Nicotto Town



負傷者16人


おおくま ねこさんからの情報で、土曜日演劇を観に行った。
会員になっている劇場なので、空いていたよい席がすんなり確保できた。

パレスチナ問題の芝居となれば、内容はシリアスだと予想された。

物語は1990年代、オランダ、アムステルダム、小さなパン屋を営む
ユダヤ人ハンス(強制収容所で、助かりたい為にナチスを手伝いをしたことに
苦しんでいる)が、喧嘩で傷ついたパレスチナ青年マフムード(テロ実行犯)を
助け、入院させ、店で職を与え、心を通わせていく。

女性店員のノラと恋におち、子どももできたマフムード。
ハンスを親友と呼べるほどになり、故郷パレスチナの凄惨な過去から
離れ、幸せを知り始めるのだが。。

結局、マフムードは宿命から逃げきれず、ハンスの想いも届かず
ユダヤ教会の自爆テロを行って幕切れとなる。

テレビから事件の被害が流れてくる。
死者10名。
負傷者16名。

何度も何度もこの世界で、繰り返されている暴力沙汰
生き残った16名それぞれは、再び暴力を連鎖させるのか
違う道を見つけられるのか、その意味が含まれる深い題名でもあった。

『負傷者16人』はこの劇場で最終公演となるそうだ。

日本人に馴染みの薄いパレスな問題。
ミュージカルで人気を得ている井上芳雄さん目当ての女性ファンが
かなりおられた。
救いのない展開に、疲れられたかもしれない。

彼がアザーンを唱えるシーンがある。
とてもいい声で、こりゃあ本場のアザーンにも負けないと感心した。

イスタンブールの旧市街の宿をとった時、
毎朝6時になると、近くにあるブルーモスクから高らかにアザーンが流れてきた。
最初はびっくりして目が覚めたが、だんだん慣れて
聴きほれるようになっていったことを、思い出した。

『負傷者16人』は9・11後の2004年、ニューヨークで上演された。
書いたのはユダヤ人のエリアム・クライエム。

9・11が起こった根底にはパレスチナ問題がある。
何も知らないと気付き、ほんの少しだけ勉強した時期があった。
今も不条理な状況下にある問題だ。

観終わって思ったのは、この話も多少古くなった、というが
第一の感想だった。

無垢な若者を利用して自爆テロ繰り広げたテロ集団を
アラブの国々の人は、仕方がないとは思ったかもしれないが
望んではいなかったのではないか。

ビン・ラディン殺害後、予想された報復合戦はなかった。
それよりもアラブのごく普通の人々が、テロなしに、民主化へと動いた。
エジプトの政変は専門家すら予想できなかった。

時代の流れは本当に早い。

エジプトが米国寄りだったからこそ、イスラエルは安心して
パレスチナに無謀なことができたのだ。
現に、デモ集団が、イスラエル大使館を襲った事件も起きている。

イスラムは同胞を愛せよだが、実際のアラブ諸国の多くは
独裁者が君臨する国であったし、シリアに至っては同胞を殺戮し続けている。

とにかくアラブの人々は自治を求めて動き始めた。
大国、アメリカの思惑通りには行かないことが多いだろう。
予測できないのだから。。
そうなると、イスラエルも安穏としてはいれないだろう。

そして思うのは、OO人だからとかの違いではない、きっと個人の違いだ。
闘いを始めるのはとても簡単だが、終わらせるのは至難。

ユーゴスラビア、今は無き国の解体。
クロアチア人だ、セルビア人だ、とナショナリズムに火が点いて
平和に暮らしていた隣人たちの殺し合いが始まった。
お互いに、殺し合うことに疲れ果てて、休戦となった。

