異界の歩き方
- カテゴリ:日記
- 2012/08/26 21:40:05
f植物園の巣穴
梨木香歩
朝日文庫
身辺がバタバタと忙しい事を言い訳に歯の痛みをほったらかしにしたまま、新しい任地、f植物園に赴任した主人公。
その任地で歯医者に行くが、どうもその歯医者が少しおかしい。
そもそも自分以外患者がいない。
また、助手も兼ねている歯科医の妻は、前世がイヌだったため、忙しくて、なりふり構っていられなくなるとイヌの姿になってしまうという。
その事を「髪が乱れてる」くらいの感覚で受け止めているし、他人にもそのような感じで説明する。
さらに、下宿先の大家は時折、頭だけ雌鶏になる。
時間の進み方もなにかおかしい。
いつもと同じ日常のようで、どこか違う世界。
記憶を辿ってみると、巣穴に落ちた以降の記憶が途切れ途切れで、しかも巣穴から出た記憶がない。
出た記憶がない以上、まだ自分は巣穴の中にいるはず。それなのに日常のような世界にいる、という事は、ここは異界。
ここを出るにはどうしたらよいのか。そのためにさまよい歩く。
読み進むうちに主人公がさまよい歩く「異界」は、主人公の「記憶」の中だという事が分かってくる。
出てくるものは主人公の記憶の中の何かを象徴するものだが、分かりやすいものもあれば、一体、何の関係があるのか、よく分からないものも出てくる。
よく分からないからこそ、記憶の中の世界なのかもしれない。
最初は、わけも分からずさまようが、次第に、この「異界」で「探すべきもの」が見えてくる。
ただし、いずれも現実の世界では会う事ができなくなった者たち。つまり死者。
彼ら、彼女らとキチンと向き合うために記憶の中の世界をさまようことになったのか、と思うが、そもそもその記憶を抑え込んでしまった理由が今ひとつ分からない。
想像すれば、さもありなん、という気もするが、果たして、そこまで記憶を改変してしまうものか、という点が腑に落ちない。
ただ、そのために読むのが進まない、といった事もない。
手に汗握る展開はなく、どちらかというと緩やかに物語が進むのが自分のペースに合っている感じがする。
ところで、自分の記憶の中の世界をさまよう事になったら、どんなモノが登場するだろう。
本当は、あまり見たくないのだが、少しだけ興味がある。