Nicotto Town



「正義」の見方

ウルトラマンと「正義」の話をしよう
 神谷和宏
  朝日新聞出版


長年、愛され「国民的ヒーロー」と言えるウルトラマン。

その人気の要因は、いろいろあるが、その中の一つに
「大人の鑑賞にも耐える」
という点があることは言えるだろう。

子供の頃に見たウルトラマンを成長してから改めて
見てみると、驚くようなメッセージ性を持っていたり
するのだ。

本書は、ウルトラマンのエピソードを教材に社会問題等
について生徒に考えさせる、という授業を行っている
中学校の国語教師である著者が描いた「正義」について
の考察。

基本的にはウルトラマンシリーズは「勧善懲悪」の
ストーリーなのだが、時にウルトラマンの「正義」に疑問
を感じるエピソードが語られる。

ウルトラマンのシリーズの中では決して「正義」は
一つではないのだ。

「ウルトラマンガイア」に至っては、ウルトラマンアグル
という信念の異なるもう一人のウルトラマンが登場し、
それが明確に示される。


シリーズの中で、有名なエピソードだけをピックアップ
しただけで次のようなものがある。

ウルトラマン 第23話「故郷は地球」
 ウルトラマンの全シリーズの中でも、おそらく最も
 救いのないエピソード。

 科学特捜隊とウルトラマンが戦った怪獣ジャミラは、
 異形の姿になったとは言え「人間」だった。
 しかもジャミラが異形になった原因を作ったのも
 人間で、ジャミラの方が犠牲者、という構図。

 ウルトラマンはジャミラが「人間」であることを
 知りつつ、ジャミラを倒す。
 この時だけ怪獣は爆発せず、ジャミラは苦しそうに
 のたうちまわりながら息絶える。

 ラスト、ジャミラの慰霊碑が作られ、そこには
  「人類の夢と科学の発展のために
    死んだ戦士の魂、ここに眠る」
 と刻まれる。
 一見、せめてもの救いのように思えるが、慰霊碑に
 礼をする科学特捜隊メンバのすぐ横を各国の高官達
 が通り過ぎるが、慰霊碑に目を向ける者は誰もいない。

 そして、とどめの一撃となるイデ隊員の一言で
 物語は終わる。
 「犠牲者はいつもこうだ。
 文句だけは美しいけれど」


ウルトラセブン 第42話「ノンマルトの使者」
 海底開発を進める人類。
 ウルトラ警備隊のメンバは「ノンマルトの使者」
 と名乗る少年に出会う。
 少年は「人間は後から来て、ノンマルトを海底に
 おいやった。海底はノンマルトのものだ。
 海底の開発をやめろ」と言う。

 その言葉を一笑に付すウルトラ警備隊。
 だが唯一人、ウルトラセブンであるモロボシ・ダン
 だけは、その言葉に愕然とする。
 なぜなら、セブンの故郷、M78星雲では、人間
 の事を「ノンマルト」と呼んでいたから。

 少年の言葉が真実ならば、人間とノンマルトは別、
 という事になる。
 ノンマルトは本当に地球の先住民なのか、という
 事は不明確なまま、セブンはウルトラ警備隊の
 ノンマルト攻撃に加担してしまう。

問題提起、という点で印象的なのは次の2編
ウルトラセブン 第8話「狙われた街」
 人間の理性を狂わせる物質をタバコに混入し、
 そのタバコを吸った人間が暴れる事で人間同士
 の信頼関係を壊し、自滅させる作戦をとった
 メトロン星人。

 「モロボシ・ダンとちゃぶ台をはさんで
 話をするメトロン星人」

 というシュールなシーンでも有名だが、最後の
 ナレーションが痛烈。

 「人間同士の信頼関係を利用するとは
  おそるべき宇宙人です。
  でもご安心ください。この物語は遠い遠い
  未来の物語なのです。

  え?なぜですって?
  我々、人類は今、宇宙人に狙われるほど、
  お互いに信頼してはいませんから」

ウルトラマンマックス 第24話「狙われない街」
 ウルトラセブン「狙われた街」の後日譚
 ウルトラマンマックス自体、ウルトラセブンの
 イメージを色濃く残したデザインだけに
 「狙われた街」の構図も真似てパロディ的要素
 も濃いエピソード。

 メトロン星人は実は生きていて、新しい侵略計画
 を実行しつつあった。今回は
 「携帯電話の電波に細工をして、
  人間を低脳化させる」
 というもの。
 だが、メトロン星人は途中で計画を放棄して宇宙
 に帰ってしまう。

 その理由はウルトラマンマックスに負けた訳でも
 なく、改心した訳でもない。
 人間のバカさ加減にウンザリして、
 侵略の価値なし、
 と判断したから。

 メトロン星人が去り際に
 「地球の夕焼けは美しいなあ。
  とりわけ日本の黄昏は。
  …この陰翳礼讃がなによりのみやげだな」
 と言うのが、またしても痛烈。

問題の背景を考えず、最近に起こった現象だけを
見て「二元論」に還元しようとする人達がどこかの
国の政治家に多い気がする。
が、それが如何に危険な事がこのことだけでも
よく分かる。

アバター
2012/06/30 21:42
子供向けの番組のようであり、その「皮」をかぶった
寓話でもあるのが、ウルトラマンのシリーズの魅力
ですね。
アバター
2012/06/30 11:49
すごいですね==3
深いです!!
アバター
2012/06/28 22:31
どちらがいい、というものではありませんが、欧米の子供向けの
番組(と言っても語れるほど多くを知りませんが)と比べると随分、
向き合い方が違う感じがします。
アバター
2012/06/26 13:14
ウルトラマンは子供だましじゃないのね。深いわ・・・
アバター
2012/06/26 00:10
別の本では、初期のウルトラマンのシリーズの脚本家達は
「今は分からなくてもいいから」
という思いで、難しいテーマも盛り込んでいたそうです。

日本の特撮モノは(アニメ、マンガもそうですが)
「子供が見るものだから」といって、単純にしすぎたり、
オブラートに包んだりしない事が多いですね。
(この感想を書く前に Youtube で「故郷は地球」
の一部を見ましたが、ジャミラが息絶えるシーンは
あらためてビックリしました)

だからこそ、大人の鑑賞にも耐えるので、海外でも
人気が高いのだと思います。
アバター
2012/06/25 00:21
ウルトラシリーズ、奥が深いのね~。
日本の特撮物は、最初の初代ゴジラのころから、
思想性が強いのね~~。

だから、そう言うのを見て育った人が作りだす、
今の日本のアニメや漫画の水準が、とても高いが理由わかります・・。




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