ハッピーアイスクリーム~前編~
- カテゴリ:自作小説
- 2012/12/05 16:39:36
歌番組の収録を終わらせた結は、楽屋で座り込んだ。
「はぁ~、何か疲れた・・・。」
「結!ほら何してんだ!?次ドルマガの取材だぞ!急いで着替えろ!」
「ハーイ・・・。」
マネジャーに呼ばれ、しぶしぶ着替えて楽屋を出て、マネジャーの車に乗った。
「ねぇ、荒木さん。今度いつ休み取れるんですか?」
「あのなぁ、10日前に取ったばかりだろう?」
「そうですけど・・・。」
結は人気アイドル。
親友に誘われて受けたオーディションに受かり、はじめはCM,バラエティーやドラマにも出演するようになり、最近では歌も出し、仕事は順調に進んでいた。
今や、雑誌の取材やテレビ出演やらで引っ張りだこである。
しかし最近、自分が何をしているのかよくわからなくなってきた。
レギュラー番組の収録、わずかな睡眠時間、10日に一回来るか来ないかの休暇、と生活リズムは乱れきっていた。
そもそも結をオーディションに誘ったのは、小学校の時からの親友である理恵だった。
彼女もそのオーディションに受かり、主に歌手として活動している人気アイドルである。
以前ある番組で共演したとき、彼女はこう言っていた。
「ステージに立って踊ったり、かわいい衣装を着て歌ったりするのって、すっごく楽しいよね~。」
確かに最初は結もそう思っていた。仕事は楽しかった。
しかし、今ではよくわからない。
(私って、何でアイドルやってるんだろう・・・。)
雑誌の取材が終わり、バスで帰ろうとした。
ところが、疲れてボーっとしていたせいか、変える方向と違う方向のバスに乗ってしまった。
仕方なく、次のバス停で降りて、帰る方向のバスを待つことに。
「はぁ~、もう疲れのせいだな~。」
ふっと見ると、バス停の近くにアイスクリームのお店があった。
「ちょうどよかった。疲れているし、何か甘いもの食べたいと思ってたんだよね。」
すぐにお店へ入った。
「いらっしゃいませ~。」
若い男の店員さんが2人いた。
ショーケースを見ながらフレーバーを選んでいたその時、店のドアベルが鳴った。すると
「結!結じゃない!」
(え?)
振り返ると、そこにいたのは理恵だった。
「理恵!久しぶり!」
「わぁ~、会いたかった。ここんとこ、仕事忙しくて全然会ってなかったもんね~。」
2人は久々に会えたことを喜んでいた。と、
「え?もしかして、タレントの堀野結ちゃんと田村理恵ちゃん?」
(ゲッ!バレタ・・・。)
2人そろってサインと写真を頼まれ、それからアイスを選んだ。
30種類近くのフレーバーの中から、結はチョコマーブルとストロベリーのダブル、理恵はチョコミントとブルーベリーのダブルにした。
バス停のベンチに座ってアイスを食べながら、結は今の心境を理恵に話した。すると
「そっかぁ・・・。結もそんな風に悩んでいるんだね。」
「結もって、もしかして、理恵も?」
「うん・・・。なんだか忙しすぎて、その・・・憂鬱って言うか。」
2人は愚痴をこぼしながらアイスクリームを食べた。そして、食べ終えたその時、
(グラッ)
(うっ!)
結は突然、ひどいめまいに襲われ、周りの景色がグニャリと歪むのを感じた。
よく見ると、目の前の理恵も表情がひきつっている。
(ま、まさか・・・理恵も・・・?)
二人はその場で倒れこみ、意識を失った。
気がつくと、辺りは真っ白。結はフワフワと浮いているような感じがした。
「ここ・・・どこ・・・?」
と、キョロキョロしていたら、目の前に何か見えてきた。最初はぼんやりしていたが、次第に鮮明になってきて、声も聞こえてきた。
「これって・・・」