詩の回想。弐【ハイカラ】
- カテゴリ:自作小説
- 2013/04/14 13:50:04
# - 昔話
――私は〝炎雫(えんだ)〟として、〝詩(うた)〟という名の巫女になるはずだった。
人々の願いを聞き、時に叶え、出鱈目な未来を占ってやり、嘘の儀式を執り行なってお祓いをして、不思議な能力(チカラ)を使ってたくさんの人を魅了させた。
いつか種が明かされるのを恐れながら、日々を淡々と座敷牢の中で過ごしていた。
ずっと。物心ついてから、つく前から、両親と引き剥がされて、ずっと、ずっと。
宗教の一種だったのだと思う。寄って集って私を取り巻く全ての人間は「詩様」と呼んで頭を垂れた。
そういえば父親も母親も、「詩様」と呼んでいたような気がする。
思えばその頃の私の世界はそれだけが全てだった。
黒髪と色違いの目を持った少女は祀られる。
代々〝詩〟という名を付けられ、やがて若さを失い信仰を欠かないために、十八歳になるまでに子供を作って死ななければならないと決められていた。
一族全員が見ている中、座敷牢に裸で曝され生きたまま腹を切り裂かれて、身ごもった子供を引きずり出されて殺される。
婚約相手は決まっている。隣の家の――〝氷雫(ひょうだ)〟の〝舞音(まおん)〟という名の神子だ。
〝氷雫〟の家では、黒髪と色違いの目を持った少年が代々〝舞音〟として祀られる。
私の父と母は黒髪だったが色違いの目では無かった。
でも、色違いの目で世界を見たって何も変わるわけがなかった。
見えるモノなど同じなのだ。穢れ、腐った世界が見えるだけだ。
初めて〝舞音〟と会わされたのは四歳の誕生日だった。
二つの家の中心に造られた小さな座敷牢で、それぞれの両親を引き連れてその日の早朝から翌日の早朝まで顔を突き合わせた。
最初は互いに自分たちが「似ている」ということだけを意識した。
一ヶ月に一度会わされ、やがて歳が上がるごとに間隔はだんだん短くなり、一ヶ月に二度、両親が付き添わなくなって一週間に一度、三日に一度、そして毎日になった。
私たちは酷く似通っていた。顔も、性格も、姿さえも。
やがて互い必要以上に意識し始め、〝好き〟になったのは、両親のー―いや、二つの本家の狙い通りであり、当然の結果でもあったのかもしれない。
舞音は優しかった。いつも押し黙ったまま何も話そうとしない私に、積極的に話しかけてくれた。
楽しかったこと、悲しかったこと、全てを目を輝かせて語ってくれた。
適当に相槌を打ち、その優しい笑顔を見ているうちに自分のことも知って欲しくなった。
やがて六歳になった日に、毎日のように舞音に会いにいこうとして召使いたちの話を小耳に挟んだのが転機だった。
「詩様も舞音様もこのところは大層仲がよろしいらしいわね」
「あと四年もしたら〝産んで〟もらわなくちゃ困るんだもの、このまま続いてくれないと」
「でもねぇ。あんまりにも小さいわよ、お二人とも」
「しょうがないわ、〝しきたり〟だもの」
「〝少年〟と〝少女〟であることに意味があるのよ――そうでなくなったら、子供が居ようと居まいと〝死んで〟いただくしかないのよ」
子供ながらに内容を理解して寒気がしたのを今でも覚えている。
その会話の内容は耳にこびりついたまま、十七になっても剥がれてはくれない。
勿論、全ての意味がわかったわけではない。
「子供」、「産んでもらう」「少女」「死んでいただく」。
――十分だった。
慌てて座敷牢へ向かった。
すでに待ってくれていた舞音は一人でじっと外を見つめていた。
息を切らして駆け込んで来た私にいつも通りの笑顔を向けてくれる舞音を見ると少しだけ落ち着いた。
震える私を抱きしめて、「話してごらん」と囁いてくれたその声に、脆い涙腺は一瞬で崩壊して全てを吐き出していた。
「ねえ、逃げよう。一緒に逃げよう」
必死だった。死にたくなかった。
〝死〟の意味すらまともにわかっていないくせに、怖かったんだ。
舞音はわかってくれた。いつものように笑って、頷いて、「良いよ。一緒に逃げよう」そう言って頭を撫でてくれた。
夜中になるのを待って、私たちは座敷牢で最後の本家での時間を過ごした。
二度と戻るものかと、心に誓った。
やがて明かりが全て消え、人気が無くなった真夜中に二人で座敷牢を出た。何も持たずに出て行くことに、不安を全く感じていなかった。
最初は上手く行っていた。でも、本家の裏口に回って塀を越えようとしたとき、丁度見回りをしていた者に見つかってしまった。
その瞬間頭が真っ白になって、私は恐怖と不安で動けなくなってしまった。
大声で捕えよ、と叫ぶ声にも一つも動揺せずに、舞音は冷静に見上げるほど高い白塗りの塀にひらりと一飛びで登り、張り出した瓦から手を差し伸べてくれた。
「大丈夫、できるよ」と励ましてくれた笑顔だけが頼りだった。
その手を取って、舞音が引き上げてくれようとした直後、大勢の足音が騒々しく怒声とともに響き渡った。
