地上の波④
- カテゴリ:自作小説
- 2012/09/19 20:18:09
八野は再び、千尋を家の近所まで送る事になった。
千尋は車を降りる直前に、再び思い立ったように話しかけてきた。
「そーだ、八野さん、もうひとつお願いがあるんだけど・・・」
「なんだね、また。」
「夏休みにさ、八野さんのところでバイトさせてくれない?」
「残念ながらな、ウチはバイトを雇うほど収益は出ていないのだよ。」
「大丈夫大丈夫。私もう決めちゃったから、よろしくね・・・じゃない、よろしくお願いします、所長!」
千尋はそう言って、八野の返事も聞かずに走り去っていった。
一週間が経ち、学生達が夏休みに入った頃。
八野のマンションのインターホンが鳴る事になる。
「なんか臭くない?この部屋・・・」
制服ではなく、リクルートスタイルの千尋がそこにいた。
「はい、履歴書。今日からお世話になります!あらら、まずはお掃除からね。」
「おい、よせ!この部屋は若い女の子に見せれるようには出来てないんだ!」
部屋には昨夜飲んだビールの空き缶が転がっており、皿は食べ散らかしたままだった。
洗濯物は溜まり放題で、下着も靴下も床に落ちたままだった。
千尋は洗濯物を洗濯機に放り込み、洗い物をし、部屋に掃除機をかけた。
一通り片付けると、改まった姿勢で八野に報告をした。
「所長、ご報告があります。鎹作戦、大成功でした。」
「えっ?おお!そ、そうかそうか!」
「はい、あれから所長が言ったように、私、カレーを作ったんですよ。両親に今日は私が夕飯を作るからって。お父さんも早く帰ってきてって言って。最初は無言で食べていたんだけどね、私が言ったんだ。ねぇどうして嫌いじゃないのに、誰も悪くないのに、家族がバラバラにならなきゃいけないの?って。」
話は千尋が生まれる前に遡った。
千尋の父は証券会社に勤めていた。
千尋が生まれるにあたり、出産費用や子供用品を買うため、父は進んで残業をこなすようになった。
不景気のあおりを受け、父の会社は業績が伸びずにいたが、父は自分の仕事が終わった後も営業を続けていた。
その結果、父の成績は上がっていったが、父の帰宅は毎日遅くなっていった。
そのため父の夕食は外食がメインとなり、家で夕食を摂る事は殆ど無くなった。
やがて千尋が誕生し、母は子育てに追われ父の夕食は作らないという日課が生まれた。
しかし、こういった歪んだ家庭環境は、家族としてお互いがストレスとして感じるようになった。
父は実は家で愛する妻の料理を食べたいというストレス。
一方、母は愛する夫に食事を作ってあげたいというストレス。
そして帰らないから作らない、作らないから求めないという図式が出来上がってしまった。
つまりは家族として、みんなで夕げを囲みたいという願望が満たされないというストレス。
決定的になったのは、夕食の時間を共有しないという事が原因で、そういった願望を口に出して訴える事が困難になってしまったストレスが、この夫婦のすれ違いになってしまったのである。
「結局ね、お父さんもお母さんも、家で皆で食事がしたかったらしいの。」
「それじゃあ、千尋クンが作ったカレーは、喜んでくださっただろう?」
「うん、とっても喜んでくれてね、いっぱい作ったのに速攻で無くなっちゃったんだよ。」
「そうかそうか、良かったなぁ・・・って、よかねーよ!誰が採用するって言ったよ!」
と、その時、非常に都合よく電話がなるのである。
「ほら、仕事だよ、仕事!はい、八野探偵事務所です。」
「こらぁ!勝手に出るな、しかも俺は探偵じゃないぞ!」
「はい、います、おります、少々お待ちください。所長、杉原様という方から。」
「げ、杉原~?まずい・・・。」
「あ、八野ちゃ~ん?とうとう始めたんだ、探偵。しかも若い女の子まで雇って。」
「ちがうちがう、コレには事情があるんだっ!」
八野は頭を掻き毟りながら、叩きつけるように受話器を置いた。
「ああ~俺はどうしたらいいんだっ!」
盗聴調査士、八野武蔵の苦悩はこれからも続く事になる。
~終~
お茶碗!
