Nicotto Town


まぷこのぶろぐ・・・か?


「契約の龍」(85)

 手を洗って戻ってくると、ソファの前のテーブルの上に、薬瓶がきちんと並べられていた。…なぜか金属製のバターナイフとナプキンも。
 「何でバターナイフ?」
 「いちいち手を洗うのは面倒だから。適当なへらが無いから。サイズがちょうどいいから。…宿の人に了解はとったよ?」
 「いつの間に?」
 「帰ってきてすぐ。夕食の注文のついでに。ナプキンは、サービスかな?」
 「抜け目のないことで。…じゃあ、薬塗るから、背中出して」
 俺が手を洗いに言っている間に、後ろ前に着直していたらしい、バスローブの合わせ目を緩めると背中が露わになった。確かに、背中で全体で一番ひどいのは、うなじのあたりだが、ほかにもうっすらと赤みがさして盛り上がっているところがいくつか見られる。丁寧に、一つづつ塗り潰していく。
 「これで全部、かな?…ああ、そうだ」
 確か顎の下あたりも赤くなってたな。自分では見えないところだから、塗り残してるかもしれない。そう思って何気なく薬をつけていない左手で顎の下に手を触れると、
 「…!」
 クリスが何とも言えない声をあげて頭を跳ね上げた。
 「…びっくりした。…何?どしたの?」
 びっくりしたのは、こっちも同様だが…クリスのあまりのうろたえぶりが、妙にかわいい。ので、こちらの立ち直りの方が早かった。
 「あ、ごめん。そこ死角になってるから、塗り残してるんじゃないかと思って。…不用意に触って、悪かった」
 「そ…そう?ここも、赤くなって、る?」
 「ああ。だから、動かないように」
 上を向いて固まっているクリスの顎の下に薬をつけて、処置終了。
 「はい、おしまい。お疲れ様」
 「ど…ども、お手数を…」
 「薬はどこにしまっておくんだ?」
 「あ…とりあえず、ベッドサイドテーブルの上に。このバターナイフも…お願い、します」
 うーん。挙動不審だ。物言いも、いつもと何か、違う。
 薬を片づけて、手を洗いに洗面所へ向かう。ゆっくりと手を洗い、ついでに塩っぽくなった顔も洗う。居室の方に戻る前に、様子を窺うと、部屋着に着替えたクリスが、何かぶつぶつ言っている。
 「…クリス?」
 「なっ…何でもない…っ!」
 うーん…妙にびくびくしているような気がするんだが…
 試しに食事のワゴンを運びながらクリスの傍に近付いてみる。こっちの様子を窺っているのは判るが…どうしてだ?
 「あのさ、クリス」ワゴンの上の料理を、テーブルの上に移しながら、困惑した口調を心がけて言う。
 「俺、何かクリスに警戒されるようなこと、した?」
 「しっ…してないっ…ていうか、警戒なんか、してない、よっ?」
 「…そう?」
 手を伸ばしてクリスの顔に触れようとすると、クリスがわずかに体を引く。
 「その反応で、警戒してない、って言い張るのは、無理があると思う。そんなに触られるのが、厭?」
 「違う!…厭じゃないから、困るの!」
 「…は?」
 「たぶん、薬の影響かなんかだと思うんだけど…さっきから、アレクの手が触れるたびに…もっと触って、って言いだしそうになっちゃうから、困る、の」
 「ほーお?」
 クリスの背後に回り込み、そっと両手で頬に触れる。
 クリスがかわいらしい声を零す。
 「それは、いい事を教えてもらった」
 「…アレクぅ…卒業まで、問題になるような事、しないんじゃ…」
 「ここ学院じゃないし。第一、顔に触るくらいで問題になるんだったら、さっきの方がよっぽど問題行動、だと思うが?」
 「…だね。私が考えなしだった。…だからお願い。食事させて」
 今度はお願い、ときた。かわいすぎるぞ。
 こちらを見上げる目が、熱っぽく潤んで、クリスにできるとは思えないほど色っぽい。
 というか…これって、発熱では?
 「…クリス?もしかして、熱があるのでは?」
 「判らないよぅ。アレクが触ってたら」
 掌を額に当ててみる。奥の方から伝わってくる熱の源が、体の不調であることは探り当てる。
 「…うん。やっぱり、熱出てる。感覚が妙に敏感なのも、そのせいだよ、きっと」
 「…何で、そゆこと、さらっとやっちゃうかな、この人は。仮にも女の子の体なんだから、少しは遠慮したって…」
 クリスの絡み口調は、あまり良くない兆候だ。…いろんな意味で。
 「はいはい、ごめんなさい。熱で無防備になってるところに、無理やり押し入りました。反省してます。…でも、医者は呼ぼう?」
 額に置いた掌の下が、うっすらと汗ばんでいる。
 「…処方箋、ベッドサイドテーブルの抽斗に入ってるから、お医者さん、手配して」
 「処方箋?」
 「医者の名前が入ってる。だから、説明する手間が省ける」
 「…なるほど」

#日記広場:自作小説

アバター
2009/08/05 00:04
ドキドキしてしまったww
アバター
2009/07/25 00:04
えーと、クリスは16歳前後、アレクはそれより2歳くらい上、を想定しています。

新しい登場人物が出てくるたびに、年齢の調整がややこしくなっています…
「王族はみな一旦は学院へ入学する」なんて設定、作るんじゃなかった…
アバター
2009/07/24 23:51
クリスとアレクは学生みたいですが、何歳ぐらいなんでしょう。
アレクの方が少し大人みたいに思えます。
まぷこさんの小説、おんとに表現が詳しいですね。
アバター
2009/07/23 21:51
お邪魔します<(_ _)>

 ええっ!!
 と思いきやw



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