自作小説倶楽部 3月自作/星空 『かりそめの星』
- カテゴリ:自作小説
- 2012/03/20 00:09:07
洞の入り口に、どんよりと差し込んでいた陽射しが、暗い重さを増してきた。その頼りない夕暮れに誘われて、妹は洞を出た。
重く積った雪が小さな長靴に踏まれて、きゅっと鳴く。
妹は天を仰いで、はぁっと白い息を吐いた。
今日も妹は、星を探す。
僕は妹の肩をぎゅっと抱き寄せて
「寒いよ、中に入ろう」と促した。
諦めきれないのだろう。肩を引っ張られ洞へ戻るすがらも、小さな瞳は天を見上げ続けていた。
僕たちの村は、周囲を深い山に囲まれた小さな窪みに、ぽつんと在った。
山からの澄んだ湧水と、腐葉土が豊かに育む森林の恵み。村人が自給出来る程度の畑。
そして、工場。
何を作っている工場なのかは村の大人も知らないけれど、僕が産まれる前から工場は、村を見おろすように山の中腹に在った。
齢九十を超えて隠居を決め込んでいた婆は、
「若い衆が村を出んでも、働き口が出来たと思うたに。彼奴らは土地だけ取って町の人間雇ぅて、村にはウンともスンとも無ぇ。
ロクなもんや無ぇ」
忌々しそうに吐き捨てていた。
「とにかくあの工場は……」
話が始まると婆の機嫌がとにかく悪くなるので、僕と妹はいつもこの洞に逃げては遊んでいた。
そう。あの日も。
いつもと変わらなかったあの日。僕達は婆の話から逃げて洞へ来ていた。
無造作に立ち並ぶ木々で遮られた獣道を駆け登って、見晴らしの良い中腹に出ると、村を挟んでちょうど工場と向かい側になる崖へ出る。
その脇にある洞は、入口は小さいけれど中は広く、岩畳の真ん中に山水の細い川が流れていた。
僕と妹の恰好の遊び場で、隠れ家だった。
あの日。
洞で捕まえた蜥蜴を、陽の当たる場所でよく見ようと崖に出て、妹が足を止めた。
「お兄ちゃん、あれ何やろう」
工場が雲に隠れて見えなくなっていた。
工場だけじゃない。もうもうと山を駆け下りて、村を白く覆い包んでいる。
「いや、雲じゃ……ない?」
二人で呆然と、白く隠れてゆく村を眺めていると、背後から影が躍り出てきた。
「やっぱりここにおったな」
婆だ。
肩を大きく震わせて、荒い息を整えながら、背負った籠を地面に置いて、僕達の頭を撫でた。
「ここをお前達に教えておったのは良かったが、こんな事に使う事になろうとはの……」
僕達の両親は気の進まないことだったけれど、婆はとにかく、僕達を幼少の頃から山に連れて来た。
他の子供にも、村の誰にも教えてはならん、と、良い休憩所として洞を教え、山に生きる術を与えた。
「婆、あれは何?」
僕が指差して尋ねたが、婆はそれには答えずに、「ええか、よく聞けよ」と、勝手に話を始めた。
「もう村には絶対戻っちゃなんねぇ。籠に野菜を入れておいた。当面はそれを食って凌げ。食い物が無ぅなっても、二人なら何とかやれるやろう。ワシがそう教えて来たんやからな」
「でも、帰らんかったら父ちゃんと母ちゃんが心配する」
妹が泣きそうな声で呟くと、婆は顔を皺くちゃに歪めて、笑んだ。
「父ちゃんも母ちゃんも、戻って欲しいとは思わんさ。心配もせん。もう、できん……」
泣きそうな妹に
「お前らの両親は、星になったさ」
言い残し、踵を返して叢に戻ろうとした。
「婆はここに残らんのか」
僕が聞くと、振り返りも立ち止まりもしないで
「爺の墓が、あるけんの」
それだけ言って、姿を消した。
あの日から、僕達はここに居る。
真実を知らないままに。
白い煙は村を覆ったまま、未だに晴れない。
小さい頃から火を起こすだの野草を食べるだのと教えた《変わり者》な婆のおかげで、僕達はまだここに居られる。
「星、見えんかったね」
ぽつりと呟いた妹は、婆の残した言葉を信じて、父と母を天に探す。けれど雪深い村の空は、いつも重い雲に覆われて星は見えない。
声も出さずに泣く妹を抱きしめて
「星ならここに在るよ。これが僕達の星だろう」
洞の岩壁を指した。咄嗟の思いつきの慰めだ。
緑色にやわく光る苔の群れ。
かりそめの星空は、手に触れるほど近く、妹はまた、頬を濡らした。
「あの煙が消えたら、村に戻ってみよう、な?」
僕が囁くと、妹は小さく頷いた。
村の空に本当の星空が戻る頃、帰ろう。
何が起こったのかを知る為に。
思いながら、僕の頬にも雫が流れて、落ちた。
※)時代考証とか、学校は?とか、まぁ聞かないでやってください
(´▽`;)
プロローグ的な感じですけど、続きがあるわけじゃありません
(´▽`;)
読んでくださってありがとう(´▽`)
うーん、どうしよう…先を本当に考えてないから、さぁ困った(^^;)
このまま何も考えずに行くと、近×相×で子供ができてその子供が村の外を目指すとか、
そういうのかなぁ…
あんまりいい感じの結末くなくてごめんなさいですー><
できれば、もうちょっと読みたいよ〜。すんごい気になるじゃないですか。
一体何が起きたの!? 村人達は? この子達、いつまで洞の中にいるんだろう・・・
不安なはずなのに・・・・大丈夫なの〜〜〜!? ってね。
力絶えて、この兄妹も星に・・・・なんてならないでくれ〜〜〜〜
商業誌ってあんまり読まないけど、そればっかりですかー^^;
商業誌はそれっばっかりですよ 笑
読んでくださってありがとう(´▽`)
暗い話でスミマセン(´▽`;)
今度はもう少し明るい話書きますので、よかったらまた読んでやってください~
ちょみさん、尊敬!!
