「契約の龍」(58)
- カテゴリ:自作小説
- 2009/06/21 04:01:05
……いったい何を吹き込まれたんだか。
「って、どういう事?寮長には、なんて聞いてる?」
「…えーと……寮に一番長い期間いる学生、って。寮のことでわからないことがあったら、彼に訊けば大抵わかる、って。寮規の細則から、備品のありかまで」
とたんにクリスが激しく咳き込む。
「……そ、そうなんだ?……なるほどなるほどー。…寮長にも、ヌシ扱いされてるんだー。……解る気がするけど」
「笑うとこじゃないし。クリスの説明よりはましだ。…だが、ちょっと買いかぶられてる気がするな。備品の所在までは把握してない」
…っていうか、自分が楽しようとしてないか?寮長の奴。
「……りょ、寮規は、頭に入ってるんだー」
クリスがさらに笑いだす。だからそこ、笑うところじゃない、って。
「「夜間外出禁止」さえ頭に入ってなかった人に何言われても痛くも痒くもない。…で、寮にいる期間が長い、っていわれる理由は聞いてる?」
「いえ、そこまでは。本人に訊く機会があったら訊け、って。プライヴァシーに関わることだから、って」
「…そうやって無意味に新入生の好奇心を刺激してどうするんだ。………あ…まさかそれ、新入生全部に言ってるわけじゃ…」
「どうかなあ?新入生の案内役は寮長のほかにも二・三人いたから、全部の新入生が聞いてるわけではない、と思うけど…」
…てことは、少なく見積もっても、二十人くらいには吹聴されているわけだ。
「…で、どうする?プライヴァシーを明かす?内緒にしとく?」
クリスが目をこすりながら言う。涙が出るほど笑うな。
………ていうか、クリスが大笑いしてるせいで、また注目を浴びてるし。
「今ここで言わなくてもそのうちわかる事だし。…大体、隠している訳でもない。……だからって、わざわざ吹聴することでもないんだがなあ」
「うん、そうだねー。…アレクがそれ利用してるとこって、一回しか見たことないし。どちらかっていうと、損してることの方が多い?雑用とか頼まれて」
「……一番手間のかかる雑用って自覚はあるのか?」
「それはもう。だから感謝してる。アレクにも、顔つなぎしてくれた学長にも」
「…学長?…がわざわざ?…どうして?」
「父が学長の知り合いだったんだ。学長の話を聞くと、母とも面識があったようだが。で、学長はアレクの後見をしている。…ああ、妹もな」
「後見、て?」
「アレクはお前くらいの頃、両親を亡くしていてな、魔法の才を惜しんだ学長が、遠くの親戚のところにやるよりは、と自分のとこで預かることにしたんだそうだ。学長のうちは、学院の門のすぐ前だ」
「ちなみに、職員宿舎はその向かい。宿舎に入ってない職員も、この近辺にうちがある」
「へぇ……」
「………考えようによっては、私よりも箱入りかもしれんな、アレクって」
「自分の国の国王の名も知らなかった人に言われたくないな。俺だって、一応初等教育は外で受けてる」
「…僕も、国王様の名は知らないな。前の国王様は覚えてたけど……今上陛下は「王太子殿下」だったので。……やっぱり、知らないとまずい…かなぁ?」
まあ、着位してまだ三年足らずだし。だが、
「ほら見ろ。私だけじゃないだろうが。辺境ではこんなもんだ」
と、クリスが胸を張って言うのは、何か間違ってると思う。
「自慢げに言う事でもありませんがね。知らないとまずいってことはないけど、…ごく稀にここに来ることもあるから、覚えているに越したことはない」
げ、とクリスが喉の奥でくぐもった声を出した。
「……なんで?」
「そりゃあ……一応あの方もここの卒業生だから。卒業式とか、開校記念式典とかの行事には、卒業生には案内を送っているから。…まあ、来たとしても、生徒が直接話をするような機会はないと思うが」
……だから、まさか向こうがこっちのことを知ってるなんて思わなかったよ。
キャラクターのせいか、評価者の目が曇ってるせいか、「便利なやつ」になり下がってしまう、気の毒な人です。
…評価者の目を曇らせてしまうのは、やっぱりキャラクターのせい、なのか。
アレクのポジションがwww