国連難民支援の緒方貞子さん。ボスニア問題には惨かったと目が潤む。
本当に惨い事がたくさん起こったのだそうだ。

人は哀しみや憎しみを乗り越えて
幸せを探せるのだろうか。
その為に必要なものは何だろうか。

記憶は曖昧なのだけれど、
米国の作家、ポール・オースターが書いていた。

ニューヨークであれだけの人が亡くなったのだから
誰かの知り合いや身内が犠牲になっていた。
ニューヨークが喪に伏して悲しんでいる時に
報復すると決められたのだ。

遺族や被害者のすべてではないが、多くの人が
報復の戦争を望んではいなかった。

戦争に突き進んでしまったことの結果が、今ならよく分かる。

ここ数日NHKのオウム事件を観ていた。
暴走を何故止められなかったか。

それぞれに、何かのきっかけがあれば
たとえ遠い国のことでも、自分に無関係と思えても
考えてみることかもしれない。

小さなことに向かい合う勇気が
大きなことが起きた時に立ち上がれる勇気を育ててくれるのではないか。

常々思って、奮起する時がある。

いろんなことを思いながら観させて戴きました。

アバター
2012/06/02 13:22
ゴメンナサイ(汗
長いですね。。もうちょっとお付き合いくださいね。。

病院の、父の死の床に遺されていたのは、くたびれたショルダーバックでした。
いつも持ち歩いていたのでしょう。
上の方には、健康保険や手帳や財布など。

一番底にあったのは、皺苦茶になったビニール袋に包まれていた
ボロボロになった軍隊手帳と、セピア色に変色した戦友たちの写真でした。

(哀しいことではありますが、わたしたちの写真はすべて処分されていたんです)

父はほぼ全滅した部隊の数少ない生存者でした。
そこで何があったのか、本当の事は何一つ語りませんでした。

父の死後、その空白を考えるようになったのです。
ストレートに当たるのは危ない気がしました。
どこかで歪みが出るのではないか。。
戦争は、わたしにとって遠い過去の終わった話であったからです。
それが身内が体験したという生々しい形で立ちあがってくることで
真実を曲げて解釈してしまわないか、危惧です。

フェアな視点を、わたしは何より重視しているんです。。

そこでまず、遠い国に現在起こっている紛争から学んでみようと。
9・11もあったし、知らないことばかりであったので。。
そこまで考えたことを、そのまま日本にスライドしてくればいいと。

誰も自分の国を悪くは思いたくないのですから。。

被害者が加害者に、加害者が被害者に、グルグル連鎖しながら回る現実が
そこにありました。

隠されることの多い悲惨な現実。

兵士たちの多くは、目や口から蛆を出し、飢えて亡くなったという
あまりにも痛ましい現実の証言記録は、怖くて、家では読めず、電車の中で開いては閉じ
で読んでいました。電車から降りるとすぐ現実に引き戻される、されたかったからです。

日本は近隣諸国との侵略行為の真実を精算していません。
時が経つほどに、それを逆手に取っての外交手段とられたりで
何でそこまでとさすがに思うことも多いです。

でも、OO人だからと、お互いに拒絶反応を引き起こしがちなのは
お芝居と現実も変わらないように思えます。

あらゆる意味で、「傷者16人」の状況は、今のわたしたちが置かれている
現状の一つであるような気がしました。

もしもの時、自分はどうするのだろか。。と
アバター
2012/06/02 12:42
おおおくま ねこさん★コメントありがとうございます。

実は、トークショーもあったんです。(知らなかったから得した気分)
井上さんは、喋りもソツなく明るくまとめられてましたね~。
あれだけ綺麗な声なら、ミュージカルも観てみたいと思いました♪

こんな話を面と向かってするのは、わりと難しいことですよね。。
なぜなら、当事者じゃないから、どんなに悩み、思い巡らしたところで
どうなるんだろうか。。
ということが、頭の隅にいつも残り続けます。

立場の違う、いわば敵同士と呼べる二人が、ぶつかり合いながらも
心を通わしていく過程は、ホッと安らぎを覚えるとともに、自分に起こったならば
全エネルギーと費やして築き上げた人間関係だったろうな
とんでもなく、しんどいことだ。と感じてしまいます。

観客は登場人物全ての感情と、立ち位置や考え方、苦悩を知ることができるので
あぁ、そんなのはいやだ。ダメダメと悲劇に突き進んでいくことを
止めたくてたまらななくなります。

そこで民族問題が、掴みかけた幸せを、
おまえはOO人の誇りと恨みを忘れたか。。というきめ台詞的に
いとも簡単に奪い去っていきます。

それで、わたしたちは、そんなのは嫌だと思いながらも
どこかで納得して、出口がないような絶望感を体感してしまいます。

何で、納得しちゃうんでしょうかね。。
そんなことを思いました。
もっと違う価値観があってもいいはずだし、
人間が生きてきた、少なくとも文明や文化、知性と呼べるものを
構築してきたはずなのに長い歴史の中で、どうして育ってゆかなかったんだろうか。。

