矢口高雄さんをご存知でしょうか？
大ヒットマンガ「釣りキチ三平」の原作者であります。


私には、私に魚釣りを仕込んだ叔父がおります。
小さい頃から、父のいない私を釣りに連れて行って教えてくれました。
その叔父が私に言ったことがあります。

叔：釣りキチ三平ってな、あれは俺がモデルなんだ。

飛んだホラ吹きであります。
しかし、若き日の矢口氏に会った事があるというのはどうやら事実のようです。

叔父は多摩川のほとりに住んでいて、中坊の叔父は学校をサボっては多摩川で釣りをしていた。
何でもボート屋のオヤジの弱みを握っていたらしく、オヤジを脅してはボートを只乗りしていたという事です。
当時の多摩川は非常に綺麗な川で、コイ、ウナギ、フナ、オイカワ、ウグイ、そして夏には少し上流へ登って鮎などがたくさん釣れたらしいです。
毎日の様に多摩川で魚を釣っていた叔父は、どの季節にどのポイントで何が釣れるのか、全て把握していたという事でした。
多摩川の釣りの案内人の様な事をして、お小遣いを稼いでいたという話です。

その時、多摩川に釣りに来た矢口氏と出会ったらしいのです。
その時叔父貴は、少し珍しい技法でオイカワを釣っていたのです。
その技法とは、四国の四万十川で漁師が使う技法。
口に粟の実を含み、ぶぅ～っと川に吹くのです。
それを食べにオイカワの群れが寄ってくる。
それを繰り返していると、オイカワはまるで池の魚のようにパニック状態で粟の実を食べ出すのです。
そのパニック状態のオイカワの群れの中に、毛針を打ち込む。
まるで入れ食いでオイカワが釣れるのです。
そして釣っている最中も、粟の実を口から吹きながら群れを維持する。
あっという間にバケツにいっぱいのオイカワが釣れるのです。

それを見ていた矢口氏。
叔父貴に声をかけ、一緒に釣ったそうです。
矢口氏は数日多摩川に滞在し、毎日叔父貴と釣りをしたそうな。
そして最後の日、叔父貴に「自分はマンガ家である」と告げ別れたという。

まぁ、叔父が三平のモデルだと言う事はマユ唾だと私は思っていました。
しかし、「釣りキチ三平」のとある作品を私は見付けたのです。

「ペンペン釣りとポカン釣り」

三平少年はある日、ハジメという少年と川で会うのです。
そのハジメという少年が行っていた技法が、まさに叔父の技法なのです。
関東では殆ど知られていないその技法を、矢口氏はその作品で「ペンペン釣り」として紹介していたのですね。

物語は、ハジメ少年と意気投合した三平が、ペンペン釣りを教わる。
そして翌日に、今度は三平が生きている蛙を餌にナマズを釣る技法「ポカン釣り」を教える約束をするのです。
しかし翌朝、三平にハジメが早朝に交通事故で亡くなったという知らせが届く。
三平は泣きながら、釣竿をもって約束の地へ行く。
そしてハジメに教える約束のポカン釣りを始めるのです。
やがて巨大なナマズが三平の針に掛かる。
見事に巨大ナマズを仕留めた三平は、泣きながら空に向かって言うのです。

ハジメ君！見たか！これがポカン釣りだ！見ていてくれたよな！

この章を読む限り、叔父貴のモデルはハジメ少年のようです。
叔父貴の言葉はまんざらホラではなく、こうして立派に矢口氏の作品に登場しておりました。
しかも、死んじゃうし・・・

ちなみにウチの叔父貴は、今でも図々しく生存しております。
普段はどこかの山中で野生化しており、時折文明が恋しくなると我が家にやってきます。

たまに帰ってくる叔父貴に、私はいつも言うんですけどね。
アンタは寅さんかっ！