Nicotto Town



1000文字作文2

  去年9月にニコタで初めて投稿した作文

お題(時代小説)

                   【蝉時雨】

 慶長5年7月11日(西洋暦1600年8月19日)
 
 烈しい陽射しが、この城の瓦や、城壁、その他あらゆる物を灼き続け
 酷暑の静寂の中で、蝉時雨だけが、辺り一面に鳴り響いている。

 「亡き太閤殿下の御遺言を蔑ろにし、秀頼様より天下の権を、奪い取らんと目論む
  内府(内大臣・徳川 家康)は断じて許せぬ。」

 この天守からの眺めを、ぼんやりと眺めていた、この佐和山城の城主
 石田冶部少輔 三成は、そう言って振り返った。

 「この度の事は、ひとえに秀頼様の行く末を案じるが故の事じゃ。
 ・・・わしはこの事の他 には何の存念も持ってはおらぬ。
 ・・・何卒その事だけは、わかってくれ。」

 「・・・。」

 三成と向かい合っている男は、しばらくの間、考え込んでいたが、やがて口を
 開いた。

 「三成、・・・全ては時勢と言うものじゃ・・・。」

 一昨年前、太閤殿下が、伏見で薨去した時から 時世の勢いを得て、
 自らも周到な手立てを講じて、積み上げて来た、今の家康の威勢は
 もはや揺らぐ事はあるまいと思われる。


 「今の内府には時の勢いがある。昨今は多くの諸大名がこぞって
 その勢いに靡こうと腐心しておる有様じゃ。」

 「はっきり言おう、三成・・・今、起つのは、よせ。」

 「それは出来ぬ。・・・既に会津方との、約定がある。」

 「・・・。」

 二人は暫くの間、黙って向かい合っていた。

 やがて、三成が天守の外に広がる真夏の青空の方に視線を移し
 その鮮やか過ぎる程の青さをした空のまぶしさに目を細めた。

 「小身の家に生まれた、このわしが、今の、この身に
 そぐわぬ程の身上にあるのは、亡き殿下に見出され
 殿下のお引き立てを受ける事が出来たからこそじゃ。
 ・・・今、立たねばわしはあの世で太閤様に会わせる
 顔がない。」

 「・・・。」

 三成と向かい合っている、大谷刑部少輔吉継は
 天井を仰ぎ見げそのまま、黙り込んだ。

 病の為に崩れた顔を、覆い隠している白布から
 覗いている目は既に視力を失っている。

 熱気を帯びた、闇の虚空の中で、蝉時雨だけが
 鳴り響いていた。

   (終わり)

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2012/07/08 00:57
まゆさん

コメントありがとうございます。

その時の、心境は苦渋に満ちていたと思います。

「お主には人徳が無い・・・」

有名な諫言ですね。
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2012/07/08 00:53
やあさん

コメントありがとうございます。

「刑部、なぜ、こたつが別々なのだ?」

「冶部、お主は足が・・・」
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2012/07/08 00:51
スイーツマンさん

コメントありがとうございます。

主だった秀吉とは違い、人心掌握の才は無かったみたいですね。
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2012/07/05 07:30
目が見えない刑部の心境がよく出ていいると思います。
圧倒的な蝉時雨の中で、刑部は何を考えていたのでしょう。

この間の後で、お主には人徳がないとか言い出すことを考えると良い短編ですね。
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2012/07/05 06:26
時代小説、難しいですよね・・・^^;

知識がなさ過ぎて、コメント出来ませんでした^^;

ごめんなさい^^;

↓ 「ここにたつ」を「こたつにこ(炬燵2個)」と入れ替えて遊んでいきます^^;
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2012/07/05 04:19
嫌われ者の正義漢、ここにたつ!



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