じゃあ、あなたが負傷者16人の一人になったとしたら
どうしますか。
泣き寝入りですか、復讐ですか、それとも違う道を歩みますか。。

傍観者であった観客に問いかけたかった主題だけを
ボーンと残して幕切れになります。

観終わった時点で、観客の心が不安になったならば
ほんの少しでも、当事者としての考えが芽生えたってことなんだろうと思います。

それで次に思うのは、この状況はわたしたちとは無関係の
遠い国の出来事であるだけなんだろうか。。
なんです。

私の父は戦争に行った人でした。父の晩年、人生の終わり生まれた私は
戦争そのものを知りません。
アバター
2012/05/30 18:08
そっかぁ、彼はアザーン要員でのキャスティングだったのか(違)。

冗談はさておき、お勧めした作品を実際に観にいってくださって、そして色々と思いをめぐらせて下さってうれしいです。

そうなんですよね、取り扱っているテーマがテーマだけになかなかほかの人に勧められなかったのです。
でも、黒猫手毬さんみたいな視野やご自身の考えを持っている人はこういう作品をどんな風に見るのかな?っての言うのにも本心。

劇中の中でノラが「何が正しくて何が悪いことなのかがわからなくなった」って言っていたけれど、ああ言う紛争を扱ったものを見たり読んだりすると、本当にそう思います。
単純に白黒分けられるものじゃないことぐらいは頭で理解できているつもりだけど、その「つもり」と目の前で事実を突きつけられるのは別なものですよね。

終盤のハンスとマフムードの口論のシーンでは役者たちの熱演のおかげで鼻の奥がツンとしながらも、ここで私が涙を流すとしたら、それは同情なのだろうか?
そしてそれはどちらに、何に同情しているのだろうか?

まったくの部外者の私がここでそういう感情を抱くのはおかしいのではないか?となんか難しい気分になっちゃっいました。

だけど、あの連鎖は本当にどうやって切るのだろうか?
16人、いや、死んでしまった人たちの遺族はどこに進むのだろうか?
連鎖をつむぐのか、違う道を模索するのか。

人は個人と個人ではわかりあえ無いまでも友情や愛情はもてるのに”族”と”族”になると手をつなげなくなるなんて……

あ、なんかまとまんないや。
書き逃げします(汗)
アバター
2012/05/30 00:11
タキさん★コメントありがとうございます。

何人か集まると、力学が生じるからね。。
集団になると政治力が働く。。
いとややこしき。。だものね。

目的から離れて、内部の利害衝突の方に
重きを置かれがちになるよね。。

基本、集団やグループ化は、嫌いなのね。。わたしも。
アバター
2012/05/30 00:09
らてぃあさん★コメントありがとうございます。

本当にそうですよね。
人を救うはずの宗教や神さまが、人を殺す口実に使われる。
ユダヤ、キリスト、イスラム教は源を辿れば兄弟みたいなものなのに。。

最近、新しい説が出てきて、
全てのユダヤ人がエルサレムを追われたのか、
そうではなく、一部のユダヤ人はその地に残り同化していったはずだ
という研究が発表されました。
話題にはのぼりませんでしたが。。

彼らこそパレスチナ人であると。。
そうなると同族なんですね。。

どこかで、都合よく捻じ曲げられた説が、まかり通ってしまっている。。

ただ、イスラエル人の中にも、歩み寄りを考える人々がいるのも事実。
イスラエル政府の所業に、怒りを感じ、イスラエル出た収容所生存者もおられるのです。。

とにかく相応とも、教育なのでしょうね。。
パレスチナでは、爆撃の為に、難聴になる子どももいて。。
生存の危機があるのも事実。。

子どもを自爆テロ犯に仕立てているのも現実も。。

少しでも歩み寄りがあるといいんですが。。
アバター
2012/05/29 23:58
大喜さん★コメントありがとうございます。

アザーンは、イスラム教礼拝の呼びかけなんです。
イスラム寺院につきものの、細長い塔があるんですが、
だいたいが、その細長い塔の頂上から、肉声で、お経のような
詩吟みたいな声で、朗々と歌い上げる感じですね。リズムや声の美しさが競われ
大会もあり、優勝することはかなり名誉なことのようです。

