11月自作/冬支度『迎冬』
- カテゴリ:自作小説
- 2012/11/30 01:44:58
※) 微同性愛傾向
種とか畑とか
イヤンな方は回れ右してください
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暗くなり始めた窓の外を眺めて美奈は小さく口ずさむ。
「何? 歌?」
年の離れたパートナー、遺伝子研究者の結が美奈の肩を抱き寄せながら尋ねる。
「大学で教えてもらったの。昔の歌ですって」
振り返りもせず淡々と答える美奈に少しだけ眉間に皺を寄せて
「最近の大学はそんな事も教えるの」
と尋ねてやっと美奈は振り向いた。
「三枝さんが教えてくれたの」
同じサークルだと聞かされていた女性の名前を出されて、結は眉を顰めた。
「彼女の趣味?」
「さぁ。三枝さんが歌っていたから聞いたら、教えてくれたの」
「暗そうな歌ね」
美奈は困ったように微笑んで「そうね」と答えてまた、視線を窓の外に移した。
結は抱きしめる腕に力を込めながら少しだけ溜息を吐いて、「もういいわ」と呟きながら首を振る。
「そんな事より、あの件は本当に受けなくていいの?」
ぴくりと肩を震わせながら美奈は瞳を閉じる。
「ごめんなさい」
重くなりかけた空気を振り払うように結は努めて明るい声を上げた。
「いいわ。美奈に無理はさせたくないもの。
種を受けるのは私一人でいいわ。
私達婚姻してるのだもの、問題は無いわ」
「ごめんなさい……」
結は謝る美奈の唇を、自分の唇で塞いだ。
直接の原因は何だったのか。ある時期を境にこの世界から《男》という種は消えた。
残された女達は急ぎ、今まで男に預けていた政を自ら立ち上げ事の究明に急いたが、結果は芳しくなかった。
かろうじて残されていた冷凍種子を、受けるに相応しい女を厳選し処置を施したが、生きて産声を上げたのは女児ばかり。事態は悪化の一路を辿る。
そのさ中に、追い打ちをかけるが如く世界は激変した。
「とうとう政府が氷河期宣言を出したわね」
大学のカフェでランチを食べていた最中、三枝から声をかけられ、美奈は「どうぞ」と隣の椅子を引いた。
「計画も早まるのかしら」
「移住計画? 来月の予定だったけど、一週間ほど早まる可能性はあるわね」
男達がまだ健在だった時代に勧められていた宇宙コロニー移住計画。
元より男女の技術的な力差が既に同等となっていた時代。その当時から懸念されていた氷河期再来への対策は、男が消えた世の中でも着々と進められた。
「私達とうとう宇宙に出るのね」
「怖いの?」
「少し。三枝さんは怖くないの?」
「私は移住の権利が無いもの」
「え?」
三枝はくすりと笑った。
「全人類がシャトルに乗ると思っていたの?」
「だって」
「まぁいいわ。コロニーでは染色体操作で男児を造る研究もするそうだから、貴女もいつか男児に恵まれる日を祈っているわ」
そう言い残して、美奈の胸内に
――移住権利って?
ひとつ疑問を残し、三枝はカフェから姿を消した。
その疑問に答をくれたのは、結だった。
「美奈には必要無い問題だから黙っていたのに」
要らない事を教えて、と顔も知らない三枝に腹を立てる。
種を受け入れるには完全な健康体でなければならない。
氷河期を迎えた世界を捨てて、繁殖の為のみに実行される移住計画。
三枝は染色体異常の診断を下され、移住はおろか種の受け入れ権利すら無い最下層の存在だったのだ。
「だったら私にも権利は無いわ」
「権利ならあるわ。美奈は私のパートナーだもの。女が独りで子供を産んで育てる事の精神的負担が問題になっているのは知ってるでしょう?
だから移住計画には婚姻している事が条件でもあるのよ」
「でも」
曖昧なまま疑問を打ち切られる事を避けようとする美奈をきつく抱き寄せ、結は彼女の白いうなじに唇を這わせた。
「もうこの話はやめましょう。あと一回、最後の検査を受ければ宙に行くのよ」
しかしそれは叶わなかった。
最後の検査で美奈の異常が発見されたのだ。
何故?
今まで何十回と検査を通って来たのに?