う~ん、当たったら怪我しますな。。。
ま、ソコは加減して投げておられたとは思いますが・・・。
投げる前から、投げたら割れる事はわかっておられたとは思いますので
実質被害は確実に出てしまうわけですよね。
ま、それで少しでも鬱憤が晴れれば安い被害なのかもしれませんが・・・
結構、星一徹張りの頑固親父様なのですねぇ(笑
しかし、最近は、投げたくてもセーブしてるみたいな気配;;
もう代わりのお茶碗がないのがわかったんでしょうね;;
怪我しなかったのが幸いです。あ~~あ。
いや~ありがとうございます。
昨年のモノも、おんぷさんには読んで頂きましたね~。
一応コレ、シリーズ化しようと目論んでいます。。。
ええ、ハチの武蔵に、海の千尋・・・
次回は熟女殺しのホスト役で、若井燕君(若いツバメ)を登場させようかな。
こういう登場人物の名前考えるのって、なかなか楽しいのですよ、ハイ。
人間と言う動物は、他の動物と違って食事は単なる栄養やエネルギーの補給ではないんですよね。
その時間を愉しむのだと思います。
一人きりで食べる食事の、なんと味気無いことでしょう。。。
だから、例えご主人が遅い日でも、飲み物だけで同じ時間をお付き合いするのも
きっとよろしいかと思いますよ。
お子さん達はちょっと寂しいでしょうけどね~。
そうでしたか~お父様とのバトル・・・。
でも、考えようによっては、食事中だからそれで済んだのかも知れませんよ。
そうでない時間だったら、手が挙がってしまったかも。。。
いつも一人で食事をしていた私にとっては、それも羨ましい事ですよ。。。
お嬢様にカレー!
いいじゃありませんか!
一緒に作るのも、楽しいですよ!きっと!
料理は一番愛を込めやすいと思いますしね。
楽しい夕げになる事、間違いありません!
また、このシリーズを書くかもしれません。
また読んでいただければ幸いでございます。。。
一気に読ませていただきました~~~(^-^)
そうかあ。「ハチの武蔵」^^なるほど~。
改めて、「食育」という言葉をおもいだしました。
「食育」って、子供のためにある言葉のように思ってましたが、
そうじゃありませんね。。
子供だけじゃなくて、大人の心をも育てる。。。
我が家も、今の地に住む前は、夕食は、私と子供、そして遅くに主人と言うパターンでした。。
今は、主人の帰りも早くなったので、食事は殆ど一緒です。
今になって揃うっていうのが、逆に難しいのかな~?
なんて、思う時があります。。。
小さい頃に、一緒にいてくれたら良かったのに。。。って。
反抗期真っ盛りの中高生VS定年間際の父 のバトルは、すさまじいものがありましてね;;
時々、恐怖の食卓になってしまうのです。。。
ふと、思いましたよ。
娘にカレーを作ってもらおうかな?なんて。。。
私自身、かつ丼を作って、両親に褒められてから 妙に自信が持てましたからね^^
今度のお休みに、ちょっと機会を作ってみます。。。
いつもながら、引き込まれる作品!
ありがとうございました。
読むのが遅くなってしまってごめんなさいね^^
はい、名前を決めるのに苦心しました。
はちのむさしっていいでしょ?死にはしませんが。
一応、敬愛する小池一夫先生の
主役のキャラを立たせろ
という事を念頭に書きました。
ズボラで商売が下手で、それでも自分の信念は曲げない。
そして相手の事を第一に考え、優しさを見せる。
そんな主人公を書こうと思いました。
続きは・・・一応これで終了なんすよねぇ。
次の事件が起きるまで、少々お待ちを。。。
いやいや、まだ高校生という事で。。。
犯罪になりますから^^
続きをヾ(・。・)
千尋ちゃん、お嫁に欲しいですwww