ぐいっと腰帯を引っ張られ、たくさんの手に乱暴に地面に引き倒された瞬間、「殺せ!」とどこかで聴こえた気がした。
恐怖が視界を紅く染め――ぷつりと。何かが切れた音がした。
そこから何も覚えていない。
気がつくと、ぼんやりと視界が揺らめいていた。
熱くて、でもほっとするような暖かさと、恐ろしいほどの深淵を持つ「炎」が、パチパチと真紅の火花を散らして燃えていた。
起き上がろうとすると全身に鈍い激痛が走った。
「……気がついたかい?」
掠れた舞音の声がすぐ耳元で聴こえた。
背中に温かさを感じる。
「…………ごめん、君を止められなくて」
浅く、掠れた息づかいを聴きながら、私は自分が何をしたのかを知った。
*
本家は焼け跡さえ残さずに全焼してしまった。
*
やがて噂が流れるようになる。
〝炎雫〟と〝氷雫〟の二人の子供が逃げ出したという噂が。
ひっそりと、けれども徐々に身体を蝕む毒のように、じわりじわりと広がっていった。
私たちは逃げ出した。
走って、走って、走って逃げた。
脚が痛くなるほど走って、桜吹雪が出迎えてくれた。
立ち並ぶ、たくさんの長い番屋と、四方を囲むように咲き乱れる桜のある街。
真っ赤な風車が涼やかな風を運んでくれる。
ここまで来れば、安全だと思った。
もう大丈夫だと思っていた。
何もなくても。二人で居れば生きていけると思っていた。
あても無くぼろぼろになった少年と少女が手をつないで彷徨っていると、商店街の人々は温かく「孤児」を迎えてくれた。
寝る場所と温かい食事をくれた。そして笑顔をくれた。優しさをくれた。
本家では決してもらえなかった、たくさんのモノを。
身寄りの無い子供たちは私たちだけではなかった。
そんな子供たちを一所に集めて、私たちは生きていくことにした。
なんとかなるような気がした。
あの日、大勢の黒子たちが、青藍を殺しに来るまでは。
私を、舞音を、殺しに来るまでは――――。
*****
語りが95%を占めました。
どこかで聴いたような設定だったらごめんなさい。
詩と舞音の昔話、如何でしたか?w
近いうち、サークルで黒子たちを出そうと思ってます。
イベントをお楽しみに。
お久しぶりです!
古き良き、というわけにはいかない、悪いほうの風習ですけどね……
昔はいっぱいあったんだろうな、と思うと激しく調べたくなりますw
かけおちですよお!逃げ切れてないけど!
フヒヒサーセンですw
どうぞしちゃってください短いですけどwww
昔ながらな風習といいますかしきたりにぐっと胸を掴まれました…。
かけおちストーリー素敵すぎます!!!
詩ちゃんにはもっと笑ってほしいです、あう。
これからのイベントにうきうきしている自分もいるのがお恥ずかしい←
午前中からノリノリで書き上げちゃいましたwww
頑張ってね、逃げようとしたんだけどね……うん……
ふふふ!さあてどうしようかなあ!!ty
完全にオリジナルストーリー化しちゃったからなーwww
出ますよおお!!
あざす!お待ちしてまっせえ!
逃げ出す場面とお家が焼けてしまった場面で鳥肌が凄かったです……。
またも登場した黒子のことも、大変気になります。
詩ちゃんには是非十八歳を越える未来を辿って欲しいです……
まだまだ終わりが見えないハイカラワールドがかなり中毒ですもうww
黒子が出るですと!?
全力待機でIN率整えておきます!!
昔って陵辱とか普通にありましたんでね、入れてみましたw
だから詩の夢が「十八歳になること」なんだ、って思ってもらえたら、それはとっても嬉しいなっt(爆
はじまっちゃいますよー。
身寄りの無い子供たちが居た、というのも一つのポイントなんですよね私の中では。
むしろ漲って良いのよ☆
青藍は……うん……ね。(コラ
ふふふふ!悪い奴らです!!本家の生き残りの人なんですけどね。
門外不出なので黒子に変装してます。
「大丈夫、できるよ」は私も言われたら泣かない自信がない(
よし!したってください!!!!
近いうち……ゴールデンウィーク、もしもみんなが居たらやりたいなって思うよ!
お、初代青藍さん…!!
ご飯たべながら見させてもらいました←
おうふ、ってシーンもありましたが全部みさせていただきました!!←
そんな悲しい過去が…。涙
ていうか、詩ちゃんの本当はそうなくてはならない運命というものが悲しくて!!!
さすが詩ちゃんたちですね…孤児院のみんなを引き連れ…!
そこから始まるわけなのですね、ぐふふ!
申し訳ないのですが、大変興奮しました▼土下座
が!
そんな深い過去が・・・、1代目の青藍さんが気になって堪りません。
そして、黒子さん達が憎たらしくてたまらない・・・!ぐぬぬ・・・、
というか逃げる時に、思わず少し涙腺が緩んでしまいました・・・・・、
そんな黒子さん達をサークルでぼっこぼこ、に・・・(多分できない)・・・したい、です。
イベントをわくわくしながら心待ちにしてますね!