気も狂うほど荒れ狂う結とうらはらに、美奈は穏やかにその結果を受け入れた。
その穏やかさに結は
「私を愛していなかったの?」
「私はこんなに美奈を愛して、大学にまで行かせてあげたのに!」
美奈は目を逸らし「ごめんなさい」と呟いたきり、口を噤んだ。
知ってしまったのだ。
最後の検査だから「全てがうまくいきますように」と祝福の言葉をくれた三枝から聞かされた。
移住する女は全員が種を受け入れる規則なのだと。
繁殖の為、僅かな可能性も漏らす事は許されない。
結がその事実を伏せて美奈を説得してきた事実は、彼女の端末を盗み見する事であっさりと知れた。
>コロニーに入ってしまえば逃げる場所もありません。
ゆっくりと説得します。
移住計画責任者に充てた消去し忘れの一文に美奈は自ら命を捨てる事すら考えた。
けれど、愛している。
もしかしたら種を避ける事も可能かもしれない。
結が自分と同じほどに愛してくれているなら。
そう、腹を括った矢先の検査結果に、結と行けなくなってしまった現実よりも、胸で重たかった石がさくっと砕けたような心地よさを感じてむしろ驚いた。
結果、結は遺伝子技術者として単身の移住権利を手に旅立つ事となった。
かつて愛し合った半身との別れを見送る美奈に三枝が声をかける。
「残念だったわね」
「ええ。でもほっとしているの。
怖かったから。
もう生きていない男の種を受け入れて、顔も知らない男の子供を育てるなんて……
だからきっとこれで良かったのよ」
「そう? 私はちょっと複雑だわ」
「なぜ?」
「あのシャトル、私も整備に参加したのよ。
本当なら《万が一の事故》に備えて移住予定者しか関われない仕事だけど、貴女達が乗ると知って、私も手伝えないかなって。
貴女に幸せな未来を掴んで欲しくて」
成績優秀が幸いしたのだと。
ずっと好きだったのだと。
けれとも三枝が美奈と出会った時にはすでにパートナーが居た。
「どうしても貴女が欲しかった。でもそれは叶わないから……」
――せめて結と添い遂げられるように――
シャトルは宙を目指して爆音を上げ飛び立った。
「彼女達は宙へ。私達は地下へ……氷河期をやり過ごす為の地下に潜るけど、もうこの世界に種は残ってないから、私達は滅びる日をただ待つだけ。
繁殖は失われ、残されるのは快楽だけ。
それでいいと思えるなら、私と一緒に生きて欲しい。
考えてくれるかしら?」
告白に戸惑う美奈に
「答は急がなくていいわ」
そう言いながら美奈の腰に手を回し、
――でも、万が一の可能性は消しておかないとね……
美奈を抱き寄せる腕と反対の手をコートのポケットに入れる。
突然の告白に困って宙を見上げて話を逸らすように美奈が
「もう、見えないわ」
厚い雲に覆われた空へ消えたシャトルを視線で追えば、
「そろそろ熱圏を出た頃ね」
答えながらコートのポケットでカチリと小さな音を鳴らした。
その音が何を意味するのか、美奈には知る由もない。
「美奈さん、私ね、貴女がこうして傍に居てくれるのがこんなにも嬉しいなんて思ってもみなかったわ」
「三枝さん?」
「貴女を失わなくて、本当に良かった。
繁殖も未来も何もかも無くなってしまったこの世界だけど、貴方が居る、それだけで救われるわ」
犯してしまった大いなる贖罪からも。
長い、終焉へと向かう冬が来る。
不毛となった愛だけが、狂わんばかりの世界に残された、彼女たちの最後の希望、冬装備となり……
読んでくださってありがとうございました^^
男の人だけ残っちゃう世界より、女だけ残る方が現在では現実的にありそうですね^^
個人的には終焉に繋がる方が物語としては好みなのだけど、
それじゃ夢も希望もないかなぁ…とか思ったり、です^^
人類の終焉かはたまたそこから新しい一頁が始まるのか…
読んでくださってありがとうございます^^
300年後って、きっとあっという間でしょうねぇ。
その間にどれだけ科学や医学が進歩するのか、この数年間の進歩っぷりを考えると、
ちょっと恐ろしくもありますね^^;
その分色んなウィルスも進化していくだろうし…
こういうことが起こるかもしれませんね
ゲノム解析があるから、もう少し、あがくでしょうれど…
読んでくださってありがとう~(´▽`)
SFにしたかったわけではなくて、ふつーに書いてたらSFになっただけで…^^;
自分の知識に自信が無いので公開は避けてますが、
SFっぽい作品やファンタジーは実はそこそこに書いてるんですww
無理にSFでなくても、味わいがでる気もしましたけれど
SFにしたかったのですよね^^
読んでくださってありがとう~(´▽`)
