会社を変えてからもう６年です。後悔はしていないですが、考えることはあります。
前の仕事で上司だった人と東京駅で飲みました。今や研究所長です、忙しい時間を割いて誘ってくれました。

当時可愛がってくれた上司は今やみんな要職にいます。ひとりは社長になり、ひとりは工場長になり、そして研究所長になっています。いまあの会社にいたら自分はどうだっただろう．．．そう思うことも一度や二度ではありません。

出世したかったわけじゃない、お金がほしかったわけでもない。ただ会社が大きすぎていろんなことが理想通りにはいかなかった。与えられた役割だけをこなして無難な人生にまとまりたくなかった。

決して若いわけではなかったけどもう１回ちゃんとモノを作りたい、そう思って会社を飛び出しました。

久しぶりに会えばやっぱり当時の話で盛り上がります。楽しかったぁ．．．やってることはメチャクチャでイノシシみたいな性格の人だったけど教わったこと多かったなぁ。

退職当時、工場に在籍していた自分は誰にも相談しないで退職を決めました。しかし組織です、そんな目論見は早々にその元上司にバレ、居酒屋に呼び出されました。夜の11時過ぎにです。
 「なんで相談しないんだよ？」「…」「工場勤務が大変だって言うならいつだって戻すことできるんだぞ？辞めなくたっていいじゃないか。」「…」「どうして何も言わないんだ」「すみません…」。。。違います、言わないんじゃなくて言えなかったんです。優しさがつらくて。 

数日後正式に退職届を受理してもらってからその上司のところにあいさつにいきました。

「お世話になりました、退職届を出してきました。」「そうか…」

「誰でもな、みんなお前みたいにやりたいと思うんだよ。」「思うんだけどなぁいろいろあってできないんだよ。人生なんてな、そんなもんなんだとおれは思ってる。」「・・・」

「やれよ、好きにやれよ。」「…」「それで失敗しろ。ぼろぼろの人生送って会社辞めるんじゃなかったって後悔しろ。おれの人生が間違ってなかったって、おまえが間違ってたんだって見せてくれ。」「そのときまた雇ってやるよ」「…」

「今までありがとな。」

この上司も若いころ退職を考えていたらしいです。『思ったように研究ができない』
という同じ理由で。でも、結局は説得に負けて会社に留まりました。

．．．その言葉の重さに、顔をあげられませんでした。

この上司は今でも私のことを気にかけてくれています。

会社が変わって新たなモノづくりをしている自分に「うちに来て講演をしてくれないか？」なんて言ってくれます。規模は違えど同じ業界でありえないことです。

６年たった今、まだ後悔はしていません。

でも、もし会社を変えていなかったら思うように仕事のできる立場にいたのではないかと思うこともあります。けどこれは後悔じゃない。

だれにもぜったいどこかに応援してくれる人がいます。迷ったら飛んでみよう。
きっとそれが唯一後悔しない方法だと思っています。