すっきりんクロニクル第1.5章「旅と旅と旅」
- カテゴリ:自作小説
- 2012/11/27 21:05:16
金沢の狭い路地に粉雪が降り始めた。
白くなっていく路面を着物姿の白人女性が見つめている。
店の戸がすっとわずかな音を立てて開き、白い割烹着を着た男が出てきた。
黙って雪の舞う空を仰ぎ見る。
「アスタナーシャ もう入ろう。」
高倉賢がしばらくたってから言った。アスタナーシャ 高倉(Анастасия takakura)は青い瞳で、夫を恨めしそうに一瞬見つめ、黙ったまま、白いうなじを見せ店の中に入っていった。
息子が旅に出たのは15年前だった。
夫に似た渋い雰囲気の当時14歳の息子は、詰め襟の学ランを着た中学生だった。その青い瞳と白い肌のせいで学校の男子の間では浮いていたが存在感はあった。女子の間ではその容姿が評判だったが、それも彼の学校での孤独を深めていた。
そんな彼に対し、母親は常に優しく接した。父親は彼自身の倫理に外れたときのみ厳しく、普段は黙って見ていた。
中国で始まった戦争は世界に広がっていた。スーパーインフレのせいで経済的にも国力にも価値がなくなった日本には戦火は及ばなかった。ただ飛行機なんてものは10年前から飛んでいなかったし、移動手段は鉄道だけになっていた。
日本の片隅、金沢という田舎にある彼の店「すっきり屋」はインフレも戦争も影響せず売り上げも順調だった。さすがに全国展開のチェーンは手放していたけれでも。
3人にとってはそれなりに幸せな時間が流れていた。
ある日、手紙が届いた。アスタナーシャはポストからそれを取り出し、ふと、封筒の表書きを見た。
「賢さんへ。すっきりんより」
と書かれていた。
夫に渡すと、夫は驚いたように手にとり、封筒を開き、便せんに書かれた短い文章を読んだ。
そして、深いため息をついた。
妻は賢のため息する姿を初めて見たので少しびっくりした。
「どうしたの?」
「その時が来たんだ。」
その夜、夫は天井裏から一振りの日本刀を出した。
息子に渡した。
「これをもって「うずまき国」に行け。そこにお前の運命が有る。」
「え。なにそれ?あのアフリカの小国?戦争地帯を歩いて突っ切れってこと?」
中国から西アジアにかけては過酷な戦場だった。
「勉強も学校ももう十分だ。そこに行くのがお前の人生にとって一番だ。」
アスタナーシャが遮った。
「待って!あの冬の日本海をボートでわたれっていうの?私がボートピープルとして逃げてきたあの日本海を。。。」
少女だった頃のアスタナーシャは、シベリアからの難民だった。乗っていたボートが沈没し日本海を漂流していたのをイカ釣り漁船から飛びこんだ賢に助けられたのだ。そして 美しい女性に成長し彼の妻となった。
アスタナーシャは息子を思い泣き叫んだ。夫は彼女にかまわず、息子にうずまき国までのルートと目的地の正確な緯度経度を説明した。
泣くのに疲れた妻は二階にあがり床についた。夫はなにかを息子に説明していたようだが、しばらくすると上がってきて布団に入った。妻は少し安心して眠った。
次の日の朝、息子は日本刀と荷物をまとめ既に日本海へ向かっていた。
彼女は夫をなじったが、夫は首を横に振るだけだった。
「これが一番いいんだ。」
夫の言う言葉の意味は彼女には全く分からなかった。
それから、しばらくしてアジアの各地から息子から無事であることを知らせる「連絡」が来た。オゾン層破壊による電磁波侵入や潜水艦による海底ケーブル破断工作活動により通信網はほとんど破壊されていた。メールや携帯や電話が使えない、この時代の事を考えれば、「連絡」が来ることは奇跡的なことだった。
「連絡」は「人づて」であったり「手紙」であったり、ときにはマーカーで「OK。大丈夫!@かぶーる」と書かれたポストイットが新聞に貼付けられて配達されたりと多彩なスタイルだった。しかし、彼女はそれだけで安心できた。
そして二人と「すっきり屋」の15年が過ぎていった。
アスタナーシャは雪降る路地に夫を残したまま店に戻った。カウンターの上にトイレットペーパーが置かれていた。最新の「連絡」だ。何度も読んだそれを、彼女はもう一度読み始めた。
「お母さん。
ぼくはついに「すっきり国」に着きました。
ボートはやっぱり転覆したし、戦闘に巻き込まれたり化け物に襲われたりとかいろいろ有りました。でも、シンガポールでお父さんの日本刀を両歯の剣に仕立て直してからは、怖いものなしです。何でもよく切れます。
そして貴重な友人との出会い。別れも有りました。
お父さんが教えてくれた場所、この国の元宮殿があったところには、カプセルが置いてあって、とても可愛い女の子が眠っていた。本当にとても可愛かったので、なんとなくキスをしました。彼女は起きあがって、一緒に旅をすることになって、いろいろと僕に教えてくれました。
妖怪や野獣ばかりだった、その国を横断する時には、いろいろな人が助けてくれた。村の人達は彼女のことを「王女様」って呼んでる。
でも、彼女は泣くんだ。自分が作り出した化け物が村の人達を怖がらせるのに、自分はお世話にばっかりなっている。村の人達は優しくしてくれるのに、その国を捨てて次の旅先、そして「世界の果て」に向かっていく。それが申し訳ないって。
村人の人達は、それでも王女様がいたからこそ、今の自分達は幸せな生活を送れるんだっていって、バナナとかリンゴとか置いていってくれる。そしてみんな「よい旅を。」と優しく声をかけてくれる。
僕もね。彼女と話していると彼女の悩みを聞いているだけで、少しずつ自分自身のことが分かってくる気になるんだ。そして彼女に感謝している。
今は、タンジェというアルジェリアの港町まで来ました。ジブラルタル海峡をわたりたいんだけど、連邦軍の「白い悪魔」というのがスペイン側で暴れ回っているらしくて船が欠航して待っているところ。
だから大丈夫。僕は幸せだし旅を続ける。父さんと母さんも2人の旅を続けてね。
じゃ、またね。」
彼女はトイレットペーパーを巻き直すと深いため息をついた。
旦那にはもう少し優しくすべきだよ。あんなに高倉健に似た人なんてそういないんだから。と隣のホステスから言われたのを彼女はふと思い出した。
窓の外には雪がまだ降っている。
しょーがいがあるほど恋は燃えるんだい。萌えるんだい!
だから道は険しくても人生は楽し!^^;
賢さんじゃないや健さんさいこーです。
役柄と本人の雰囲気とがばっちしあってますよね。
健さん、いいよね~~。。。網走番外地、最高。。。
昔書き散らしたものなのであんまり覚えてないな。
と言っても今年の三月くらいだけど。
ま、世界観を整えるというか、時代背景を少しずつ説明したかったんだけど、
相変わらず、継ぎ接ぎで、行き当たりばったりのストーリーですね。
息子さんは中学生だったのが、もう29ですからね。
五年間かけてアジア横断って。
何やってんだか。
でも、妻の気持ちもわかるかも・・・
なんにしても、息子さんいろんな意味ですごい人だ。