9月自作/〇〇の秋『まつり 2』
- カテゴリ:自作小説
- 2012/09/19 23:26:44
白那=しらな と読みます。
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圭一がプルトップを開けて手渡すと、
「うれしいねぇ」
にっこりと笑みながら喉を鳴らす。
「変な女だな」
「そうかい?」
「ビールなんて珍しくもない。こんなものがそんなに嬉しいのか」
この日から、ビール片手の奇妙な逢瀬が始まった。
そして暑い夏は過ぎ、稲穂は実り刈り取られ、秋祭りの今日と相成ったのだ。
白那は自分の事を何も語らなかった。ただ圭一のとりとめのない話にやわりと受け答えをする。
実に変わった所の多い女だった。
圭一がたまには違う場所で美味い物を食べようと誘っても、頑として境内より外に出ることをしなかった。
圭一も無理強いをしたり根掘り葉掘り聞く気にはなれず、それよりも他愛無い話を延々と交わすのがむしろ楽しかった。
祭の賑わいに乗じてだろう。圭一の気分はいつくもより高揚していた。
そこに運悪く一匹の小さな蛇が石台の後ろから這い出て来て、白那の足元で止まった。
「待ってろ、今退治してやる」
小さな頭を踏み潰さんと圭一の足が振り上げられた。
「おやめよ」
圭一の足に手を添えて、やんわりと白那が制する。
「無害なもんさ」
あっちへお行き、と手を振ると従うように蛇は鎮守の杜奥へ頭を向けてよろよろと這ってゆく。
「白那は蛇が平気なのか」
「どうだろうね」
「つくづくと変わった女だな」
随分な言い様だが、圭一の口の悪さには初っ端から慣れている。白那は長い髪を掻き上げながら蛇の去った方を見やった。
「蛇ってのは無様で哀れな生き物さ。手も足も持たないばっかりに腹で張って歩く姿を気味悪がられ、かと思うと変な姿を何やら信仰の象徴にされたりして都合の良い時ばかり祀り上げられる。
後ろへ進む術も持たないから、前に進むことしか出来ない。
おかげで前に立ちふさがる輩が居たら、どんなにでかい相手でも牙を剥いて立ち向かうしかない。後ずさることを知らないのだからね。
おまけに無駄に長生きだ。
本当に哀れとしか言い様のない無様な生き物さ」
散々な言葉を口にしながら、けれどその瞳は穏やかに笑んでいる。
「本当に変な女だよ」
とうとう、最後の缶が開けられた。
「もっと呑むか? 買ってこよう」
立ち上がる圭一のシャツの裾を白那は引っ張った。
「もういいよ。充分だ。それよりも圭一に話がある。聞いてくれるかい?」
白那から話を持ちかけてくるとは珍しい事もあるものだと、圭一は座り直す。しかし続けて聞かされた言葉は衝撃で、圭一は眩暈で頭が揺れた。
「私達が会うのはこの夜で最後だよ」
「急に何を?」
白那は軽く目を閉じて、圭一から顔をそらす。
「私はこれから眠らなければならないからね。長い眠りだよ。圭一とはもう会わない」
「冬眠かよ」
冗談を言っているように聞こえておどけるように聞き返したが、白那は圭一の瞳を再び見つめ話し続けた。
「春になったら目覚めるけれども、もう圭一には会わないよ」
「俺は白那の気に障る事をしただろうか」
「そんな事じゃない。自然の摂理というものだ。
それに、春になって圭一とまた会ったなら、私は圭一を愛してしまうだろうからね」
「それは悪い事ではないだろう」
「悪い事ではないよ。けれどね……
私が男を愛すると、彼らは皆豊かになっちまうのさ。そして私は忘れられて捨て置かれてしまう。
何しろあの境界から一歩だって出られやしないのだからね。
そして私を忘れた男は今度は落ちてゆくのさ。とても不幸に。
私はもうそんな生き様など見たくはないのさ。だから圭一の事も、気に入っている今の程度で終いにさせておくれ」
鳥居をじっと見つめて淡々と話す白那に、圭一は黙りこんでしまった。
圭一には白那の言う意味が解らない。
戸惑う圭一の頬を白那の冷たい掌が撫でた。色の薄く細い唇が近づいてくる。
「けれどね、最初に圭一に言った事は叶えておくよ。小さいけれど、幸福をあげよう」
冷たい唇が一度だけ触れて、溶けてゆく雪の結晶のようにするりと消えて、圭一は独り残された。
翌日より、本当に白那は姿を消し去ってしまった。
それでも諦めがつかず圭一は、ビールの袋を抱えて毎日訪れた。
会えない白那を想って一本だけ缶を自分で干すと、プルトップを開けた缶を石台に置いて立ち去る。
翌日に来ると缶は無くなっており、次のビールをまた置いて帰る。
冬を超え春を迎える頃、圭一は悟りに近い想いで呟いた。
「供物ってのは、見返りを求めて捧げるもんじゃない。自分の幸せの証を形にして見せて、喜んでもらうために奉納するものなんだ」
白那が聞いたらにっこりと微笑むだろう言葉を零す圭一に、神主が声をかけてきた。
毎日神社を訪れてひとときビールを呑みながら過ごす青年を案じた節介やきの神主は、この神社の事務をしてみいなか、ともちかけたのだ。
