Nicotto Town



黒猫目日記番外10

松の内も今日まで、拙宅の松飾りもすでに取り払った。
里の挨拶回りはすでに済ませたが、遠い都に住んでおられるお爺様の従兄弟方には流石にお年賀参りは出来なんだ。

そもそも、其れがしはあまり旅をしたことが無い。里の知り合いのご親族には遠く異国にまで出掛けられた方もおられると聞く。
都の御館への参賀以外ではこの度の影共が唯一の旅と言えよう。
聞けば、寒い雪の中遥々湯治の為に温泉へ出かける方々もおられるとかだが、其れがしの里山には温泉が湧いている。
もっぱら、猿や熊が浸かってはおるが人もその気になれば入れぬことはない。少々険しい道を行かねばならぬが小屋も建っておるし長湯治も出来る。
其れがしの師匠は手ぬぐいと酒どっくり一つぶら下げて山を越す。

山を三つ四つ越えた向こうには海がある。峠の上から水平線を眺めたことがあるが、まだおとづれた事はない。
(実は、この街には海岸があって、夏場には海水浴なることができるそうで、密かに楽しみにしておったりする。)

あくまでも其れがしの勤めは姫の影共である。
姫の居られるところが其れがしのあるべき場所フラフラとあちこち彷徨くわけにはいかぬ。

しかし、もし姫がいずれかに漫遊されると言われるならばこの黒めは必ずお供いたしましょうぞ。





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