Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


「契約の龍」(75)

 「シーサーペント、マーメイド、リヴァイアサン……マーメイドの後ろの、マーマンが消してあるのは?」
 「マーマンはマーメイドの男性形なんだ。ユーサーの「龍」は、女だから、マーマンではないな、と思って」
 「…なるほど、道理だな。…これだけなんだ?」
 「図書館の資料にあった限りでは。あとは獣系、軟体動物系…あと、なんだっけ?」
 …さすがにそれでは、「龍」とは呼ばない。
 「で、マーマンはマーメイドの男性形、っていうと、マーメイドは人間の女の姿をしてるんだな?…どこかが」
 「あ、マーメイドは、いわゆる「人魚」だ。上半身が人、下半身が魚。…あれが魚だとしたら、ずいぶん長い魚だが…海にはいるのかな?そんな長い魚が」
 「それを俺に訊かれても。魚にはあまり詳しくないんだ。明日、専門家に聞けば?」
 「…そうだな。「龍」の種族が何であれ、海にいるものってわかっただけでも、ここに来た甲斐があった」
 …なるほど。その発見で、上機嫌なのか。いずれにせよ、クリスの機嫌がいいのは、何かと助かる。
 「…で、クリスはどれが怪しいとにらんでるんだ?やっぱり、マーメイド?」
 「よくわかったな。何でだ?」
 「人魚に的を絞ってなきゃ、こんな本は借りない」
 テーブルの上に置いてある「人魚伝説」「人魚研究」を指さす。
 「なるほど、名推理だ。…これによれば、人魚が海で遭難した人を助けた例があるとか。…ただなあ…一般的に言って、人魚は、龍族ほどには力が無い。そこがねえ…」
 「ああ。なるほどね。…ところで、「龍」の種族が判ったとして……それでどうするんだ?」
 既に一度ならず「龍」に接触しているのに。
 「……どうするつもりだったんだっけ…?」
 「クリス…」
 「…思い出した。「龍」と取引する手段にするつもりだったんだ」
 「…取引?どうやって?」
 「…まあ、有り体にいえば、「脅し」?」
 脅し、って……
 「…でも、それより有効なカードが手に入ったから。「ユーサー」っていう」
 「それを、どう取引に使うつもりだ?」
 「んー…「それはユーサーじゃないんだから、あきらめて手放せ」かな?率直にいえば。…でも、おとなしくあきらめそうにはないよね。何とかして、納得させる材料を見つけないと」
 クリスの思惑通りに、そんな材料が手に入るとは考えにくいが。

 ユーサーの足跡巡りは、定石通り「生まれたとされる家」から始まった。…そういう観光コースが、あらかじめできているらしい。実際にこの建物でユーサーが育ったのかどうかは、年代が古すぎて疑問だが、まあ、念のために。
 「…あぁ…「復元」って書いてあるな。場所も、どうやら実際と違うらしい。ほら」
 クリスが案内板を指差して、がっかりしたように言う。実際に生まれ育った家があった場所は、なるほど現在は運河の中だ。それならばまあ、仕方がない、と思ったが…
 その後案内されたどの場所も、実際に彼が残した足跡とは微妙に違う場所に事物が残されている。港の桟橋のあった場所に至るまで。まるで、意図的にユーサーの痕跡を消しているかのように。
 「何者かの意図を感じるな」
 「うーん。それは感じるけど、何のために?…大体昨日今日始まったものではなさそうだし」
 たとえば、運河の開通は、資料によれば三百年余り前。計画自体はユーサーが存命の頃からある。
 ルートの決定がいつかは判らないが、そう新しい時代のことではないだろう。
 「それは認めるが…」
 だから、その「何者か」はユーサーだったり、その身近な者である可能性もある。
 ユーサーの絵姿さえ残っていなかった事を考えると…
 「…クリスは、「相似の法則」って知ってる?」
 「「相似の法則」?……聞いたことがない」
 「かなり古い魔法理論で、「姿かたちの似た者は、互いに影響し合う」っていう考え方。権力者の肖像や、正確な地図がない時代は、たいていこの理論が幅を利かせている。…たぶん、ユーサーの時代もそうだったんじゃないかな。…理論、っていうより、流行かもしれない。めちゃくちゃ写実的な絵とか彫刻の上手い人が出てくると、それを叩くように復活する、みたいな」
 「…へえ…そりゃ傍迷惑な流行りだねえ。…っていうか、どうして私が「ユーサーの顔が知りたい」って言いだしたときに、それ、教えてくれなかった?」 
 「あ、いや…最近入手した知識だから…」
 …だよな?…たぶん…
 「ふうん…」
 クリスが不審の目でこっちを見る。自分自身でさえ疑わしいのだから、当たり前だ。

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