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印北東部の少数派住民暴動

 インド北東部アッサム州を中心に少数民族ボド族とイスラム教徒の衝突がやまない。襲撃や暴力事件が散発的に発生し、今も十数万人の避難民が州内の施設で暮らす。衝突の影響は州内にとどまらず、ボド族と同じモンゴロイド系の北東部出身者に対する差別感情が、インド各地でいびつな形で噴き出している。(アッサム州コクラジャル 岩田智雄、写真も)

 アッサム州西部のバングラデシュ国境に近いコクラジャル。大河ブラマプトラ川沿いの平野には、青々と茂る樹木や水田が広がり、東南アジアを思わせる。

 コクラジャルは、ボド族が主導して自治を行う「ボド地域自治地区」(約88万人在住)の中心都市だ。中心部から約8キロのマルガオン村に住むラケシュ・マスマタリさん(52)は、略奪された後に火を放たれた自宅の前で、遠くに見える村を指さし、「3千人ほどのイスラム教徒があそこから襲ってきた。村人を怖がらせて、土地を奪うつもりなんだ」と怒りをあらわにした。

 インドにおける民族と宗教の“マイノリティー間”の衝突は、アッサム州で7月20日、ボド族の若者4人がイスラム教徒住民に殺害されたのを機に火を噴いた。双方の暴力でこれまでに約100人が殺害され、避難民は最大で約40万人に膨らんだ。

 ボド族とイスラム教徒はかねて対立を深めてきた。アッサム州でボド族が大半を占めていた地域に、2003年、「ボドランド地域評議会」と呼ばれるボド族中心の自治組織と、ボド地域自治地区が作られた。しかしベンガル系などのイスラム教徒が自治地区内で増え、ボド族の割合は今、30%程度とされる。

 多数派からの陥落で自治を主導する立場を脅かされているボド族は、イスラム教徒の人口増はバングラデシュからの不法移民のせいだと訴えてきた。ボド族出身の唯一の連邦下院議員、S・K・ブイスワムティワリ氏(52)は、「これまで70万人が不法に入国した」と話す。

 イスラム教徒側の説明は異なる。イスラム教徒で作る全アッサム少数派学生連合の代表、サルファラズ・カーンさん(27)は、「不法入国者数はボド族が言うような数字ではない。ボド族に襲われているのはみな、インド人のイスラム教徒だ」と語気を強めた。

 アッサム州内の人口で勝るイスラム教徒(州人口の約30%。ボド族は約5%)の方が、家々を追われた住民は圧倒的に多い。

 コクラジャルからバングラデシュ国境方向へ車で2時間のところに、ボド地域自治地区に隣接するイスラム教徒の町ドゥブリがある。一角にある学校に入ると、汚物の悪臭が鼻をつき、イスラム教徒の避難民2千人余りがひしめきあっていた。

 避難生活を送るジャイナル・アベディンさん(42)は「多くの子供が病気だ。だが、ボド族が襲ってくると思うと、家へは帰れない」と表情を曇らせた。

 周辺ではインド軍が展開し、治安は改善しつつあるが、“和解”に向けた双方の協議は進んでいない。

 一方、今回の衝突はアッサム州だけの問題にとどまらず、インド社会に染みこんだ北東部出身のモンゴロイド系住民への差別感情をあおる結果になった。

 モンゴロイドは黄色や黄褐色の皮膚と、黒色、直毛の毛髪が一般的で、主に日本、中国など東アジアから東南アジアに分布する。

 バンガロールなどインド南部の都市では8月中旬、「北東部出身者がイスラム教徒に襲われる」とのデマが携帯電話を通じてチェーンメールとなって飛び交い、大勢の北東部出身者が列車で脱出する騒ぎとなった。インドでは北東部を除けばモンゴロイド系住民の割合は極めて少なく、デマは同住民を恐怖に陥れた。

 実際に、大規模な襲撃事件が起きることはなかったが、暴力事件は各地で散発的に発生している。

 アッサム州に隣接するマニプル州出身の男性、シェム・パメイさん(24)は8月下旬、ニューデリーから南部ゴア州へ列車で向かっていた際、4人の「巨漢」が現れ、パメイさんが北東部出身と知るや、パメイさんの顔や胸などを殴りつけて所持金と携帯電話を奪った。パメイさんは顔面血まみれになりながら、列車を飛び降りたという。

 少数派のモンゴロイド系住民が嫌がらせや暴力を受ける事件は、インド経済が好調になり、開発が遅れている北東部から大都市への人口流入が盛んになり出した05年ごろから目立ち始めた。

 ニューデリーにある名門ジャワハルラル・ネール大学の女子学生で北東部シッキム州出身のチュンクさん(24)は、「大学の近くでアパートを借りようとして何度も断られた。教室や公衆の面前で“チンキー”(中国人の蔑称)となじられることもある」と話す。

 インドでは、モンゴロイド系住民がレイプの標的になったり、被害を受けても警察が取り合わなかったりといったケースがたびたび報告されている。

 ニューデリーでホットラインを開設し、こうした人たちを支援しているアラナ・ゴルメイさん(27)は、モンゴロイド系住民への差別の原因について「顔つきの違いだけでなく、ヒンズー教で神聖視される牛を食べる食文化が一部にあることや、(伝統的な身分制度の)カースト制度に属さない人が多いことも影響している」と指摘する。地域の独立を目指す反政府過激組織によるテロ事件が北東部で頻発していることも理由の一つとみられる。

 政府は、「チンキー」の言葉を差別的に使った者に最高で禁錮5年の罰則を科すなどの対応を検討中だが、一般市民の反応は変わらない。

 ネール大学の学生らで作る北東部学生フォーラムは、「政府は北東部を(中国などに近い)地政学的、経済的、戦略的な重要性でしか見ていない。アッサム州での暴動は、反モンゴロイド運動をあおる動きに利用されている」との声明を発表。差別問題が改めて浮き彫りになっている。

 ■ボド族…インド・アッサム州やネパールの一部に住むボド語を話すモンゴロイド系民族。大半がヒンズー教徒で一部はキリスト教徒。アッサム州内の居住地域ボドランドの独立を目指した武装組織、ボドランド自由戦線は2003年に武器を置き、住民の自治を認めた「ボドランド地域評議会」と約9千平方キロの「ボド地域自治地区」の設立で政府と合意した。独立を目指す別の武装組織はなお存在する。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120916-00000514-san-int

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