詩人」(と自認している)
のプライドを守るため
「ウクライナ語版トラクター小史」
という本の執筆にすぐ逃げ込んでしまう。
娘や嫁の前でさらしてしまう姿と本の内容は、あまりにも
落差があり、話の中で一部が語られる「ウクライナ語版
トラクター小史」は浮いている印象を受ける。
ちなみに巻末のあとがきに書かれているが、本書の原題
を直訳すると「ウクライナ語版トラクター小史」。
このタイトルのために当初、アマゾンで「農業」の分野に
分類されたとか・・・。
姉と妹の「作戦会議」の最初の方は、登場人物の誰かの
悪口で終わる事が多く、何だか井戸端会議を聞いているよう。
あまり好きな類の話ではないので、これが続くとツライと
思ったが、それは杞憂だった。
基本的にドタバタ喜劇なのだが、両親の過去の話として、
ウクライナの歴史の暗い部分が語られる。
平凡な日常をおくっていたとばかり思っていた両親の
若い頃(戦争中)の苦難の歴史。
生き延びるために決して正々堂々な手段とは言えない
方法もとらざるを得なかった事。
それらを知った後、当初は同情の余地無しと思われた
ヴァレンチナの強欲ぶりにも共感こそしないものの、
少しは理解できるようになる。
両親が戦争中、生きるために必死だったように、
ヴァレンチナもまた生きるために必死だったのだ。
(だからと言って、彼女が「実はいい人」という事には
ならないが)
ところで、最近、芸能界では「年の差カップル」が多い
ようだが、数年後、本書のようなドタバタ騒ぎになる
ケースがどれくらいあるだろうか。