Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


「契約の龍」(56)

 「えーと……人の頭数は減ったのに、さっきより注目を浴びているような気がするのは、気のせい、なのかな?」
 談話室の一隅には、軽食と飲み物を提供する場が設けられており、学生が趣味や実習で作った菓子類や怪しげなハーブティーなどもよく置かれている。そこから各々の飲み物を取ってテーブルに就くと、クライド少年が居心地悪そうな声でそう言った。
 「気のせいだ」
 「そう思えなくても、慣れた方がいい。…昼食を摂り損ねたんで、食べる物を取りに行くが、他に、食べ物が要る人は?」
 「アレクばかり、ずるい。私も行く」
 そう言っていったん座ったクリスが立ち上がる。
 「……で、彼はどの程度知ってるのかな?」
 軽食の並べられているテーブルに向かう途中で、クリスに探りを入れる。
 「「証」が「金瞳」であることを除けば、ほとんど全部」
 「……それは、肝心な事が知らされていないのと同義語じゃないのか?…ってことは、父方の親戚関係の固有名詞はオフ、だな」
 「気を遣わせてすまないな」
 トレーにいっぱいのサンドイッチ類を取って戻って来ると、クライド少年が呆けたような顔でクリスの方を見て言った。
 「……こうやって、改めて見ると、クリスティンて目立つんだなぁ。何であっちではそう思わなかったんだろ?」
 「慣れ、だろう?同じ系統の顔が、三つもそろってりゃ、いい加減、見慣れる」
 「三つ?」
 「祖母、母、私、だ。よく似ている、と言われていた」
 「…なるほど。ところでクリス、この期に及んでどうかと思うんだが、彼を紹介してはもらえないのかな?」
 席についてサンドイッチを口に運ぼうとしていたクリスが、手をとめた。
 「…ああ。えーと、彼は私の祖母の教え子で、エリオット家の三男の…クライヴ」
 「クライド、だってば」
 すかさず、訂正が入る。
 「…クライド。エリオット家にはあと二人男子がいて、クライドと同じ顔をしたのが、えーと……ニコライ。その上のが、クリストファー。この二人は、祖父の教え子だ」
 なるほど。どおりでさっきから俺がクリス、と口にするたび、クライド少年が奇妙な顔をするわけだ。
 「……それでクリスティン、て呼ばれてるのか」
 で、エリオット家では長男が「クリス」と呼ばれている、と。クリスはそれが気に入らなくて、下の双子の名前をあえて覚えないようにしているわけか。大人気ないことに。
 「そう。世界中で、エリオット家の五人だけが、私の事をそう呼ぶ」
 「世界中で、って。そんな、大げさな」
 クライド少年がそう抗議する。
 「大げさでもなんでもないぞ。こっちの名前を知らないのだったら、たいていの人は、なんと呼べばいいか?って訊いてくる。「呼び方はクリスティンでいいよね?」って決めつけられたのは、後にも先にも、お前ら兄弟だけだ」
 「いや、それ言ったのって、ク…兄貴だけだし」
 どうやら、自分の兄を指して「クリス」と呼ぶのを思いとどまったらしい。…それとも「クリストファー」と呼ぶのもクリスの前では厳禁なのか?
 「なるほど。エリオット家の兄弟とクリスとの間には、確執があるわけだ。…というか、一方的にクリスが嫌ってるだけのような気もするが?」
 クリスがものすごい目で睨みつけてくる。
 「…八つ当たりなのは、解ってる。だから、「クリスティン」って呼ぶのも容認してる。……ただ、あまりいい気分になれない、というだけのことだ」
 「……今期の新入生に「クリス」がいないこと祈るよ」
 「あのー…ところで、こちらの「アレク」さんは、いったいどういう立場の方で……?」

#日記広場:自作小説

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2009/06/19 11:59
56話読了
この後 アレクはどう紹介されるのか 気になります^^



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