ちなみに、ブルーモスクのミナレット、塔は6本です。どこから流しているのかなぁw
メッカ以外4本しか建てることを許されていないのです。
それだけブルーモスクの歴史などが、特別であるのでしょうね。

ミナレットは全て寄付で建てられるんです。
建てることは、非常に名誉なこととされているようです。

ボスニアに興味を持ったのは、名古屋の万博だったんです。
クロアチア館はなかなかよかった。でも、ボスニア館は「モスタル」という橋の展示写真だけで
パンフレットも日本語が直訳的な、酷いものだったんです。

どうして。。とその時に感じた違和感から、興味を持つようになりました。

ボスニアは川に囲まれた街で、位置も、文明の十字路、紛争が何度も起こっていた
歴史があるようです。確かに地図を見ると川に囲まれています。
冬季オリンピックも開催された美しい街でした。

人々は橋を建て、行き来していたんですね。
石の頑丈の橋、どんな紛争があっても壊されることがなかった。
それが、この近代になって初めて、橋すべてが、爆破されたんです。

モスタルの橋は、人間の愚かさの象徴として世界遺産となり、復興を遂げました。

「ボスニアの花」という映画が2年ほど前に公開されたんです。
戦争によって生まれた子どもを育てる母娘の物語でした。

人知れず捨てられ、ヨーロッパの孤児院は満杯になったと。。
すべては闇の中です。

紛争勃発時期、たまたま日本でレコーディングしていたヤドランカさん、
国民的歌手だったそうですが、帰国できず、今も日本に住んでおられます。
サラエボ五輪のテーマソングを作った人なんです。

なんとも哀愁のある歌声と、現地の楽器が琵琶の音色に似てます。
http://www.youtube.com/watch?v=hYun2RBqy0M

そうそう。オウムですWありがとう。

アバター
2012/05/29 22:13
組織が巨大化すると必ずと言って良いと言うほど暴走する。
私にはそう感じます。

ちょっと話はずれますがNPOも巨大な組織になると色々不具合がね(--;
特定の団体に所属ではなく個人で動いた方が良い事も多いです。
アバター
2012/05/29 20:21
宗教は本来人を救うためのもので、争いのもとになるべきものじゃないのに、
パレスチナのテロのドキュメンタリーを昔テレビで観たのをおもいだしました。
自爆したのが10代の少年。まだ10代前半か、16歳はこえてなかったように思う。テログループにそそのかされたのではないかということだけど、誰が悪なのかわからないです。
アバター
2012/05/29 20:17
アザーンとはコーランのことかな?

チトーのカリスマで統一されていたユーゴスラビアが
チトーの死後、7つの国境、6つの共和国、5つの民族、4つの言語、3つの宗教、2つの文字、1つの国家
と言われ、紛争が起こったのは報道で知ってます。
が、日本ではあまり内情が伝わってこない戦争でした。

近所同士がある日を境に殺しあった?
昔の日本の幕末のようなようなものでしょうか?
いやいや、庶民は関係なかった。
旧ユーゴでの紛争は一般人同士が殺しあったとにわかには信じられない戦争で
一度、映画「ボスニア」か「ノーマンズランド」を見て、メディアや国連が
憎しみを単純に煽り、紛争を余計に激化させたのか?勉強してみたいと思います。

「民族浄化」の名のもと、恐るべき虐殺や集団レイプが横行した国々。
子供を孕ませ、堕胎不可能になってから開放する。
これは、セルビア人の悪事としてクローズアップされて報道されてますが、
実際はそれは西側のプロパガンダで、各勢力が同じぐらいの酷い事をした事実が出てきています。
それが正当化される大義とはなんでしょう?
昔、アレキサンダー大王が遠征中に征服した各国で兵士を結婚させ、
混血を生み増やした政策とは、また違う状況だとも思います。

民族浄化の名のもと、生まれた子供たちはその後どうしてるのでしょう?
民衆に殺されたチャウシェスク政権での、「チャウシェスクの子供たち」のような
臓器売買や売春、麻薬に染まってしまってるのでしょうか?

怨みの連鎖を断ち切るには何が必要なのでしょうか?

オイム事件を私は知りません。(ひょっとしてオウム事件のことかな?)
『負傷者16人』も知りませんでした。
ブログで教えてくださりありがとうございました。




Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.