「契約の龍」(67)
- カテゴリ:自作小説
- 2009/07/02 13:36:19
……なんだかすごい事を聞かされた気がする。「家業」の内容はともかく。
「…だから、「うち」を引き継ぐのは、女性でなければならない?」
(まあ、一言で言ってしまえば。「家業」自体は女でなければならない、という訳でもなさそうなんだけど、男では次代に引き継げない。で、王家と同様に、うちの子どもも、私一人)
それは…二重の意味で「失うわけにはいかない」だろう。なのにどうして、あえて危険を冒そうとするのか。
(でも、王家には、まだ、絶望視されてはいるけど、まだ、もう一人、残ってる。何よりその人には…あの馬鹿龍がひどく執着している)
「まだ、あきらめてはいないわけだ」
(…だから、その時は、協力を頼む、と。何度も言わせないでほしい)
……そうまで期待されては、応えないわけにはいかないだろう。他人から唆されるなら、拒絶できるのに。
「…本当に、俺で、いいのか?」
(アレクが拒否するなら、この計画は、根本から撤回する。…私は、アレクじゃなきゃ、嫌だ)
泣きそうな顔でクリスが言う。
そんな顔はさせたくなくて、思わず手を差し伸べて「おいで」と呼ぶと、思いがけず実体のクリスが腕の中に飛び込んできた。思わぬ重さに、落とすまいとして、反射的に抱きしめてしまう。
仰向けでこちらを見上げている顔に、驚愕の表情が浮かんでいる。…では、これは彼女が意図したことではないのか。
「…今の言葉、ちゃんと声で聞きたいな、クリスティーナ」
どうしてここに実体が飛び込んできたのかはわからないけれど、せっかく腕の中にいるのだから。
「……私は、アレクじゃなきゃ、嫌だ」
震える唇から紡ぎだされる言葉が、耳に快い。
「わかった。応じよう。…でも、それは、今じゃないんだよな?」
腕の中のクリスが、小さくうなずく。
「私がここを中退するような状況になったとしても…アレクの卒業までは、待つ」
クリスが、学院を中退するような状況、というと…
「似てないようでも、やっぱり親子だな。考える事が似てる」
「アレクが、何を指してそういうのかはわからないけど、私はあの人が父親であることを疑ったことは、一度もないぞ?」
仰向けが苦しいのか、クリスが腕の中でもがいて体を起こそうとする。しゃべっている内容はともかく、クリスの顔が近くなって、なかなかにいい感じだ。
「そういう意味で言ったわけじゃない」
クリスは、人が無意識に考えることを回避しようとする事に、向き合える種類の人間なんだ。
敵わないな、と思う。
こんな、小さくて、柔らかくて、愛らしい姿をしているのに。
「…アレク?……苦しいんだけど」
無意識に、抱きしめる腕に力が入っていたらしい。慌てて力を緩める。
「…ごめん。……クリスの申し出は、承知したから、そろそろ帰った方がいい。これ以上いると…自制心が保てなくなりそうだ」
クリスの目が見開かれる。そして、ちょっと唇の端に微笑を浮かべて、
「…意外とやわな自制心なんだな」と言った。「…だが…そうだな、わかった。じゃあ、また」
そう言って、クリスが軽く俺の胸を突き離すようなしぐさをして、姿を消した。
夏奈と申します✿
サークル「✿夢の集い✿」よりランダム訪問です
ただいまメンバー募集中です
お気軽にお立ち寄りください(^ω^)
http://www.nicotto.jp/user/circle/index?c_id=21605