地上の波③
- カテゴリ:自作小説
- 2012/09/18 15:01:03
少女の家から数キロはなれた公園の横に、八野は車を付けて止めた。
「ふぅ・・・この辺りでいいか。あのねぇ、君ねぇ・・・」
「あ、私、千尋って言います。海野千尋です。」
「千尋クンね、じゃその、千尋クン、私は君の・・・千尋クンの母上からもう近付くなと言われてるのよ。それなのにこうして君と・・・千尋クンと車で話してたらマズイでしょ。それにだね、見知らぬ人間の、特に男の車に乗るものじゃあない。危険だとは思わないのか?」
まくし立てるように八野は言った。
犯罪はそれを犯す人間が悪いのは確かな事であるが、それを誘発するケースもある。
お金を見せびらかせば、それを取りたいと考える他人の心理は十分に想定できる。
八野はこの千尋の行為を、誘拐や性犯罪などを誘発する恐れのあると考えた。
「昨日ね、初めて八野さんに会ったとき、何だか相談に乗ってくれそうって思ったんだ。でも、昨日の夜、お母さんがあんな風に電話を掛けちゃったし、もう電話できないなぁって思って。昨日と同じ時間に、また来るかもって思って外を見てたら、同じ車が通ったから飛び出て来ちゃった。」
「ま、これからはこういう事はしないように。じゃ、送って行こう。」
「相談に乗ってくれないの?」
「つーか、何で私なんだよ、他にいるでしょ。」
「だって、何か八野さんって、雰囲気なんだよなぁ。」
「何だよ、どんな雰囲気だ。そんな立派な人間じゃないぞ、私は。」
「盗聴器、どうなってるの?まだ付いてる?」
「うん、いや、もう大丈夫だよ。」
「そっか、多分ね、それお母さんだよ。」
「知ってたのか?」
「うん・・・あの・・・ね、実はね、両親、離婚するの。親権って言うの?それをどっちが持つかって揉めてるのよ。私がもっと小さければね、親権はお母さんになるらしいんだけど、私もう高校生だから私の希望が左右するみたいなの。」
「そうか、ま、そういうことになるな。お母さんは仕事は?」
「してない。専業主婦ってヤツ?」
「それじゃあ恐らくは、父親の方になるだろうなぁ。生活能力があるわけだし。」
「うん、そうらしい。でも、私が母と暮らしたいって言ったら、お母さんに親権が来るみたいなの。だからお母さん、私の部屋に・・・」
「だからと言ってな、盗聴なんて許されない。もっとちゃんと話し合えば済む事だよ。」
「うん、そうなんだよね。でもウチってさ、そういう話は殆どしない。ご飯の時もあまり話さないな。そう言えばね、お父さんとご飯食べる時無いんだ。殆ど外で食べて来るし。」
「離婚の原因って何なんだ?お父さんは、その、他所に・・・」
「無い無い。それは言い切れるな。父は私の事が大好きだし、多分お母さんの事も・・・」
「お父さんが家でメシを食わなくなったのは、どれくらい?」
「えっと、私が覚えているときにはもう。いつも外で食べてくるから、だからお母さんもお父さんの食事は用意しないんだ。」
八野の脳裏に過るものがあった。
たったワンピースが抜けたパズル。
そのたったひとつが無いばかりに、バラバラになるしかないパズル。
この家族は、パズルを揃えたい事だけに頭が回り、ひとつのピースが足りない事に気付いていない。
もしかすると、意外に簡単な所にその抜けたワンピースが落ちているのかもしれない。
「なあ、ちょっと聞いてくれ。物事ってのはな、たまにどうしても伝わらなくなっちまう事があるんだ。例えばな、一方が伝えたいと思う。そしてもう一方が理解しようとする。それで初めて伝える事ができるケースがあるんだ。しかしな、特に夫婦の様に身近な存在になっちまうと、伝えたいとか理解したいという気持ちが疎かになっちまう事がある。でも親子ってのは別だ。親子はどんな事をしても伝わるもんだ。千尋クン、君が両親の架け橋になってやれ。子別れという落語がある。ま、これは長い話でね、3つに区切って話すんだが、そのおしまいの3つ目だけを端折って話す時、子は鎹(かすがい)という題目になる。千尋クン、君が鎹になるんだ。もしかすると、離婚を回避できるかも知れない。」
