地上の波②
- カテゴリ:自作小説
- 2012/09/17 18:42:12
「はい、どなた?」
若い女性の声がした。
「わたくし、八野武蔵調査事務所の八野と申します。緊急なご報告がございますので、ちょっとお話をさせていただけたらと思いまして。」
「え?あの、なんですか?母は今いませんけど・・・」
「ええ、実はこちらから盗聴波と思われる電波が発せられています。ご確認いただけたらと思いまして。」
「え・・・そうなんですか?えっと、でも父も母もいませんので・・・」
「では名刺を置いて行きますので、後ほどご連絡をいただけたら。」
「あ、はい、では今受け取りに行きます。」
彼女は高校の制服のまま、チェーンをかけた扉越しに顔を見せてくれた。
活発そうな女子高校生という印象。
スポーツでもやっていそうな、少し日に焼けた肌。
爪は短く切りそろえ、化粧などもしていそうも無い。
少し怪訝な顔で、彼女は八野の名刺を受け取った。
彼女の「今自分しかいない」という話が本当ならば、盗聴被害に遭っているのは彼女自身である。
八野の受信機からは、確実に人の気配が伺えた。
つまり、盗聴器が設置されているのは、その彼女の部屋と言う事になる。
その場で撤去依頼を得られぬまま、八野はいささか落胆しながら事務所兼自宅に戻った。
しかし、果たして置いてきた名刺の家族から、夕方電話が鳴る事になる。
「はい、八野調査事務所。」
「お宅、ウチに名刺を置いて行った方?」
「あ、先ほどの・・・はい、そうですが。」
「娘に変な事を言わないでください。不安がっているじゃないですか。」
「いえ、事実を申したまでで。」
「ウチに関わらないでいただけますか。あなたには関係ない事ですから。」
「いえ、お宅からは確実に盗聴波が出ています。盗聴波を聞いている空き巣もいるのですよ。家の中に人がいるかどうかを確認し、犯行に及ぶケースもありますから」
「とにかくもう、ウチには近付かないでください。」
電話はさっきの少女の母親かと思われる女性からだった。
少しヒステリックに話すと、一方的に電話を切った。
恐らくは、盗聴器を仕掛けているのはこの母親である。
自分の娘から、何らかの情報を得るために仕掛けたのだ。
例えば、娘の交友関係や、勉強をしているかどうかを監視する目的だろうか。
こういったケースでは、間違いなく撤去依頼には至らない。
八野の落胆は現実のものとなり、そしてより深いものになってしまった。
翌日。
近付くなと言われたにも拘らず、あるいは、決して収益に結びつく事が無いにも拘らず、八野は仕事を離れた自身の興味から、あの家をフォローする事になる。
前日と同じ時間に、家の前を通過する。
しかし、八野の予想通り盗聴波が発せられている事は無かった。
恐らくは、少女が学校へ登校した後、盗聴器を設置した母親が自ら撤去したと思われる。
八野は車をUターンさせ、再び家の前を通過させた。
今度は少し速度を押さえ、徐行させてみた。
完全に盗聴波は消えていた。
「これで一件落着か・・・」
と、車の速度を上げようとしたその時、突然に家からあの少女が飛び出してきたのだ。
少女は八野の車を追い、止まるように指示をしてきた。
八野が車を停止させると、少女は助手席を開けようとしたのだ。
八野は助手席の窓を開けると、少女は慌てながら言った。
「早く開けて!お母さんが帰ってきて見られたら大変!」
八野は緊急事態に思わず車のロックを解除した。
少女は助手席に乗り、走り出すように言った。
「どうしたんですか!急に!」
「あの、八野さんでしたよね?ちょっと話したくて。」
「まずいよ、君のお母さんに怒られちゃうから」
「だから早く家から遠ざかって!友達の所に遊びに行った事にするから。」
八野は少女の大胆な行動に、驚きを隠せないでいた。
~つづく~
その通り、次回で言います。
皆さん「楽しみ」って言ってくださったのですが、読んでくれているのは弥勒殿だけのようです。。。
前作は評判が良かったんですけどねぇ・・・。
家庭内盗聴は本当に多くなりました。
盗聴器がネットで売られるようになってから、やはり一般化が進んだようです。
それまでは探偵とか、極一部のコアな連中しか買えない代物でしたからね。
もっとも、盗聴器はアキバなどのマニアックな電気店でしか買えませんでしたから
一般の人々には手に入り辛かったのでしょう。
ところが今は、ネットで簡単購入ですからねぇ。
さて、この少女が盗聴されていた要因とは・・・
次回更新で明らかにいたします。
そしてはちのむさしの解決法は?
また読んでくださいね~。
何せ、唯一の読者ですから^^
展開が気になる…。