そうそう、船の塗料のせいで、うちの近所でもアサリが食べられなくなってしまった浜があります~
摂れるんだけど、食べれない…辛いです><
クマノミなんかも性転換しますよね。
単純な生き物ほど性別の偏りや環境の変化に強いということでしょうか。
でもどんなに環境が変わっても、それを受け入れてあるがままに死んでいくことができるというのも、
また幸せの形のひとつだと思ってます。
受け入れる事は抗うことより時に難しいけども、そういう生き方をしようと、無駄な努力ばかりしています。
船舶(大型客船から小型の漁船まで)のメンテナンスを行ったあとに、「カーペン」という船底塗料を
塗るのですが、その塗料の影響で性別がとても偏ってしまうそうです。
一部の魚類の中には同性ばかりの群れに入れておくと、性転換して繁殖するものもありますよね。
実際に人間が云々という話になるとなんだかピンときませんが・・・^^;
自然のまま~。 あるがまま~。 iPS細胞もどこ吹く風~、といった生活がしたいなぁ・・・^^
たとえそれが長い終焉に向かうだけのことでも、なんにも考えずに受け入れちゃいそう^^
読んでくださってありがとう(´▽`)
生き残ったのが♂だけ……
BL的ビジュアルならステキだと思うけど、リアルで考えると辛いものがありますねぇ
あ、百合でも同じか…ww
でも本当に将来iPS細胞やら色々な技術が進歩して
営みなくても子供ができるようになったら、同性愛の問題も解決しますねぇ
「カチリ」…なるほど(・∀・)
そういえばうちの坊は水疱瘡を経験してません…ww
微百合♡♡♡
逆設定のお話もありましたよね、生き残ったのが♂だけって・・・(ムサイようなwww)
将来、iPS細胞でなんでも出来るようになっちゃうんでしょうけど
やっぱり自然の営みの方がいいな…なんて
(まだ明るいですねwww┏○))ペコ)
最後の「カチリ」でカチリを想像した私(職業病ですwww)
読んでくれてありがとう!><
>この世界にパラダイスはない。
>生き物はそこを目指して生きるのに。
だから人はパラダイスを目指すのだ。
だけどそれは未来の繁栄の為ではなく、
自分が愛した人と添い遂げる、それだけがパラダイスの本当の意味。
終わる事が最終目的のパラダイスだから、これはこれで皆幸せなんだと思う。
いつかみんとちゃんと会える場所が、永遠に花咲く天国だったら、嬉しいなぁ…
天国って、あたしには遠すぎて(^_^;)
読んでくださってありがとう~
世の中が男だけになったら、あっさり全滅しそうな気がするんですよ。
女の方が生汚い生き物ですからねww
そういう意味で、女が消えた世の中でどう世界が終わっていくのかも関心が無くはないけど、
そういうのは私が男性の生理を理解できない限り書けないでしょうねぇ…
世界の♂♀が片方だけになったら、本来なら自然治癒的に
性転換がなされるのだけど、人間は複雑すぎてそうはいかないだろうから、
繁殖に適した体を厳選するのは当然の成り行きだと思います。
そんな経緯を淡々と書けたらいいなぁ…
そうなんです! 文字数制限のせいなんです~
もっともっと色々設定があったのですけど、一話完結で書こうとしたらこうなってしまいました~
2話に分けていればもっと深く書けただろうけど、今月のお題ということでちょっと焦ってしまいました^^;
本家サイトに転載する際は、それなりにもっと書き込んで転載しますよ^^
SFというよりは、純文に近い禁断愛かなぁ…と思って書いたのだけど、
まだまだそこを表現しきれない実力が切ないですぅ
読んでくださってありがとう(´▽`)
以前お付き合いのあったほもの方の名言?
「レズはホモより怖いのよ」
だから女に惚れちゃダメよって……
だから女しか選べないような未来を造らないように頑張らないといけませんね^^;
読んでくださってありがとう(´▽`)
狂うから、愛であって、愛だから狂おしいのでしょうね
ヒトの本質はここに在るような気がします
読んでくださってありがとう(´▽`)
いや続編はないですなぁ
最後の一組がどういう最後を迎えるのか、
後味の良い読み物になる気がしませんww
たとえ未来でも、現在につながるものがある。
てか我々人類の洒落にならん存亡を、女性達がつむぐ美しくやるせない日々に昇華させてくれたよう。
この世界にパラダイスはない。
生き物はそこを目指して生きるのに。
いつか、みんなの願いを一身に受けた種子が 花咲く場所が永遠の天国だといい。そんな思いで読みました。
よしながふみの「大奥」は男の数が減少しただけど、この物語では完全終了^^
いくところまでいっちゃったら、冷凍保存ブツやiPS細胞の登場なんですね...