「私に出来るのかな、そんな事。」
「なぁ、千尋クン、今度な、君がメシを作ってお父さんとお母さんに食わせてやれ。」
「え?だって私、カレーくらいしか作れないよ。」
「いいじゃないか、いや、そのカレーがいい。千尋クンは両親が離婚する事は反対なんだろう?」
「うん、嫌だよ。出来ればすっと一緒がいいよ。私、お父さんもお母さんも大好きだよ。」
「いいか、千尋クン。食べてくれる人のことを思い浮かべ、決して手を抜かずに、しっかりと味見をして千尋クンが美味しいと思えるように作るんだ。それをお父さんとお母さんに食べて頂け。そして話すんだ。家族全員が言いたい事を言って、全員が理解するまで。千尋クンも言いたい事を言うんだ。そしてお父さんとお母さんの話も聞いてやれ。朝までかかってもいい。家族全員が素っ裸で自分をさらけ出せるまで、しっかり話してみなさい。」
「私・・・やってみようかな、鎹。でしゃばるなって怒られちゃうかもしれないけど、でも何もしないで後悔したくない。」
「おお、やってみなさい。俺への報告はいらない。自分のためにやってみなさい。」
千尋の目を見て、八野はこの家族は大丈夫なような気がした。
それはこの千尋という少女には愛嬌が残されていると、八野はそう直感したからである。
~つづく~
ええ、八野さんは料理はしませんので。。。
心をを込めて、というアドバイスに留めました。
あ・・・フィクションの主人公だっけw
おお!読んでくださってありがとう~!
これで3人目の読者です。。。
人とのつながり、いいですよねぇ~。
私もそういう人との繋がりが好きで、ニコッとをやっています。
でも、リアでこんな風に繋がりが発生するのも素晴らしい事ですね!
最終回はこれからUPしようと思います。
是非読んでくださいね!
え?オムニバスで・・・
きっこさんが読んでくださるのなら、書いてみようかなぁ・・・
期待しないで待っていてください。
この話って、特別な物語でもなんでもなく、ごく身近に起こりうる話ですよね。
こういう風に人とのつながりって、あるんですよね。
この家族の中だけでなく、八野さんと千尋ちゃんのつながりとか。
なんにも表示もしていないのに、「雰囲気」だけで繋がっちゃう何かが。
素敵なお話 ありがとう。
もちろんこれは単なるエピソードの一つで、
もっともっとオムニバスでいろいろ紹介してくれるんでしょう?
おお~!2人目の読者ゲット!
読んでいただいてありがとです。。。
以前にも書いたもんで、また書こうかと頑張ったのですが
今回のはなかりショボいモノになってしまいました。
ま、前回のモノの方が良く書けていると思いますので
よろしければブログの「自作小説」を見てください。
ま、暇つぶしくらいにはなるかもしれませんので。。。
いい子でしょう?
ちょっと無茶してでも無理を通す、行動力のある女の子を書きました。
今回はあまりごちゃつかずに、このまま解決させてしまう感じですねぇ・・・
ご期待に沿えず申し訳ないのですが。
まぁ、最後は八野調査士に振りかかる厄介事と
続編を匂わせる形で〆ようかと・・・。
まぁ、ちょっと腰砕けになっちゃうかもしれませんが、読んでください。
何せ唯一の読者ですから^^
更新があったので気になり開いてみたらあらあらあら・・・w
つい①から読んでしまいました(*^ω^*)
とりあえず続きがきになりまふw