晴れて職と収入を得て、圭一はやっとで新たな門出を迎え、白那の言葉を思い出し呟いた。
「これがおまえのくれた幸福か」
初夏の青い空に風が泳ぐ。
「けれどおまえは知らないのだろうな。
今俺が幸福に思えるのは、ただ仕事に就けたからというものじゃない。
この境内で、おまえの存在を感じながら生きてゆく事が出来るからだよ、白那」
そしてその想いもいつかは必ず届くのだと、信じられた。
「でも、その頃には俺は爺さんになっちまってるかもな。何せおまえは無駄に長生きだからな」
仕事を終えて帰る前に、石台で一本のビールを空けて、一本を捧げる。圭一の習慣はこれからもずっと続くのだろう。
気まぐれに人と交わり長くを生きる、寂しい白蛇を祀るこの聖域で。
-了-
読んでくださってありがとうございます^^
蛇の女性擬人化をすると、必ずと言っていいほど妖艶な美人ですよね^^
白蛇抄…聞いたことがあるような…
内容をしりません><
あぁぁ感想のお礼を書くのを忘れてました!(今さら…ww)
私が書くものって、かなり冒頭から既にネタバレしてる物が多いんですよね(^_^;)
何だかそういう展開がクセになってるのかなぁ…直さなきゃなぁ…^^;
読んでくださってありがとうございました^^
白蛇抄というのがありましたよね
けど、爽やかな感じで読めてよかったです^^
白那さん、また気まぐれにビールのお礼に姿現してくれるといいね^^
う~ん・・・いや、むしろ全く無縁に生きる方が、もしかしたら圭一には幸せなのかも?
ちょっぴり辛い恋になってしまったかな。
「まつり」のテーマ、自分の分書けたので、こちら読みに戻ってまいりましたん♪
雰囲気つくりとテーマがぶれないよう、精進します。
ありがとうございます(´▽`)
途中で犯人が判っても別にどうでもよく
雰囲気やらキャラの面白さ、テーマと合致していれば
それでいいと考えます
言葉使いからして普通じゃない雰囲気を作ったせいで
早々にネタバレするかなぁ、失敗したかなー
と思っていたのですが、そんな薄ぼんやりなバレ方も悪くないのでしょうか^^
ありがとうございます(´▽`)
世の中には出会いにすら恵まれない方も……
(ノДT)
神社ではないけど、お地蔵さんに願い事する人がよくいますが、
あれって間違いなんですよねぇ
たまーに、よく願い事叶えてくれるお地蔵さんっていうのが居ますが、
叶えてもらったらお礼をしに行かないと失礼にあたるんだそうです。
うちの氏神さまでもそうですが、お供えがいつもお酒なのに
お祭りする当人たちはビールで盛り上がるんですよねぇ
絶対神様は「羨ましいなぁー」って思ってますよ、ビールww
蛇は、神様の使いとしての信仰があるみたいで、昔、住んでいた近くの小さな神社にも、蛇の絵が描かれた絵馬がたくさんおいてありました。
白い蛇も人気があって、たくさんありました。
こうして、蛇さんたちは信者を集めているのですね~。
今の蛇さんは、お酒じゃなくて、ビール党w
読んでくださってありがとう(´▽`)
うーん、スミマセンスミマセン~
案外深く考えないで思いついた状況を淡々と乗せて行っただけなんです~><
例えば、秋⇒収穫⇒祭⇒酒⇒お神酒⇒神様呑み飽きた⇒ビール⇒飲んでみたい⇒
⇒神様長生き⇒きっと神生飽きてる⇒ビール飲むチャンス⇒うわぁまた置き去りにされるよ⇒
……みたいな流れでキャラクター設定してプロット組んで……て感じで……だから、
取ってつけたみたいにこんな風に思ってこれを書きました!みたいな事は言えないのです~
でも真剣に読んでくださってありがとう(´▽`)嬉^^
出会ったもの同士、必ず別れの時は来る。
今この一瞬でさえ、目に見えず過ぎていく。
二度とは戻せないもの。
別れのつらさと、出会って心が通じ合った時のことを大切に思える気持ち、
どちらが、より大きなものとして残るかはその人だけの答え。
ひとそれぞれ・・・
私は・・・
別れの悲しみに押しつぶされる事を恐れるよりも、
出会えた喜びを大切にしていたいです^^
圭一さん、白那さん、そしてちょみさんはどうですか?^q^
偶然の一致!
ちょこまか書いてきましたけど、そういう一致は初めてです~><
どうもすみませんというか、なんというか…^^;
モデルとか特定に居るわけではないので!
どうか甘い物でも食べて傷を癒してください~><
読んでくださってありがとうございました^^
読んでくださってありがとう~(´▽`)
神様っていうのはだいたい呑ん平と相場が決まっているのですよ(・∀・)
R18かぁ~蛇さんだからなぁ…
爽やかに終わりそうにないですねぇww
「女性のための官能小説」ってやつですよね。
一度投稿したことがあります。
一次にも引っかかりませんでした^^;
BL以外でR18はあたしには無理ですぅ…;;
モデルはちょみさんとみたが?^^
夜な夜な白蛇にょしょうと逢瀬くりかえし、
無限の愛欲の煉獄に囚われていく、、、
みたいな、思いっきりR18な展開もあり?
女性作家の登竜門でR18文学賞ってあるし。