「契約の龍」(77)
- カテゴリ:自作小説
- 2009/07/17 07:54:06
クリスが言いにくそうに口ごもる。
「…で、何がしたいんだ?」
「……今度のは、本当に、相談なんだけど。…大公の引き揚げ役、どうしようかと思って。私が支援して、彼にやってもらうか、私が引き揚げ役を引き受けるか」
見つけられることが前提なんだな。だけど。
「……それの、どこに、俺に相談する必要があるんだ?」
「…事故から随分と時間が経っているから、見つけるのにどれくらい時間がかかるか判らないから…いずれにせよ、アレクの支援が必要になる、と思って。……だめ?」
「支援するのには異存はないが…なんで俺には引き揚げ役が割り当てられないんだ?」
「私が、嫌だから。引き上げるのは、ただの「もの」じゃないんだよ?……たぶん、彼も同じことを感じる、と思う」
「…」
「だから、私はついていかないで、彼に探索を任せてる。…焦れったくて、しょうがないけど」
クリスが大げさに溜め息をつく。それから、おもむろにこちらへ手を伸ばしてきて、「あまり時間がかかるようなら、もう少し足元がしっかりしたところの方がいいと思うんだけど…移動するの、手伝ってくれる?」と言う。
「…はいはい、仰せのままに」
集中状態の魔法使いを、状態を維持したまま、移動させる。二人がかりで。
灯台への登り口に到着したのと、魔法使いが「見つけた」と低い声でつぶやいたのは、ほぼ同時だった。午後の陽がだいぶ傾いている。
「…では、そこをポイントして、戻ってきてください。引き上げている時間がありません。…ゆっくりでいいですから」
階段に座らせた魔法使いの耳元で、クリスが囁く。
「…この灯台って、人がいるのかな?…それとも、暗くなったら光るようなしくみになってるのかな?」
空いているほうの手で、反対側の腕――魔法使いに「力」を送るために、まだ手を離せずにいる――をさすりながら、クリスが言う。
「人が常駐できる規模ではなさそうだけど…人が灯りを灯しに来るにしろ、魔法で光らせるにしろ、じきに判るんじゃないか?夕暮れもそう遠くなさそうだし」
入り口のドアを見上げてそう言うと、クリスが焦れたように反論した。
「日が暮れる前に、それを知りたいと思ったから、訊いたのに」
「ああ、なるほど。…寒いんだな?」
「まだ、寒いってほどじゃ…」
なにかつづけて言おうとするクリスの横をすり抜けて五段ほどの階段を上り、灯台の入り口前に立つ。ドアにカギは付いていないようだ。ドアを押すと、抵抗なく開く。中は薄暗いが、上の方から入ってくる明りで、ある程度中の様子はわかる。
「中のほうがまだ寒さがしのげそうだ。ここで待たせてもらおう」
「あ…中、入れたの?」
クリスがこちらを見上げて言う。
「どうやら、そのようだ」
「不用心だな」
「ここまでの道がああだから、ちょっとした待避所になってるんじゃないかな。街からもちょっと離れてるし。…その代わり、二階へは容易には行けないようになってる。主だった設備は、上にあるようだ」
「ふうん…じゃあ、アレク、悪いけど、もう一度手を貸して」