Nicotto Town


なんでもないこと


魔法使いになったお爺さん(前編)

マイトはかわいい男の子です。
時々お爺さんのところに行ってはお爺さんの研究のお手伝いをしていました。
お手伝いといっても特に何かするわけではなく、ものめずらしさ目当てに
遊びに行っているようなものでした。


お爺さんはマイトの家から少し離れた一軒家に住んでいます。
隣近所には家はなく、夜になるとこの家の窓からの光だけがぼーっと
照らし出され、周りは闇に包まれてしまいます。
だからマイトはこの家に来るのは昼間だけと決めていました。

昔はお婆さんと二人暮らしだったのですが、お婆さんが亡くなってからは
お爺さん一人で暮らしています。
マイトの両親は同居を勧めていたのですが、住み慣れた家を出るのに
ためらい、ずっとここで住むことにしています。


お爺さんの研究というのは実は、手品の実験のことでした。
どんな手品かというと、瞬時に物が別のところに移動したり
なんでもない木の枝が一瞬で花束に変わったりと楽しめるものばかりでした。
お爺さんは元々は手品とは全く関係ない科学の仕事をしていたのですがある事が
きっかけでなぜか手品の研究を始めたのです。


マイトはお爺さんの屋敷にくるとまずは亡くなったお婆さんの遺影に挨拶をします。
「おじいちゃんの手品は魔法みたいだね?」
「そうか?本当に魔法が使えるといいんだが、おじいちゃんはただの人間だから
できることと言ったら手品くらいのもんなのだよ」
「魔法使いは人間じゃないの?がんばったら魔法使いになれないの?」
「さあな、魔法使いも元は人間だからがんばったら本当の魔法が使えるかも知れないね」
「だったらおじいちゃんもなれるね」
「どうかなぁ、魔法はおとぎ話にしか存在しないからなぁ、
本当に魔法が使えるようになったらこの世界は大変なことになってしまうだろう」
お爺さんは少しだけ表情を曇らせました。
「お爺さんの魔法だったらきっと世界中の人がみんな喜んでくれて幸せに
なるんじゃないかな」
「そう言ってくれると何かやる気がでてきたぞ、ありがとう」

「だいたいお父さんとお母さんにはおじいちゃんのすごさがわかんないんだ」
マイトはとっさに手を口にあて、しまった!と言う表情になりました。
「ハハハ、そりゃ無理も無いな」
そして、分厚いノートに何やら訳のわからない記号やら文字を書き連ねはじめました。

「マイト、ちょっと見てな」
目の前には透明のグラスがあり、中には透明な液体が入っていました。
「これを一瞬で氷にしてやろう、見てな」
お爺さんはそう言って一本の小さなスティックをおもむろにコップの上でクルクルと
回しはじめました。
マイトはじぃ~っと穴が開きそうなくらい見つめました。
すると一瞬のうちに透明だった液体がみるみるうちに白く変わりだしました。
「おおおおおお」
マイトは口を突き出して驚きました。

これらはすべて科学がもたらす現象だそうです。科学は人の生活だけではなく、
こういった人の心を温かくさせることもできる、魔法なんて非科学的な存在は
おとぎ話を面白可笑しくするだけのただのネタに過ぎないとということが
お爺さんの持論でした。


マイトは棚に並べてあるいろいろな手品の道具を左からずーっと見回し、
「ぼくもおじいちゃんみたいな手品師になりたいなぁ」
「マイトにはいずれこれらの道具とこの指南書をあげよう」
「え!?本当に」
「しかしな、タダではないぞ、この指南書を端までよく読んで手品の何たるかを
勉強しないと立派な手品師にはなれんぞ」
「魔法使いにはなれないかなー?」
お爺さんはにやりと笑って
「どうかなー、それはマイトのがんばり次第かな」
「魔法使いにはなれないかもしれないけど、きっとお爺さんのような手品師になるよ」
「ははは、それは頼もしい」
「手品師になったらお爺さんにも見せてあげるね」

あれから10年もの月日が経ちました。
お爺さんは残念ながら数年前に天の上の人になってしまいました。
最期はおばあさんの遺影を抱いていたそうです。

アバター
2013/06/23 21:22
すべての謎は後編で解き明かされる!(←おおげさ)
アバター
2013/06/23 21:07
手品師になれたのかな・・・??




Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.