Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


「契約の龍」(62)

 目的の資料は、地下書庫の最下層、第八層にある。
 第六層までは地上にある書庫入口から転移魔法のルートができているが、そこから下は、書庫内部の階段を下っていくしかない。もっとも、第七層・第八層の資料が閲覧される機会は、そうめったにあるわけではないのだけど。それこそ、「古文書解読」の実習の時くらいしか。
 各層の出入り口になっている魔法陣のすぐ横には階段が設置されている。俺が今いる、第六層の上り階段の先は第五層に通じており、下っていくと第七層に到達する。当たり前のようだが、聞くところによると、第一層から第六層は、物理的にはつながっていないらしい。では第七層・第八層はどうかというと…これも厳密にいえば現在は、物理的にはつながっていないらしい。かつてはつながっていたのだが、地下書庫へ転用する際、いったん切り離してから、再構成された、という話だ。
 …とにかく、下り階段だ。
 灯りを点して階段を下っていくと、第七層への入り口に当たるドアがある。そこから折り返してさらに下っていくと、第八層。
 ドアを開けるとそこは第六層までの広大な書庫とは違い、小ぢんまりとした書斎のような作りになっている。…とはいえ、蔵書の量は膨大だ。予想以上に。
 「…これは、背表紙を読むだけで、ざっと半日はかかるな」
 思わずそうつぶやくと、いきなり部屋が明るくなった。
 「…なんだ?いったいどういう魔法が…」
 かかってるんだ?と言いかけて、第七層と第八層は学院の創設者の部屋をそのまま移転したものだ、とかつて聞いたことを思い出す。それだったら、どんな魔法がかかっていても、驚くに値しないのかもしれない。
 とりあえずドアの横にある書棚から見ていくことにする。
 …と、強烈な既視感に襲われる。
 ここに入ったのは、初めてのはずなのに。
 この書棚は…この本の並びは、どこかで見たことがある…?
 飴色の古風な棚板も、古びた革装丁の背表紙も、見知ったものではないはずなのに。
 …なのに、なぜか懐かしい、と感じてしまう。
 書棚の中ほどから一冊取り出してみる。ずっしりと重い手応えが、これが夢ではない事を教えているが、目に映るものはまるで夢の中のように朧だ。
 いったん目を閉じ、頭を強く振ってみる。この既視感が幻ならば、消えてくれるように願って。
 目を開けてみる。手の上に乗っているのは読みやすい書体だが、知らない言葉で書かれた、手書きの古い書物。それは確かだが。……見覚えがあるような気がするのはなぜだろう?じっと見ていると、内容さえ思い出せそうな気がしてくる。
 ……なんだか気分が悪くなってきた。
 手に持った本を戻して急いで部屋を出る。
 階段を一気に第六層まで駆け上がる。
 心臓の鼓動が激しいのは、運動のせいだ、と無理に自分を納得させる。

 転移通路を通り抜け、地上に出た後、第八層の部屋を消灯したかどうか確認しなかった事に思い当ったが、怖くて戻る気にはなれなかった。

#日記広場:自作小説

アバター
2009/06/26 22:01
「アレク自身」は何もしてませんよー。

こういう設定を使うと、安易に予定調和に流れがちなのであまり使いたくないんですが、もうすでに一人出してるんで、まあいいかなあ、と。
アバター
2009/06/25 22:47
既視感…。昔、ここで何かあったのでしょうか?



カテゴリ

>>カテゴリ一覧を開く

月別アーカイブ

2023

2022

2021

2020

2019

2018

2017

2016

2015

2014

2013

2012

2011

2010

2009

2008


Copyright © 2025 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.