Nicotto Town



好きだった授業

好きだった授業は高校に多かった。
成績は最悪で試験ごとに再試を受け、毎年留年の危機に瀕していたが、中学までにはない自由さがあった。
と言うか、中学は校内暴力が盛ん過ぎて、あまりまともな授業にありつけなかったのだが。

まず思い出すのは倫理。
当時、受験科目は『政経倫理』だったから、2年次の政経か倫理どちらか選択というのはまったく受験に直結しないものだったが、そんなおおらかさが気に入っていた。
私が取ったのは倫理。
教師は熱心なカトリック教徒の先生(男)だった(学校もカトリックだった)。
最初の授業で先生が言ったことは忘れられない。

「皆さんにはプラトーンの書いたこの『ソークラテースの弁明』を買っていただきましたが、1学期はこの本だけを使います。この本を少しずつ読み進めながら場面ごとに小グループになって、討論してもらいます。倫理や哲学というものは、自分の中で深く考え、他人と討論して相手の考えを聞き、それによって考えを変えたり、自分の思いを確固とするものです。皆さんは勉強というのは何かを教わることだと思っているかもしれませんが、それは基本を学ぶときのこと。高校ではまだそんな学びも残念ながら多いですが、大学では自由に討論し、考えを言うのが大事なのです。ありがたいことに、この倫理は受験に関係ない教科です。だから存分に討論の楽しさを学びましょう」

「2学期からはソクラテスの後の哲学をざっと紹介していきますが、私はキリスト教が支配した中世は哲学の暗黒時代だと思っていますのでその時代は端折ります。一応哲学者も出ていますが、あれは弾圧を受けて為政者に都合のいいことしか言えなくなっている、中身のないものですから。どうしてもその時代を知りたい人には参考図書をお教えするので、自分で調べてくださいね」

すごい爽快感を得たことを覚えている。
そして討論ばかりの授業は私の性に合っていた。

次に古文。
ちゃきちゃきの江戸っ子の先生(男)は、飲兵衛っぽい塩辛声のおじいちゃんだったが、この先生の授業はテンポがよくて面白かった。
活用などをしっかりやらせる先生で、「アヒルの公式」とか「アヒルのノート」など、オリジナルな教材を作ってみんなに配り、「オラオラお前等、これを丸暗記すれば古文はバッチシなんだからな。何しろこの俺の自信作だ。このアヒルのノートなんて某有名予備校が教材に使わせてくれって何度も頭を下げに来てるんだぞ。だめだって言ってるけどな」
と胸を張っていた。
「何でアヒルかって? 俺が好きだからだよ」
と笑っていた先生は、私には
「お前さんは丸暗記が苦手なんだろ。なら仕方ないからおめえは古典をたくさん読め。読んだらテンポでなんとなく意味もわかるだろ」と言ってくれた。
私は本当に暗記が苦手で、どうしようもなかったのだ。
けど、おかげさまで大学の卒論は源氏物語を題材にする程度には古文も好きになった。
文法はまったくわけわからないが。

そしてフランス語。
入ってはじめて知ったのだが、この学校語学教育に力を入れていて、英語はもちろん1年次はフランス語も必修だったのだ。
私、中学時代も英語は3しか取った事がなかったのに・・・。
もうどうにもならず、1年次はフランス語、2年と3年次は英語のお陰で留年すれすれ、アップアップ半分おぼれながらの高校生活だったのだが、大人になってもあのときの発音や会話テープのセンテンスだけは覚えている。
意味は全然覚えてないのに。
以前モロッコに行ったとき、これが役に立った。
モロッコはフランス語圏だが、発音はすごく現地ナイズされている。
私が覚えていたのは「コマンタレブ(ご機嫌いかが)?」と「メルシー(ありがと)」「アンカッフェ、シルブ、プレ(コーヒー1杯ください)」くらいだったのだが、発音だけはばっちりだったので土産物屋への牽制になった。
これにマダーム(と自分では思い込んでいる)な微笑みを加えたら最強だぜ! とずうずうしくあしらえたのは、高校の時みちこ先生がスパルタ教育してくださったお陰だろう。
先生、本当にありがとう。
全然意味を覚えてなくてすみません。

本当に一番好きだった授業は、高校3年の時、通った予備校の日本史だったのだが、これについて書くには文字数がやばくなってきてしまった。
だが今はもうない研数学館には素晴らしい名物教師がいたのだ。
その先生が最後の授業で言った話は今でも胸に焼き付いている。

「何故日本史を勉強するのか。それは歴史は繰り返すものだからです。この1年、為政者が飴を出す時には必ずそれ以上の鞭があることを学びましたが、それは現代も一緒です。新聞やニュースにもし飴があったら、絶対にそれ以上の何かがあるのです。そして何か事件があったらそればかりを見るのではなく、その歴史的意義は何になるのか、先のことを考えてください。そのヒントは歴史の中にあるはずです」




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