でもちょっと怖いのは、母体に適してるか遺伝子チェックされるくだりです.
採血だけの新型出生前検査が始まったりしてるから、機運は熟していますね♪
女性が絶滅した逆バージョンもありそうだけど、女だけの方がシリアスですね.
んーと、ところどころ「んんん?」って思うとこはあったけど、
これ文字数のせいなんでしょうねー!
まぁ私のカンが悪いってのもあるけど・・・(-w-スマヌ
ストーリーは面白かったですぅ^^ SFなんですねー!
女だけの世界かぁ・・・うーん・・・美女なら許せるけど、ぶ女は許せない私です。
えぇ、自分のことはさておきです(-w-;
Y染色体って、だんだん欠けて小さくなっていって、遠い未来にはなくなっちゃうと言う研究結果もあるみたいです。
愛憎劇って言う位だし。
今回はユリのエッセンスを振りかけたSFモノですね!
続編、ありますか?^b^
読んでくださってありがとう(´▽`)
繁殖の危機に陥った時に一番強い者?が性転換を成せる、クマノミ効果でしたっけ?
かなり勉強不足で記憶があやふやですが^^;
文字数制限枠内で無理やり書いたせいで色々と説明不足に陥ってますが、
紫草さんの読み通りに、美奈の最終検査も三枝の操作のせいです。
と、いうのも書こうと思ったのだけど…読み取っていただけて嬉しいです^^
美奈が主人公のように見えますが、個人的には
破滅的思想を堂々と実行に移せる三枝タイプが好きなので
自宅サイトに転載する時はもう少し書き直そうかなぁ…と思ってます。
確かに、書いてる間は深く考えずに書いたけど、
こうして改めて感想を頂いてみると、考えさせられる事ですね…
読んでくださってありがとう(´▽`)
そうそう、爆破なんですよ^^
ブログ文字数制限内で収めようとしたもので、色々説明不足になってしまいましたが
解っていただけて嬉しい^^
自然界の単純な生命体は性別転換を自然に行えるようですが、
人間のように複雑になってくるとどうなのかなぁ…
女性も体内で精子を造れるようになるんだろうか…
ちょっと勉強不足で、この辺突っ込まれると困るなぁ、と思いながら書いたのですがww
本当にこういう未来になった時、どういう未来を選ぶか、色々と試されそうですね^^;
読んでくださってありがとう(´▽`)
ブログ文字数制限内で収めようとして、色々たくさん端折ったのですが、
解っていただけて嬉しいです^^ >爆破
美奈がシャトルに乗ったら、自分の手に入らないなら、という思いで爆弾を仕掛けたのですが、
乗らなかったらそれはそれで、万が一結が帰ってきたら…と危惧して
全員巻き込んでの爆破です…
こういう破滅的な女性になれたらなぁ…と憧れますvv
読んでくださってありがとう(´▽`)
あながち有り得ない未来でもないですよね(・∀・)
そのうち日本の首相も女性がやればいいと思いますw
三枝のした贖罪が、美奈を残すためにした検査結果を操作したというは予測がつきますね。
それほどまでに思われるって、幸せなのかな。
ただ、もしも真実を知ったら、一人で行かせてしまった結のことをどう思うのかな。
何だか、いろいろと考えさせられるお話でした。
でもユリというよりは、SFですね^^;
おもしろかったです!
生物って、危機的状況になったらメス化するっていうし、
案外非現実的ってことでもないかも?
爆破・・・?
爆破しちゃったの?
女としては微妙なとこですよねえ、知らない人の子供を生み育てて繁栄を
願うか、すっぱりあきらめて現実を生きて滅びを待つか・・・ううむ。
読ましてもらいました、なんとも おもしろかったです、想定がとっても嫌いではなく、楽しめました。
ポケットのかちりは、やはり爆破なんでしょうか、宇宙に行った人はみんな絶滅かなぁ。
今、草食系って言われてるし精子の数も減ってるって聞いてるから、これは凄い小説だね~^^
面白かったです。^^