地上の波①
- カテゴリ:自作小説
- 2012/09/16 02:20:25
「八野ちゃんさぁ、なぁ、聞いてる?」
「んあ?」
「んあ?じゃなくてさぁ、オレの話聞いてた?ちゃんと。」
「聞いてなかった。」
「頼むよ~真面目に話してるんだからさ。」
「んあ。」
「だからさぁ、盗聴調査一本で喰ってくの大変でしょ?総合調査事務所にしちゃいなよ。」
「いやだね。・・・お姉さん久保田の冷酒おかわりね~」
「何杯目だよ・・・ったく。どうして嫌なのよ。」
「俺は盗聴を調査する人間だぜ。探偵はやるだろ?盗聴。」
「そりゃ盗聴も盗撮もするけど、そりゃ依頼者のためにだな・・・」
「それが俺には納得いかねーんだ。俺の頭はそんな風にご都合主義にゃできてねーんだ。お、久保田来た来た。」
「まぁ、気が変わったら連絡ちょうだいよ。」
「ワカッタヨ。」
八野武蔵は盗聴器を専門に調査する調査士である。
決して収益は上がっていないが、何とかやっている。
話し相手は王手の興信所を経営する杉原徹。
彼は八野の手腕を買っている一人である。
盗聴器調査の仕事は大きく分けて2つある。
1つは盗聴器の存在、あるか無いかを調査する事。
もう1つは、仕掛けられている盗聴器の所在を特定し、撤去する事。
八野は盗聴器を、そしてそれを利用して何らかの情報を得ようとする人間を忌み嫌っている。
そういった八野の熱意を知る杉原は、八野という人材が欲しくて仕方がないのだ。
しかし、そんな八野だからこそ、総合調査のために使用される盗聴行為や盗撮行為さえも認められずに、杉原の勧誘に乗ることを拒んでいるのだ。
盗聴器調査の1つ目の仕事、盗聴器の有無を調査する仕事は調査依頼があって初めて成立する。
そういった依頼は、多くが王手の事務所に流れてしまう。
八野が経営する弱小の事務所には、その手の依頼者は非常に少ない。
杉原の事務所は手広く広告等を打っており、そういった依頼はかなりの数が入ってくる。
杉原はその依頼のいくつかを、八野に回しているという状況である。
つまり八野は杉原の下請け業者という訳だ。
八野は杉原からの依頼が無い時等は、自分ひとりで流し営業に出る。
流し営業とは、車に広域受信機を積み盗聴器の主要周波数をいくつか入れ、それをスキャニングしながら街中を走るのだ。
主要周波数を使用している盗聴器に限り、電波を受信すると受信機が反応する。
その後、盗聴器が設置されている家を特定し、住人に盗聴器の存在を知らせる。
住人から盗聴器の撤去依頼があれば、その場で盗聴器を撤去する。
住人が驚きを隠せないような表情をすれば、ほぼ撤去依頼に繋がる。
しかし、そうでないケースもあるのである。
初夏の午後。
彼は盗聴波を受信し、設置場所の特定に入ったのだった。
八野は受信した盗聴波の周波数を、今度はハンディタイプの受信機に移した。
ハンディ機にはイヤホンを付け、アッテネーターを装着した。
そして車を降りて徒歩で調査を開始する。
アッテネーターとは、受信感度を落とす機械である。
何故受信感度を落とすのか?
それは、感度が良好だと広範囲で電波を受信してしまい、場所の特定が困難になる。
感度が悪ければ、電波の強い場所だけ反応するようになり、場所の特定が容易になる。
その受信範囲の差を利用して、電波が出ている場所を絞って行くのである。
八野が立ち止まったのは、盗聴器など付いているはずも無いような一軒家だった。
恐らくは4LDKだろうか?
駐車スペースの横には、狭いながらも庭があった。
盗聴波からは家の中の様子が聞こえてきた。
音楽が流れており、時折足音なども聞こえてくる。
確実に盗聴されている部屋に、人がいる。
時間は16時を少し回ったばかりだった。
八野は躊躇なく、インターホンを鳴らした。
~つづく~
だから~暇な時でって・・・。
こういう偏屈、私は好きなんですよねぇ~。
コレだけは何があっても曲げられねえぞって、そういうのを持ってるヤツ。
ま、その内容にもよりますがね。。。
続き・・・明日にでも^^v
何やら偏屈な主人公ですが、本人には主義主張があるようですね。
続きをまたよろしくです♪