こういう作品が書けるのってうらやましいです(^^)
読んでくださってありがとう(´▽`)
えーん~ごめんなさい~
ほんっきで先を考えずに書いた代物でごめんなさい~(><)
二人、どんな大人になるんだろう…書いた当人がドキドキ…
いきなり、二人が大人になっているとかでも、読みたいですなぁ…w
読んでくださってありがとう(´▽`)
中日ですかー
って、知った風な事言ってますが、実は野球ってよく解らないヤツなのです^^;
そもそもルールがよく…(マテ)
あ!でも高校野球は好きなんですよ!ルール解らないけど!
読んでくださってありがとう(´▽`)
「天空の城ラピュタ」の地下…うーん、何度か観てるはずなのに思い出せないー><
たくましく…たくましく生きてくれるといいなぁ…
ごめんなさい!本当に何も考えてなくて(><)
龍は不思議ですよね。
あの姿形からすると悪役っぽい気もするけれど
心優しい感じがします。
ちなみにわたくし中日ファンでもあります。
これからこの兄妹は、変わり果てた世界でたくましく生きていくんですよね?
とっても続きが読みたくなりました^^
それと。
「天空の城ラピュタ」の地下で飛行石の欠片が星に見えるシーンが私は好きなんですが^^
ちょっとそれを思い出しニンマリしてしまいました^^
読んでくださってありがとう(´▽`)
実は、坊が自然科学に傾倒しておりまして^^;親子で反原発なぞやっております
まぁ、個人に出来ることですから、せいぜい電気を無駄にしない程度ですが
でもPCはやってるという矛盾^^;
自然と共存できる科学っていうのが、これからの課題になるのかもしれませんね。
続きはごめんなさい、ないんですよ~
子供二人が生き延びていく話を考えると、どうしても奇跡を含んだファンタジーになるんです~
そういうのを読むのは好きなんですけど、細かい設定を考えたり科学の検証する頭が無いんです…^^;
今の時代だったら、被害規模は桁違いでしょうが、
原発に通じるものがある。そう感じました。
やはり、人は自然と共にあるべきであり、
自然と共存できない文化って(もしかしたら)必要ないもの
なのかもしれませんね?・・・
あと、続きはないのですね? ^^;ザンネンデス
読んでくださってありがとう(´▽`)
来月は!超バカップルのバカみたいな幸せぶりを書きますから!
多分…^^;
読んでくださってありがとう(´▽`)
一面の星空を想像してたら、
昔、科学兵器を開発する研究機関が、どーのこーのという物語を読んで、
こういう時代が本当に来たら嫌だなぁ……と思ったのを思い出して書いてみました。
読んでくださってありがとう(´▽`)
星が見えるありがたさを噛みしめながら、
今度は幸せなお話を作りたいと思います~
うわぁ…この時期に不謹慎な話をすみません><
書いたもののどーするかなぁと葛藤したのだけど、
結局公開に踏み切りました><
読んでくださってありがとう(´▽`)
これから…先を全然考えてませんでした^^;
婆や村の過去ならいっぱい設定作ったのだけど…^^;
なんだか、すごく切ないよ~。
一人称で視野が狭くて情報が少ないですけど、短編なので独特の閉塞感が出ていて良いと思いました。
人間はろくでもない物を開発したりします・・・
似たような「工場」があって
電気を都会に送ってましたねえ
これからどうなるのかが気になる作品で、膨らませてみるのも面白そうに思いました。(^0^)
読んでくれてありがとう(´▽`)
いや、そんな凄い世界観じゃないですからww
ほんのちょっと、細菌兵器開発してた研究所が失敗して、
地元の村が巻き込まれて、たまたま運よく子供が二人助かった……
っていう、それだけの話ですから(^^;)
懐かしくて壮大な叙事詩や神話の世界につながっていそうです。