「契約の龍」(89)
- カテゴリ:自作小説
- 2009/08/03 00:28:01
俺が寝ている間に、どういう話し合いがあったのかは知らないが、その日の午後、起きてみると大公の遺体の管理は、魔法使いに任せることに決まっていた。
「…その…彼女を「使う」っていう件については?」
話し合いに割って入る形になるが、一応の確認はしておこう。
「一応、話は伺いました。何に、どう使うか、という話は聞いていませんが。……今日明日にも、という事でなく、彼女を損壊するような事にならないのであれば……耐えられる、と思います。もともと、ここで彼女を弔いながら余生を過ごすのも悪くないなあ、とは思っていたので」
「余生って…」
まだそんな年齢でもなかろうに。
「まあ、半分は冗談ですけどね。彼女のおかげで、贅沢さえしなければ一人暮らしは何とかやっていける程度の蓄えもできましたし。…前々から言っていたんですよ。自分が死んだら、今まで通りのやり方では、「魔法使い」を続けるのは、多分難しいだろうから、老後の蓄えになるようなものを前もって贈っておく、って。…思ったよりも早い老後でしたがね」
「予想よりも早い、という事は、十分なほどの蓄えはできていないのでは…?」
クリスが心配そうに尋ねる。
「気前のいい方でしたから、私一人が食べていくだけなら、十分なくらいは。ほかにだれかを養おう、というのでは無理ですが」
「…いいんですか?それで」
「今のところは。…実のところ、自分でもまだ…彼女の、不在、に慣れてなくて」
彼女の死、ではなくて不在、と言うところが、重い。
翌日の夕刻、博物館・記念館・資料館めぐりから帰ると、意外な人物が宿を訪れていた。
…いや、彼がこの町を訪れる事自体は、特に意外ではない。ジリアン大公の死去によって、この町はゲオルギア家の直轄になったのだから。
とはいえ、「お忍び」である事がありありと判る服装で現れるのだから、…なんと言ったらいいのか。
訪ねてこられた当人もその人を見て、数秒間絶句した。
「…お久しぶりです。ええと……今回のご訪問は、いったいどういったご用件で…?」
クリスが「訪問客」の応対をしながら、随身の格好をした人の方をちらちらと気にしている。「訪問客」の方もどう対応したらいいのか、手探りな様子だ。
「それなんですが…少し込み入った用件ですので…よろしければ、部屋をとりましたので、来ていただけないでしょうか?」
込み入ってるのは「用件」ではないだろう、と思いながら――おそらくクリスもそう思っただろう――全員で「訪問客」の続き部屋にお邪魔することになった。
「…いったいどういう茶番ですの?その格好は」
続き部屋の居間に全員が着席したところで、クリスがそう突っ込んだ。
「この宿に泊まるような連中は、大抵知った顔なのでな、この服装ならば大方の人目は引かない」
普通の場合ならそうだが…随身を装うなら、もう少し目立たない挙動を心掛けた方がいいのではないだろうか?一緒に来ている、本職からの指導はなかったのだろうか?
「いつもこうなんですの?」とクリスが「訪問客」を装った随身に訊ねる。
「公式の訪問でない場合は、大抵。ハース大公のご葬儀の時のようなことも時には」
そう言われてみれば、背格好や髪の色などは、ずいぶん似通っている。後ろから、離れてみれば、取り違えても不思議はないほどには。…そういう観点であらかじめふるいにかけられているのかもしれないが。
「…で、本当のところ、ご用件はなんですの?ご視察、という訳ではなさそうですが」
クリスが「本当の訪問客」の方に正対し、核心を訊ねた。
「ふむ…そなたが始祖の絵姿を探している、と聞いてな」
「…ご存じなんですか?」
「詳しい事は言えぬが、そなたに見せたいものがある。…ただし、その場に至る事が出来る者は、限られている」
「………と、言うと?」
「そなただけを連れ出すことになるのだが…承服してもらえるか?」
「それは…その場所は、ここから近い、のでしょうか?」
「近い、かどうか、正確なところは判らぬ。だが、入り口は、近い」
入り口、と言うと、転移通路、か?
「わざわざここまで足をお運びいただいたのですから、拒否するのも大人気ない、ですわね。何を見せていただけるか、は教えていただけないのでしょうね?」
「…しかも、他言無用だ。そこへ至る事が出来ぬ者には、な」
「よほどの秘密なのですね。…もしかしたら、そのようなものがある事自体も秘密、なのでしょうか?」
「むろんだとも。ここにいる者は皆、口が堅いと思っているのでな」
それは、ご信頼に与って光栄、と思うべきなのか?
…それとも、口外したら、何か罰があるのか?
アップされたということは釣れたんでしょうか^^
今日はカニさんをお釣り上げしてましたけどw
お怒りが解けてよかったですね
その上レアのブルーヤビーも…
なのでしばらくアップは控えていました。