Nicotto Town


グイ・ネクストの日記帳


小説です。 チビとオオカミ 2


 荒野に黒毛のオオカミがいた。

 何も無い野原。あえて言うならば「クレーター」。

 「クレーター」の中心に黒毛のオオカミは倒れていた。

 大和国の西にある飛鳥国(あすかこく)そのものが消滅していた。

 ただオオカミがいた。背中に肌身離さず「闇の杖、ニュクス」を背負っていた。

 死んでいるのかと、そいつのそばに座った。

 オオカミは起き上がり、ボクのほっぺをなめた。

 それからだ。

 それからいろいろ話すようになった。

 言葉は通じないが…お互い「何を求めているのか」わかりだした。

 ボクはそのオオカミが「女性」であるということに気づいたのは、オーガ(巨大な鬼)と戦った時だ。

 オオカミは女性へ姿を変えた。

 ボクたちは五行陰陽(木火土風水)の呪を一通り唱えては見たが、オーガには何一つ致命傷を与えることなく、ボクたちはその場から逃げ出した。

 ボクはあれから合成魔法というモノを習得したが…それもまだほんの一握りだ。

 あの時のオーガに出会ってしまったら「死」を覚悟することになる。

 勝てない…間違い無く強い古代兵器を持っているのに…。

 その持ち主に選ばれているのに…。

 ただボクの心には焦燥感がつのっていった。オーガは賢い鬼だ。

 今日の襲撃は奴の差し金のような気さえした。

 ボクたちが奴にとって…勝てる相手かどうか…見極められているような。

 ボクはとなりにいる「彼女」こと、サラを見つめた。

 サラは笑い? ほっぺをぺろりとなめられる。

 「あせらないで」と、言われているようだ。

 オオカミである彼女はその赤い目でこちらを見て、笑ったように見えた。

 ボクも何故か微笑み返した。

 満月の空の下…ボクたちは姉の家に来たものの、入ることができずに庭にある大きめの石の上でくつろいでいた。

 「おい!リルル」と、後ろから声がする。

 クライン伯爵だ。

 そーっと後ろを見る。

 ボクと同じ金髪で青い目をしている。

 「また悩んでいるのか?王家たるもの小さなことでくよくよするなと…」

 「ああ、ちょっと待った。その説教は明日聞くから今日は寝床で寝させてくれないか」

 「ほほう。少しはやるようになったな。いいだろう…ところでまたオオカミも一緒なのだな?」

 「もちろん、一緒だ。一緒でなければ出て行く。それでもいいか!?」

 「かまわん、かまわん。いつもの部屋を用意してある」

 クラインは解呪(かいしゅ)<家に入るための呪>を唱えてくれた。

 「ありがたい」

 それだけ言うとボクは石から飛び降りて、サラと一緒に部屋へ向かった。

 暗闇の中、廊下をまっすぐ進み、突き当たりを左へ曲がり、階段を上がって、右の廊下を進み、三つ目の部屋の障子を開けた。ボクの体には不釣合いなほど大きな布団が敷いてある。

 ボクたちは布団に潜りこみ、見つめあった。

 「チビとオオカミ…仲良くやろうな」

 そう言って眠ろうとした時、「うさぎの飛脚」が来た。

 「何だ?また鬼が出たのか?」と、聞く。

 「国の西。9時の方向から骸骨の鬼たちがやってきています。国境線への到着は4時間後です。お準備を!」と、うさぎの飛脚はそれだけ言うと去って行った。

 なら3時間寝て…行くとするか…ボクは部屋に十個ある目覚まし時計を順番にセットして眠りについた。

 一個目の目覚まし時計が鳴る前にサラに起こされた。時間はまだ1時間も経っていない。「何だ・・・眠れないのか」

 サラは遠吠えした。悲しんでいる…。涙が見える。

 ボクの胸がざわついた…。

 「わかった…早めに出かけよう」

 それだけ言うと…ボクは障子を開けて、屋根に足を置き、飛び降りた。高さは8メートルってところだ。杖を使い、風の呪を発動させてゆっくりと着地する。

 サラも同じようにボクの後ろに着地する。

 慣れたものだ。

 夜の風を冷たく感じる。

 心はざわついたままだ。

 父を失った時と同じざわつき…。

 そう…サラは何かを心に決めているのだ。

 それが分からないのがもどかしい。

 もどかしいが…どうすることもできない。

 ボクは後ろを振り向いた。

 オオカミのサラと目を合わせる。

 自分が言おうとしていたことを考えると…急に恥ずかしくなり、喉でつばを飲み込む。

 恥ずかしいが…それでも伝えたい。

 「手紙を書く…。いや、手紙と言ってもうさぎの飛脚だ。気にしないでくれ」

 と、それだけを言うとボクは前を向いて走った。

 サラが追いかけてきた。

 ボクはスピードを上げる。

 所詮、50センチの体だ。息が上がるのも早い。

 あっと言う間に追いつかれ、またほっぺをなめられた。

 「ありがと」…。そう聞こえた気がした。

 そこから先はお互い黙って歩いた。

 国境線には二時間も早く到着したが…骸骨の鬼たちは来ていた。

 サラが人間の姿に戻る…長い黒髪と赤い目。

 その目はとても悲しそうに骸骨たちを見つめ、近づき、抱きしめた。

 先頭にいる骸骨の鬼はそれを受け入れ、成すがままに身を任せている。

 後ろにいる骸骨の鬼たちは突然、跪き、頭を下げた。

 先頭の三人の骸骨の鬼だけが立っている。

 サラが口を開いた。「一番右にいるのが私の兄、真ん中は母、左にいる頭蓋骨が派手に壊れているのが私が殺した父…。ほんの少し思い出しちゃった。私は世界を滅ぼしたい…そして後ろにいるのが…私の闇の杖で死んでいった兵士たち。わかるでしょ…飛鳥国の兵士よ」

 「サラ…」と、ボクは名前を呼ぶ。

 「ごめん…私はこれ以上あなたと一緒にはいられない。ごめん」

 サラは戦闘モードを解かない…。

 ボクと戦うつもりなのだろう…。

 そっか…家族と再会しちゃったか…。

 サラの決意がやっとわかった。それは変えることのできないこと。

 ボクは改めてボクの決意を伝えた。

 「手紙、書くよ」

 「馬鹿…」それだけ言うとサラはオオカミに戻った。

 後ろを振り向き、荒野へ帰って行く。

 骸骨の鬼たちと一緒にサラは帰って行く。

 ボクはそれを眺めることしかできなかった。

 その背中を眺めながら、次に会う時のことを考えた。

 どういうわけか…サラの「馬鹿…」と言った時の顔が浮かんだ。

 決意の夜はボクに静けさと、不安を届けてくれた。

 ボクはその味を噛み締めながら夜の街道を一人戻った。

 空を見上げた。月が見えなかった。

 気づけば頬に熱いモノが流れ続けた。

アバター
2012/09/21 10:27
 読み応えあるねぇ(´ー`)



月別アーカイブ

2024

2023

2022

2021

2020

2019

2018

2017

2016

2015

2014

2013

2012

2011

2010


Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.