魔法使いになったお爺さん(後編)
- カテゴリ:自作小説
- 2013/06/24 23:02:10
マイトはお爺さんの影響を受け、科学や物理に興味を持ち、
勉強して大きな大学を経て学校の先生になりました。
しかし、どうしてもお爺さんと同じように世界中の子供たちを
楽しませてあげたくて、手品師に転職し、いろいろな国を回っています。
お爺さんが遺してくれた魔術の指南書にはさまざまな化学的な実験結果や
人を楽しませる方法などが記されていました。
マイト自身これらの指南書からオリジナルの技や新たな技術を生み出し、
人々に不思議と楽しさを与えるように勉強しました。
そんなある夜、マイトはお爺さんの残してくれた指南書をめくっていると
ページの端に何かの落書きのようなものを見つけました、それもほとんどのページに。
最初は書いているうちについた汚れだと思っていましたがページをめくるごとに
微妙につながっているように見えたので、すべての表紙の端が見えるように
ページの束を斜めにずらしてみてみました。
すると魔法陣のようなものが浮き出してきました。マイトはこの魔法陣が何を表して
いるか知りたくなったので、紙に書き写しました。
これだけだといったい何が書かれているのかさっぱりわかりません。
ただ、精巧に描かれた魔法陣が何かしらの意味を持つことを主張していることは
確かです。
なぜなら指南書に書かれているもののほとんどは化学実験の結果のような
ことばかりで化学変化を起こすようなものや、不思議な動きを物理法則から
編み出す方法など、実際にできることばかりが書き綴られているのですが、
暗号や呪文の類はまったく記されていませんでした。
それだけにこれだけのものが書き残されていることは
お爺さんが何かを言いたかったからだと確信できたからです。
もしかすると反対側にも何か書いてあるのかも知れません。
マイトは今度は背表紙を表においてページを斜めにずらしてみました。
思ったとおり、何か文字のようなものが浮き出てきました。
その暗号のようなものを魔法陣とは別の紙に描き写してみたところ
だいぶ崩れてはいますが、確かにそれは暗号のような文字だという
ことがわかりました。
これはまさに魔法陣と呪文じゃないか!
しかし、お爺さんは科学実験を応用した手品が専門だったはず。
しかも科学的根拠のないものは信用していなかったのに、こんなものを
書き残すはずはない。
たぶん何かの間違いか、ただの気まぐれのお遊びだろう。
試しにこの魔法陣の前で呪文を唱えてみるか。
たぶん本当の魔法だったら床にでっかい魔法陣を描いてこの上に
ヤギの頭とか乗っけるんだろうけどな。
「ハギタメク・・オブアザラス・・・・」
そうして呪文を言い終えると魔法陣を描いた紙が風に吹かれているわけでもなく
バサバサと震えだしました。
魔法陣の紙はそのまま宙に浮いたかと思うと火の気もないのに燃え尽きてしまいました。
しーん。
あれ?
何も起きないのか?やはりこれも何かの科学現象なのか?
ガ・ガガガ・・・・
頭の中でまるでラジオの電波が流れるような雑音が聞こえてきました。
雑音の中に人の声が混ざって聞こえます。
精神を集中して聞いてみるとなんと、声の主はどうやらお爺さんのようです。
「とうとう見つかってしまったな」
まさか本当にお爺さん?なんか声が若いけど。
「実はこっそりあの世と交信ができる魔術の研究をしていたんだよ。
わしが死ぬ前に何とか彼女と交信することができて、やっと出会うことが
できたってわけさ」
彼女というのはお婆さんのことのようです。
こっちの世界は、時間が逆に流れておってな、だんだんと若くなってきている。
ずーっと若くなって、最後は赤ん坊になり、そしてまたそっちの世界で生まれると
いうわけだ。
彼女が亡くなってから時間差があったからずいぶんと年の差ができてしまったが
こっちの世界で楽しく過ごしているよ。
マイトは元気か?もう大きくなってるだろうな。
「お爺さん!本当にお爺さんなんだね?」
ああ、そうさ。
ガガ・・ガ・・・
ワシの魔法なんてこんなことしか・・ガ・・ないから・・ガガ
大したことは・ガガ・・・
次第に電池が切れそうなラジオみたいにお爺さんの声が途切れるようになってきました。
「お爺さん、もっと話がしたいんだ!」
マイトはお爺さんにお礼がしたかったのです。しかし、無情にもだんだんと
声は遠くに去っていき、小さくなってきました。
おそらくお爺さんの仕込んだ魔法というのは一時的なものだったのかもしれません。
マイトや、お爺ちゃんのことはもう忘れて・・・ガガ・・の夢を追い続けなさい。
人生は・・ガガガ・・のためにあるんだ。
もう時間がない・・ガガ・・
また、来世で・・ガガ・・ことを楽しみにガガガ・・・
これ以上お爺さんの声を聴くことはできませんでした。
試しにもう一回魔法陣を描いて呪文を唱えても何も起こりませんでした。
おしまい。
どうもありがとうございます。
子供の目からすると手品も魔法も不思議なことに変わりないですね。
>穂夏さん
お爺さんはマイトに大事なものを残してあげようと一生懸命でした。
なぜあっちの世界と話ができる魔法を生み出したのか?
そこはおばあさんの存在がポイントなのです。
非情に高度な科学は魔法のように見える
いつかそこに到達するために
マイトは、がんばるのでしょう♪
読ませて頂きました。
魔法と手品は紙一重ですよね
こういうちょっと不思議な話は好きです。
楽しませてもらいましたw