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うみきょんの どこにもあってここにいない


かわいい江戸絵画展 その2


 府中市美術館で開催されている「かわいい江戸絵画展」(平成二五年三月九日─五月六日)に行ってきた。四月七日までが前期展で、四月九日からが後期展。全作品が展示替えされる。六日と十二日で、前期・後期、それぞれ出かけた。
 きっかけは、たぶん「奇跡のクラーク・コレクション展」(三菱一号館美術館)だったかで見つけてきたチラシだ。
 長沢蘆雪や円山応挙の《豊干禅師》で、禅師と眠った虎がよりそいあっている姿、その虎のやすらかな顔、仙厓義梵の《虎啼風生図》の、竹に猫がじゃれるように頭をこすりつけている虎のひたむきで愛らしい姿、好きな若冲も展示があるらしい、第一チラシの表紙をかざる円山応挙の《狗子図》のそれぞれ白、茶色、こげ茶と毛色の違う、三匹の犬のまんまるとした、わらうような表情のやさしさ…。若冲以外は、これまであまり触れることがなかった画家だけれど、三つ折りでA4になっている、裏表六面のチラシに紹介されている十三点の絵が、まずやさしい誘いとして、心に響いた。出会いがあるだろう。「かわいい」はそして、たぶん幼年につうじるだろうと思った、わたしがたぶん探求しなければならない幼年に。

 チラシや、HPなどから、まず展覧会概要を、略しながら。
 
「  日本絵画史上、「かわいらしさ」が作品の重要なポイントとして打ち出されるようになったのは、およそ江戸時代のことではないでしょうか。(略)かわいらしい題材を描いたものだけではなく、たとえば、文人画の山水や人物にも、見る者の心を和やかにしてくれるものがあります。はかないもの、頼りないものへの共感や愛惜が、あえて素朴に描かれた線や形そのものに対して湧き上がるのかもしれません。
 はかないものや可憐なものに寄せる思いや慈しむ気持ち、あるいはユーモラスに感じることなど、私たちが「かわいい」という言葉で表すことのできる感情は、実にさまざまです。江戸時代の人々は、そんな豊かな心の動きを絵に表し、絵を通じて楽しみました。
 また、「かわいい絵」が盛んに楽しまれた背景の一つには、かわいいものを「それらしく」表現する方法が確立されたことがあるでしょう。幼い子供や子犬は、時代を問わず「かわいいもの」だったはずですが、古代や中世の絵に、私たちの目から見て、かわいらしいと思えるようなものは、あまり見当たりません。つまり、「かわいいもの」と「絵としての表現」は別だと考えればよさそうです。(中略)ただカメラで撮影するように対象を写しただけで、かわいいと感じる絵ができ上がるでしょうか。彼らは、かわいいものを「かわいい形」として描く術を模索し、確立したのだと言えるでしょう。
 かえりみれば、造形が立派かどうか、精神の高邁さといった観点から語られてきた美術の歴史の上で、「かわいい」という言葉が使われることは殆どなかったように見受けられます。このたびの展覧会では、近年ちまたで注目を浴びているこの言葉をあえてキーワードとして、これまで見落とされてきた江戸絵画の魅力の根幹に迫ります。」

 前期展は、バスと電車、そしてまたバスを乗り継いでいった。家からそれほど離れていないところに美術館はあるのだけれど、すこし交通の便がわるい…片道二時間以上かかった。つめたい雨がふっていたので、よけいに時間がながく感じられた。けれども、美術館は都立府中の森公園の中にある。日本庭園をとおり、桜並木をくぐりぬけ…(桜はあらかた散ってしまっている、もうほとんど桜の木だ、先週ならば桜たちが見ごたえあったろう…この並木の感じは、わたしがかつて住んでいた場所の近くの公園、光が丘公園のそれに似ているな…)、やっと着いた。ともかく往復四時間半。で、展覧会はとてもよかったのだけれど、少々疲れてしまった。ひとつには近いはずなのに…という頭があるからだろう。家に帰ってきて、パソコンでルートをしらべると、家から美術館まで、十三キロ、徒歩で二時間四〇分と出た。たった十三キロだ。自転車をつかえば一時間ぐらいだろう。おまけに途中まで、最初の四キロぐらいは、知っている道だ。そこを一回まがって国道にでれば、ほとんど一直線。ゴール近くで、前期展でみかけた「府中市美術館へ」の案内標識が出てくれば、それにそって二度ほど曲がればつく…。というわけで後期展は自転車で出かけた。国道は、車の助手席に座って、何度か通ったことあるところだけれど、自分ひとりで、自転車で出かけたことがない。なかば未知の場所だ。未知だけれど、たまに見覚えのある、行ったことのある店などに出くわす。第一、府中市美術館自体、以前車で連れていってもらったことがあるところだ。なにか既知と未知の間を、自転車ではしっている、そんな中途半端さがここちよくもあった。そして後期展にいった金曜日、十二日は早朝は仕事だったし、翌日の土曜の早朝も仕事だ。仕事と仕事にはさまれた、休日ではない、けれども休日めいた、あいまいな時間…。この中途半端さが、やはりここちよくもあった。
 後期展にでかけた金曜日はおおむね晴れ。前期展は雨で、寒かったせいか、あまりまわりの景色などをみつめる気にならなかったせいもあるのだろうけれど、後期展に出かけたその日、あたりはあちこちで、もはや新緑がやさしい色をかもしていた。緑たち。基本国道を走るので、しょうしょう排気ガスが気になったけれど。梅もすっかり木になっていた。葉をつけて。藤もだいぶ花をさかせている。そして府中の森公園、ようやく。桜並木もすっかり、ほぼ完全に桜の木になっていた。新緑が生き始めたような色でやさしい。日本庭園や噴水の水の音。
 
 二回行っているのは、前期展で、響くことが多々あったから。それは予兆のようだった。なんの予兆だか、書いている今もわからない、けれども、さて、展覧会。これを書いている今日、前期と後期行ってしまった後なので、展覧会の感想も、前期と後期で分けるのではなく、基本的にはもはや前期と後期、あわせたものにしてしまおうと思う。






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